2011 Fiscal Year Research-status Report
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23592553
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桂 真理 東京大学, アイソトープ総合センター, 特任助教 (30436571)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相原 一 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (80222462)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | DNA損傷応答 / 網膜神経節細胞 / 緑内障 / 低酸素 / 放射線 / 53BP1 / ATM / γH2AX |
Research Abstract |
本研究の目的は、緑内障の主座である網膜神経節細胞において、いかなるDNA損傷応答が起こり、その細胞死に関与するのかを明らかにし、緑内障診断および治療における分子標的を同定することである。1.初代ラット培養網膜神経節細胞(以下培養神経節細胞と略す)に対して、DNA損傷応答蛋白の免疫染色を行い、評価可能なマーカーとしてγH2AXと53BP1を選択した。これらはDNA損傷時に損傷部位に集積し、増殖細胞、がん細胞では、核内フォーカスを形成することがすでに知られ、そのDNA損傷応答における重要性は確立されているが、培養神経節細胞においても核内フォーカスが確認できたことは、同様にDNA損傷応答が起きている有力な証拠を得たことになる。2.培養神経節細胞に4種類の模擬的緑内障負荷(グルタミン酸、低酸素、高圧、酸化ストレス)をかけ、上記2種類のマーカーでDNA損傷応答を評価したところ、低酸素負荷によって53BP1の核内フォーカス形成の有意な低下、グルタミン酸負荷によるγH2AXの核内フォーカスの増加が確認できた。3.8から10週齢のラットの右眼の視神経を圧迫し虚血状態を作成(視神経挫滅モデル)、左眼はシャム手術を行った。2日後に固定し、網膜神経節細胞における53BP1の核内フォーカス形成を観察したところ、53BP1の核内フォーカス形成は培養神経節細胞と同様に視神経挫滅眼で有意に減少していた。4.53BP1に関与する経路をさらに明確にするために、同じ実験系を用いて小脳失調性毛細血管拡張症原因遺伝子ATMの特異的インヒビターKU55933を添加した。この結果、低酸素負荷時の53BP1核内フォーカス減少と細胞死増加はATMに依存性であることが確認された。これらの結果より、網膜神経節細胞において、ATM-53BP1を介したDNA損傷応答経路がその細胞死に重要な役割を担うことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.ラット網膜神経節細胞におけるDNA損傷応答まず、初代培養網膜神経節細胞において解析可能なDNA損傷マーカーを選定した。一般に、DNA損傷は自然放射線をはじめとする様々な刺激によって常に起こっていると考えられる。そこで、通常の培養条件でDNA二本鎖切断のマーカーであるγH2AXと53BP1の他に非相同末端結合のマーカー、相同組換え修復のマーカー、酸化的DNA損傷のマーカーなどの免疫染色を行った。これまでに報告されている分裂増殖細胞と同様にγH2AXと53BP1はラット初代培養網膜神経節細胞において、通常の培養条件でも核内フォーカス形成の観察が可能であった。当初の計画では、DNA損傷応答が確認できない場合は放射線照射等を行い、それに対する反応を見ることも想定していたが、通常の培養条件でも核内フォーカスが観察されたため、2の模擬的緑内障負荷によるDNA損傷応答の実験に進むことができた。また、平成24年度以降に計画していた動物実験も行い、ラット眼球凍結切片の網膜神経節細胞で53BP1核内フォーカスが観察され、定量解析が可能であった。2.模擬的緑内障負荷に対するDNA損傷応答の変化1.の結果に基づき、4種類の模擬的緑内障負荷(グルタミン酸、低酸素、高圧、酸化ストレス)を培養網膜神経節細胞に加え、γH2AXと53BP1の核内フォーカスを定量解析した。その結果、グルタミン酸負荷によってγH2AXが増加し、低酸素負荷によって53BP1が減少し、平成23年度の目標を達成することが出来た。さらに、平成24年度以降に計画していた動物実験においても低酸素負荷の53BP1のフォーカス形成は減少することが確認できた。このように、平成23年度の計画は目標に到達し、さらに平成24年度以降に計画していた動物実験でも培養細胞で得られた成果を裏付ける結果が確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
