2013 Fiscal Year Research-status Report
非侵襲性出生前診断法の開発を目指した妊娠初期母体血中の胎児細胞分離技術の確立
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23592424
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
孫田 信一 愛知医科大学, 公私立大学の部局等, 客員研究員 (00100165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒川 景 日本赤十字豊田看護大学, 看護学部, 教授 (90399030)
佐賀 信介 愛知医科大学, 医学部, 教授 (40144141)
若槻 明彦 愛知医科大学, 医学部, 教授 (90191717)
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Keywords | 染色体異常 / 出生前診断 / 胎児 / 遺伝性疾患 / トリソミー |
Research Abstract |
妊娠女性の末梢血に胎児有核赤血球nRBCやトロフォブラストなどが低頻度で含まれる。 本研究ではそれらの細胞特性を利用して、母体血中から胎児細胞の分離を試みた。胎児細胞の特性とは、母体血球との比重の違い、有核でヘモグロビンを多量に含む特徴的な細胞形態、胎児有核赤血球に特異的なmRNA、及び胎児細胞膜特異抗原などである。具体的には、妊娠8週齢以降の女性から末梢血の提供を受けて本実験に用いた。それらの末梢血から定法によって赤血球を分離除去した。低調液で赤血球を破壊する方法も試みたが、この方法では胎児細胞自体が影響を受け、胎児細胞の特性を引き出すのに支障をきたす可能性があったので、一旦中止した。赤血球を除いた細胞液を用い、密度勾配液を用いた遠心分離法で胎児細胞の濃縮を図った。さらに、胎児細胞膜特異抗体を塗布したチャンバーによる胎児細胞の吸着を試みた。一方、FACSによる胎児細胞の分離法も検討したがまだ不十分である。これらの方法で得た細胞をスライドガラス上に伸展し、胎児nRBCに特異的なプローブを用いたFluorescence in situ hybridization (FISH法)で胎児細胞の検出を試みた。検出した胎児細胞で特定染色体のDNAをプローブにしたFISH法で胎児細胞の染色体数を調べた。各方法の精度を高め、最終的には確定診断法の確立を目指した。 我が国でも非侵襲的出生前検査(NIPT)が昨年から漸く開始された。しかし、それはあくまでもリスク値を確率で示す検査であり、確定診断ではない。本研究では、妊婦の母体血中に含まれる胎児由来の細胞に着目し、その細胞特性を利用した方法で胎児細胞を濃縮し、最終的に胎児細胞を分離する方法の確立を目指す。研究は徐々に進展しているが、母体血から胎児細胞の分離技術が確立されると、胎児細胞による「確定診断」が可能になり、その意義は極めて大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、母体血球と異なる胎児細胞の特性を利用して胎児細胞の濃縮、分離を図ったが、まだ完成には至っていない。 ①妊娠母体血中から胎児細胞の分離法を開発するための試料として、妊娠8週以降の女性から末梢血各10mlの提供を受けて研究に充てた。前年度に引き続いて妊娠女性に研究協力を要請してきたが、十分な人数の女性から協力を得ることができなかった。そこで、その代用として培養細胞株も用いて方法の開発に充てた。②胎児細胞膜抗原や胎児細胞の特性をできる限り温存する方法で血球を分離することが重要である。得られた検体を用いて、母体血中に含まれる胎児有核赤血球(nRBC)の分離を目指した。胎児有核赤血球の細胞比重の違いに着目し、その比重に合わせて厳密に分離液を調整した。これまで胎児有核赤血球は細胞間で細胞サイズや密度にばらつきがあり、胎児細胞の回収のためにあまり厳密に最適密度を絞れないことが判明したので、より効率的な方法の改良が必要になった。さらに回収率を高めるための方法を考案して実施している。