2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒト舌表在性癌の切除断端における細胞異型・胞巣構造・浸潤様式の3次元病理診断
Project/Area Number |
23592975
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Research Institution | The Nippon Dental University |
Principal Investigator |
柳下 寿郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (50256989)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡部 貞夫 日本歯科大学, 生命歯学部, その他 (70573731)
島津 徳人 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (10297947)
青葉 孝昭 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (30028807)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 歯学 / 病理学 / 舌癌 / 浸潤 / 組織立体構築 |
Research Abstract |
近年、口腔粘膜表在性癌は増加傾向にあり、予後として多発・局所再発とともにリンパ節転移症例も含まれる。本研究では、舌表在性癌における局所再発・リンパ節転移の予後判定と予防につながる臨床病理診断基準の策定を目指して、外科切除症例における辺縁断端での異型上皮の表現型と深部断端での癌浸潤様式について免疫病理組織学的に検討した。本年度では、術前に超音波検査およびヨード生体染色が施された舌癌の外科摘出・パラフィン包埋試料から最大組織割面領域に相当する薄切を作成し、症例別に異型上皮の表現型を特異抗体(サイトケラチン CK4, CK5, CK7, CK8, CK13, CK17, CK18, CK19, E-カドヘリン, βカテニン)および腫瘍間質マーカ(CD31, CD34, CD105, D2-40, S100A4, αSMA, CD45, CD68)を用いた多重免疫染色により2次元免疫表現型マッピングと腫瘍実質・間質の立体構築を行った。周囲の健常粘膜上皮を対照として異型上皮、上皮内癌、微小浸潤癌、浸潤進行癌の特徴となる細胞表現型を明らかにした上で、舌癌割断面の薄切標本上で病変範囲をマッピングすることができた。これらの組織情報に基づいて、バーチャルスライドと多重免疫標識を併用した組織立体構築を遂行した。高分解能の3次元構築像では、細胞単位での核質・細胞質・細胞膜での分子局在を分別した上で、水平方向(上皮層内でのCK13/CK17の発現転換など)と深部方向(上皮・間質の接合面の形状や上皮層への脈管間質の侵入など)での病変境界の特徴を可視化できるとともに、上皮内での異型細胞と増殖活性の局在、微小浸潤にともなう孤在性癌細胞の出現頻度や腫瘍母集団の境界面からの最近接距離についての解析が可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多重免疫標識によるスクリーニングにおいては、細胞・組織レベルでの高精細な空間解像度とともに、癌病変と宿主組織との境界領域を広領域に俯瞰できることが望まれる。本年度では、舌癌の外科摘出・パラフィン包埋試料の最大組織割面領域から連続薄切切片を作製し、多重免疫標識により癌実質・間質の2次元免疫表現型マッピング法を確立することができた。癌実質・脈管内皮マーカ(サイトケラチン、CD34、D2-40)による2次元マッピングでは、最大組織割面に相当する広領域の連続薄切切片を用いることで、癌実質の広がり範囲や癌病変と宿主組織の免疫表現型について、高精細な空間解像度を維持した定量解析ができた。腫瘍微小環境を構成する全細胞集団(5~6×105個/mm3)を対象とした3次元解析では、癌細胞1個から数十個の微小癌胞巣を可視化できており、上皮形質(種々のサイトケラチン、E-カドヘリン、βカテニン)の発現のパターンと強度、減衰胞巣周囲から胞巣内部に広がる血管網とリンパ管網を直視することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
舌表在性癌の病理組織学的スクリーニングと組織立体構築を継続するとともに、臨床画像情報と立体構築画像との照合を進める。外科切除後の臨床経過(局所再発と頸部転移の有無)と切除断端における病理診断パラメータとの多変量解析を視野において、異型上皮→上皮内癌→微小浸潤癌→浸潤癌の進展にともなう3次元組織形態パラメータの変化を明らかにする。特に、病変辺縁のヨード不染域では健常上皮-異型上皮および異型上皮-上皮内癌のフロント面、病変深達部では微小浸潤癌領域における癌実質・間質の境界を3次元表示し、辺縁方向(健常上皮層)と深部(間質)に向けた孤在性の異型細胞と癌細胞の出現頻度に注目する。最終年度においては、3次元構造解析を遂行した全症例(年間10-12症例、2年半の実験期間内で25-30症例の解析完了を想定)の臨床画像情報・病理組織指標・予後経過を統合して、舌表在性癌の切除範囲の設定に有用な臨床・病理診断基準の確立を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画を遂行する上で必要な大型機器(組織アレイヤ、自動包埋装置、自動薄切装置を備えた回転式ミクロトーム、自動免疫装置、組織立体構築システム、大容量画像データの演算処理のためのコンピュータ)については揃っている。癌形質については多種類の特異抗体を用いた免疫標識で調べるため、研究経費では組織化学用の抗体の購入と病理組織連続切片の作製に必要な試薬とスライドガラス類などの消耗品の購入が主である。消耗品に計上したもう1つの経費として、臨床診断画像および病理組織画像をデジタル保存するためのコンピュータ関連の媒体やハードデイスク、画像解析ソフトの保守・更新にともなう経費を含んでいる。特に、高画質のバーチャルスライド画像では最低でも数メガバイトの容量に相当し、立体構築に使用する100枚の連続組織画像情報としては1症例について数ギガバイトに達する。これらの大容量情報を安全に保存するためテラバイト容量のNASを購入する。研究グループでは日本病理学会、日本癌学会、日本口腔腫瘍学会、International Academy of Pathologyなどの国内外での研究成果の発表を予定して(国内100千円×2研究者/年×3年、海外200千円/年×3年)おり、同時に研究成果を学術雑誌へ論文投稿に要する経費を計上している。その他の経費として、病理学講座大学院生に研究補助員(試料薄切・免疫染色・画像記録を分担)として参加してもらい、この研究補助員への謝金を支払う予定である(1千円/1時間×2時間/1日×150日/年×3年)。
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