臨床的には現在神経保護作用のある抗緑内障薬が広く使用されているが、まだその効果は確実ではなく、視野障害進行抑制が無効な症例も多数存在する。DNA損傷応答は一つのメジャーな経路であると予測してスタートしたが、平成23年度の研究成果により、このことを証明することが出来た。本研究を行う最終的な意義は、網膜神経節細胞が細胞死に至る複数の分子経路を明らかにし、神経保護するための治療戦略に多様性や個別性を持たせることである。今後はこの経路をさらに明確にし、神経保護するため具体的方策を提案していきたい。平成23年度、53BP1およびATMに関連するDNA損傷応答経路が網膜神経節細胞の細胞死に関与することが明らかになったので、今後はさらに上流、下流に存在する分子を明らかにしていき、治療のターゲットとなりうる分子を見つけたい。治療に目を向けるための一つの切り口として、現在その神経保護作用が注目されている抗緑内障薬、プロスタグランジンF2α等の薬剤とDNA損傷応答の関連についても明らかにし、眼圧下降以外の神経保護作用のメカニズムを分子レベルで明らかにしていく。それと同時に、これらの薬剤でカバーできない部分が何なのかを明らかにしていく。そして、より効果的に分子メカニズムにリンクした神経保護治療の開発を目標とする。一方で、モデル動物を使用した研究も進める。ヒトの正常眼圧緑内障は、数年ないし数十年単位で徐々に網膜神経節細胞が脱落していく。まずは容易に入手できるATMノックアウトマウス(ホモおよびヘテロ)において網膜神経節細胞の変性、脱落を観察し、虚血モデルよりも徐々に網膜神経節細胞が脱落する正常眼圧緑内障モデルとして適当か否かを検討してみる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.培養網膜神経節細胞におけるATM-53BP1に依存した細胞死抑制経路の詳細平成23年度に網膜神経節細胞の細胞死においてその重要性が確認されたATMであるが、すでに、網膜神経節細胞においてATMの下流分子として細胞死との関係が確定しているものは、NF-kBとp53が報告されている。これらの活性化はそれぞれのリン酸化抗体を用いたウェスタンブロットや免疫染色による細胞内局在の変化などで評価が可能である。また、分担研究者らは2011年にPGF2製剤が培養網膜神経節細胞において低酸素による細胞死を抑制することを報告している。そこで、培養網膜神経節細胞を用いて、これまでに神経保護効果があると報告されているPGF2製剤のDNA損傷応答に対する影響を調べ、その分子メカニズムを明らかにする。具体的には、53BP1のフォーカス形成とアポトーシス低酸素負荷によるこれらの分子の反応を観察するとともに、PGF2製剤を添加した際の前述のNF-kBとp53等への影響を調べ、その作用分子を明らかにする。さらに、この領域の新規分子報告は急速に進展中であるため、随時戦略を練る。2.ATMノックアウトマウスの解析ATMノックアウトマウスは1996年以来複数のグループで作成、解析が行われているが視神経の解析は十分に行われていない。毛細血管拡張性小脳失調症は極めてまれな常染色体劣性遺伝病であるが、ヘテロ変異体でも発がん頻度が増加するという報告もある。したがって、ATMヘテロ変異マウスに徐々に進行する神経変性が観察される可能性がある。ATMヘテロ変異マウスをThy-1陽性細胞で蛍光を発するCFP-Thy-1マウスと交配し、CFP-Thy-1-ATMヘテロならびにホモ変異マウスを作成し、継時的に網膜神経節細胞の脱落量を観察していき、正常眼圧緑内障のモデルとしての利用の可否を検討する。
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