③胎児細胞膜特異抗体を内壁に塗布した胎児細胞分離用チャンバーに胎児細胞リッチな細胞混合液を入れ、静かに攪拌してチャンバー内壁に胎児有核赤血球を付着させた。この攪拌の条件(攪拌の方法、温度、細胞密度など)の検討が必要である。この方法には胎児細胞により顕著に特異的な新たな抗体を確保することが最も重要である。④胎児細胞の濃縮液を用いて、蛍光色素で標識した細胞膜特異抗体でこれらの細胞を処理し、FACSを用いて胎児細胞を回収するための方法を検討してきたが、具体的な成果はまだ得ていない。⑤男児の妊娠女性の末梢血から、上記の方法で得た胎児細胞濃縮液の固定標本を用いて、CEP-Y プローブなどによるFISH法でXY細胞(胎児由来の細胞)であることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
妊娠女性の末梢血中から胎児細胞の分離法を開発するために、平成26年度は研究協力に同意した妊娠8週以降の女性20人からそれぞれ10ml程度の末梢血の提供を受けて研究に充てる(研究分担者、若槻が実施し協力を得る)。そのほかに、胎児有核赤血球(nRBC)の代用として有核赤血球細胞株も本研究に用いる予定である。胎児有核赤血球(nRBC)及びトロフォブラストについてさらに効果的な分離法を考案して実施していく。胎児細胞膜特異抗体を培養チャンバー内壁に塗布し、遠心分離等で得た胎児細胞リッチな細胞液を入れて胎児細胞を選択的に壁面に付着させて回収を図る。既知の抗体のほかに胎児細胞膜に特異性を有するナノ抗体について情報交換し、入手を図る(主に孫田が実施)。一方、蛍光色素標識した胎児細胞特異抗体を胎児細胞に付着させ、FACSによる分離を試みる(黒川が担当)。これらの方法で濃縮、分離した細胞をスライドグラスに伸展させた標本を作製する。この標本を用いて、蛍光標識した胎児有核赤血球に特異的なmRNAをプローブにしたFISH法で胎児細胞を検出する。検出した細胞について形態学的特性を顕微鏡下で観察し、胎児nRBCあるいはトロフォブラストであることを確認する(佐賀が実施)。分離特定した胎児細胞に関して、各種のプローブ(No.13、18、21、X、およびY染色体などのプローブや、特定染色体の末端領域を識別するサブテロメアプローブ(TEL)、及び動原体近傍領域を標識するCEPプローブなど)を用いたin situ hybridizationで胎児細胞の染色体構成を確認する(孫田が実施する)。これらの方法を改良して胎児細胞分離技術を完成させていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の使用計画では、胎児細胞濃縮方法、胎児細胞分離方法の開発改良に約30万円の消耗品費、胎児細胞に特異的な抗体の購入に約40万円の消耗品費、FACSによる胎児細胞の分離技術の検討に消耗品費30万円、胎児細胞の特定のために、in situ hybridization法のプローブ購入等に消耗品費約30万円、情報収集のための学会参加費として旅費10万円をそれぞれ充当することにしていた。繰越金が生じた理由は、平成25年度に研究協力者が十分に得られず、研究の材料が一部不足し、培養細胞株を代用したこと、胎児細胞に特異的な新たな抗体を発見できず購入に至らなかったこと、目的に合致した学会参加できなかったために、合わせて50万円ほどの繰越金が生じた。 平成26年度の研究費は、平成25年度からの繰越額約50万円である。これらの使用計画は、より効率的な胎児細胞濃縮方法、胎児細胞分離方法の開発改良に、約20万円の消耗品費を使用する。FACSによる胎児細胞の分離技術の検討には残りの消耗品を使用する。胎児細胞の特定と細胞に含まれる染色体数の分析に用いるin situ hybridization法のプローブ購入等(染色体13、18、21、X、およびYなどを含む各染色体の特定部位を標識するDNA プローブ、特定染色体の末端領域を識別するサブテロメアプローブ(TEL)など)に消耗品費約30万円を充当する。
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