2012 Fiscal Year Research-status Report
欠損型組換え麻疹ウイルスを用いた亜急性硬化性全脳炎の発症機構の解析と治療への応用
Project/Area Number |
23591510
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
綾田 稔 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90222702)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
扇本 真治 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 前期研究医 (80292853)
佐久間 悟 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 登録医 (80570605)
小倉 壽 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10115222)
|
Keywords | 亜急性硬化性全脳炎 / 麻疹ウイルス / 干渉現象 |
Research Abstract |
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)患者より分離された麻疹ウイルスには、脳内で感染を拡大できる特徴的な変異が生じている。この特徴を逆に利用すれば、SSPEの特異的治療法を開発することが可能である。また、ゲノムの大部分を欠いた欠損粒子はウイルスの増殖を抑制することが知られており、この干渉現象を治療に応用できると考えている。今年度は、麻疹ウイルスのH蛋白をコードする遺伝子を欠損した組換え麻疹ウイルスの作製のために不可欠なH蛋白発現細胞の樹立を行った。すなわち、T7ポリメラーゼを発現したBSRT7/3細胞およびSLAMを発現したB95a細胞に、IC323株のH蛋白を発現するプラスミドをトランスフェクトして薬剤耐性細胞を選択することにより、H蛋白を恒常的に発現する細胞、BSRT7-IchHおよびB95a-IchHを樹立した。それぞれの細胞でH蛋白が機能することをF蛋白との共発現実験で確認した。また、B95a-IchH細胞において麻疹ウイルスの増殖が可能であることを確認した。 また、将来のより有効かつ安全な欠損干渉型ウイルスの作製をめざすため、前年度に引き続き、SSPE大阪1株のF蛋白のアミノ酸置換とハムスターにおける神経病原性との関連を検討した。また、実際の患者への応用を考慮して、ワクチン株を基に神経病原性との関連性を検討した。その結果、現行麻疹ワクチンの一つであるCAM-70株を基に作製された組換えウイルスrCAM-70のF遺伝子にT461I変異を導入してハムスターに接種したところ、ハムスターは神経症状を呈して斃死した。このことから、ワクチン株においてもわずか1か所のアミノ酸置換で致死的な病原性を獲得することが明らかとなり、麻疹ウイルス野外株で明らかになったことが、ワクチン株でも該当することが証明された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
麻疹ウイルスH蛋白を恒常的に発現する細胞が樹立できたことで、欠損型組換え麻疹ウイルスの作製に向けて大きく前進した。また、将来の臨床応用に向けて麻疹ワクチン株を基にウイルスを作製するための基礎実験を行ったところ、F蛋白のアミノ酸置換と神経病原性との関連が証明され、SSPEのF蛋白の機能の変化を逆に応用する本研究の合理性が再確認されたと考えられる。今後の研究においての課題点として、ワクチン株そのものが有する神経病原性に寄与する因子を同定して、これらを除去する方策を検討する必要があることが新たに明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、樹立されたH蛋白発現細胞とH遺伝子欠損組換え麻疹ウイルス作製用のプラスミドを用いて、H遺伝子欠損組換え麻疹ウイルスの作製を行う。これを、in vitroの感染実験、ハムスターへの感染実験に使用する。感染させたハムスターにおける脳内での挙動をウイルス学的、病理学的に検討する。これと平行して、欠損干渉型麻疹ウイルス(DI粒子)の作製を行う。 また、SSPE株のFおよびH遺伝子の構造と機能、神経病原性との関連性についての解析を継続する。特に、SSPE大阪1株、大阪2株のH蛋白のレセプター指向性の解析や神経病原性に関与する領域の特定に向けた実験を中心に行う。具体的には、既知の麻疹ウイルスのレセプター(SLAM、CD46、Nectin-4)との結合能を消失させると予想される各種の変異をH遺伝子に導入したプラスミドを作製し、F遺伝子と共に細胞にトランスフェクションを行ってH蛋白とF蛋白を共発現させて細胞融合能を比較検討する実験により、レセプター利用能の有無を判断する解析を行い、SSPE株のH蛋白が未知のレセプターを利用して感染拡大を行っていることを証明し、さらにはそれに関与するH蛋白の領域を明らかにするための検討を行う。また、CAM-70株の神経病原性を規定する遺伝子を特定するために、IC323株とのFあるいはH遺伝子組換えウイルスを作製して検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、組換えウイルスの作製および動物実験に使用する他、塩基配列の決定等のための消耗品に使用する。特に新たな備品は必要ではないが、不可欠な備品の修理の必要が生じた場合には修理費に当てる。また、これまでに達成された結果をまとめて論文にするため、論文の校正・投稿・掲載のための費用を予定している。
|