2011 Fiscal Year Research-status Report
高性能小動物用PETカメラと高磁場MRIを用いた統合的脳機能解析システムの開発
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23591752
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
百瀬 敏光 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (20219992)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関野 正樹 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20401036)
小島 良紀 独立行政法人国立がん研究センター, がん研究所, 研究員 (20167357)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | microPET / MRI / 小動物 / 脳解剖 / FDG / 糖代謝 / 脳機能 / fusion |
Research Abstract |
小動物用高分解能PET装置は、生体内の特定の標的となる蛋白構造を認識できるよう設計されたポジトロン標識化合物を用い、その体内挙動をダイナミックに可視化し、定量評価するための装置である。現在、疾患モデルマウスなどを用いた疾患の病態解明や創薬などの重要なツールとして期待されている。分子標的診断法を中枢神経疾患モデルマウスに応用するためには、詳細な脳構造の解剖学的情報を基盤にした解析システムの構築が不可欠である。そのためには高分解能で軟部組織のコントラストに優れた高磁場MRIによる形態画像の利用が最も適している。我々は、これまで、PETとMRIに共通したアクリル製マウス用頭部固定装置の開発を行い、頭部固定器具によるPETとMRIによる位置合わせが高い精度で行えることを検証してきた。また、F-18標識フルオロデオキシグルコース(FDG)を用いた脳PET画像と脳MR画像を融合し、同一断面のPET画像とMR画像を表示し、解剖学的情報の乏しいPET画像から脳局所の糖代謝指標を算出できる手法もおおよそ構築しつつある。本年度は、その解析システムを用い、脳内各部位の糖代謝定量指標の算出を試みその定量指標の安定性およびトランスミッションスキャンによる吸収補正の影響について検討をおこなった。糖代謝定量指標としては、糖代謝量の絶対値の測定には、少なくとも数回の採血を伴うため、実用的ではないことから、全脳平均放射能カウントに対する局所の放射能カウントの比(対全脳平均)を算出し、糖代謝指標とした。その結果、脳内各領域の定量指標は、吸収補正の有無で、有意差はみられなかった。また、各領域の変動係数も吸収補正の有無で有意差を認めなかった。以上のことから、アクリル製の頭部固定具を用いて対全脳平均カウントに対する局所糖代謝相対値を用いることにより、疾患病態評価に十分利用できる可能性があることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、高精度小動物用PET装置を用いて、定量性の高い脳内局所の生理学的、生化学的パラーメータを正確な解剖学的位置情報とともに入手することである。そのためには、正確な解剖情報を得るためのシステムを確立することとそのシステムを用いて定量性に関する検証をおこなう必要がある。我々は、これまで、同一マウスに対してMRとPET共通に利用できるアクリル性頭部固定装置の開発をおこなってきた。その装置により、両者の高い位置再現性が得られることを確認している。本年度は、同システムをもちいて、すでに撮像されてマウス脳FDG-PET画像の局所脳糖代謝の指標となる対全脳平均カウント比(SUV-R)を算出し、その変動係数および吸収補正用のトランスミッションスキャンの影響を評価した。その結果、脳内各領域の個体差による変動係数は、概ね5%程度と少なく、安定した指標であることが示された。また、吸収補正の有無による各領域のSUV-Rの有意差はなく、吸収の影響も少ないことがわかった。このことは頭部固定具を用いても、吸収補正用のトランスミッションスキャン(通常30分間)を省略できることを意味し、麻酔を伴うPETのデータ収集が、短時間の撮像時間で済むことが確認できたことは重要な成果である。今回の結果は、今後、疾患モデルマウスにおける病態評価を本システムを用いておこなうための重要なステップとなる。また、今回、すでに作成されているデジタルアトラスと高磁場MR画像を合わせ込むことで、比較的大きい脳構造を高磁場MR画像上で、互いにトレースし、アトラスの精度を確認することもできた。このことは、比較的大きな脳構造を対象にしたマウス脳FDG-PETの定量的解析システムが概ね確立しつつあることを意味し、本研究が概ね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
PET画像は機能画像であるため、単独では解剖学的部位の同定はむずかしい。そのために高磁場MR画像を用いることを試みてきたが、我々の検討結果からMR画像でも撮像法によって得られる解剖情報も異なり、詳細な脳構造の同定は、MR画像単独でも困難であることが確認されている。これを補うのが、我々が開発をすすめている電子解剖アトラスである。すでにプロトタイプのものを作成しているが、さらに改良を加え、解剖学的分類を大きく4つのレベルにわけ、自動的にPET機能画像およびMR画像の部位を同定できるよう新たな解析用アトラスの作成を試みる。ヒトにおける脳PET画像および脳MR画像の解析には、標準脳画像をもちいて解剖学的標準化を行い、その後、全脳平均カウントで正規化し、統計画像処理をおこなうという一連の作業工程が必要である。これらのプロセスがシステム化されているものにSPM(statistical parametric mapping)というソフトウエアがある。これまで、サルのレベルでは使用可能であることが報告されているが、マウスレベルで使用可能かは十分に検討されていない。今後、T1強調画像、T2強調画像それぞれで撮像されたマウス脳MR画像を用いて、脳実質以外の領域の削除をthreshhold法と手動法を組み合わせて、丹念におこない、脳実質のみの画像を抽出する。複数個体の平均脳実質画像を作成するとともに、脳FDG-PET画像の平均加算画像も作成し、3つのマウス標準脳画像を作成する。これらの平均化された正常脳画像を我々が開発した脳解剖電子アトラスと重ね合わせ、詳細な部位同定を行う。一方、個々のマウスの脳画像を同一撮像法による標準脳画像を用いてSPMにより解析をおこない、解剖学的標準化がうまく機能するか評価するとともに、あらかじめ、マウス脳解剖電子アトラスから作成されたROI解析法と比較を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
小動物用PET装置の解析には、(1)正確な部位同定、(2)各脳構造の正確な輪郭抽出、(3)各脳構造における高い定量性が求められる。脳機能解析をどのような解剖学的スケールでおこなうのかは、目的によって異なる。本研究課題では、大脳・小脳、脳幹というもっともマクロな分類から、大脳皮質、線条体、視床、小脳皮質、嗅球、など比較的大きな脳構造の解析、さらに小さな脳構造の解析へと4段階の解剖分類レベルに対応した解析を目指し、電子解剖アトラスの新しいversionの作成をおこなう。そのために膨大な量の脳断層平面画像上の解剖学的構造の色を指標とした識別作業をほぼ手作業でおこなう必要がある。そのための研究補助員雇用のための人件費や色による識別作業を含めた作業遂行費用の使用が必要となる。また、SPMを搭載して画像解析をおこなうためシステムの構築やデータ保管のための消耗品も適宜必要となる。さらに、小動物用PET装置の精度評価のため、規格化された小動物を想定したファントムを用いてファントム実験を繰り返す必要がある。ファントム実験に必要なファントムの購入やファントム内に充填するポジトロン標識核種F-18FDGの購入、および実験準備に必要な消耗品等の購入に予算を使用する予定である。また、MRの維持のためのヘリウムガスやその他消耗品、アミロイド、タウ蛋白などをPETとMR双方でイメージングするための新たな分子標的用ポジトロン標識化合物およびC-13またはF-19等の安定同位体を用いたMR用標識化合物の合成のための試薬を購入し、合成実験をおこなう予定である。
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Research Products
(19 results)