2011 Fiscal Year Research-status Report
新しい視点からの局所麻酔薬の薬理作用と有害作用の研究
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23592977
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
福島 和昭 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 特任教授 (00002361)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 邦明 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (40133748)
平沖 敏文 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10125346)
藤澤 俊明 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (30190028)
渋谷 真希子 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (30399951)
木村 幸文 北海道大学, 大学病院, 助教 (00292037)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 局所麻酔薬 / Na,K-ATPase / リン脂質 / 骨芽細胞 / Ca-ATPase / アルカリ性ホスファターゼ |
Research Abstract |
ウサギの脳と腎臓およびラットの脳からNa,K-ATPaseを精製し,局所麻酔薬のNa,K-ATPaseに対する作用を調べた.局所麻酔薬リドカイン,プロカイン,ジブカインはすべてのNa,K-ATPase活性を濃度に依存して阻害した.特にリドカインは2%で完全に阻害した.各Na,K-ATPase活性を50%阻害する濃度で比較すると,活性阻害の強さの順序は局所麻酔作用および毒性の強さの順序と一致していた.また50%阻害濃度はラットとウサギおよび脳と腎臓間では大きな差はみられなかった.活性阻害の局所麻酔薬濃度依存性はすべてシグモイダルカーブになりHillプロットの結果,Hill係数nは0.4から0.6となり局所麻酔薬結合部位間に負の協同性の存在が示唆された.以上の結果は,局所麻酔薬はタンパク質に非特異的に作用し,局所麻酔作用も同じ作用機構により生じるという,われわれの仮説を支持する. 局所麻酔薬によるNa,K-ATPase活性阻害の可逆性と,その阻害機構について調べた.その結果,リドカインとプロカインによるNa,K-ATPase活性の阻害は希釈によって麻酔薬の濃度を低下させると可逆的に回復したが,ジブカインによる阻害は不可逆的であった.また3種類の局所麻酔薬はいずれもNa,K-ATPase反応過程のリン酸化中間体の形成を阻害し,その濃度依存性はNa,K-ATPase活性阻害の濃度依存性と類似していた.これらの結果は,局所麻酔薬がNa,K-ATPaseのリン酸化中間体の形成を阻害することによって活性を阻害することを示唆し,局所麻酔薬によるNa,K-ATPase活性の阻害が局所麻酔の一面に関与しているかもしれないというわれわれの以前の報告を支持する. また,スピンラベル剤でラベルしたリポソームの作製と,電子スピン共鳴スペクトルの測定による膜の流動性等の物性評価をほぼ終えた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載したように,平成23年度に予定していた研究のうち,1.Na,K-ATPase活性に対する各種局所麻酔薬の作用 - ラット及びウサギ脳から精製したNa,K-ATPaseを用いて、Na,K-ATPase活性に対する各種局所麻酔薬の作用の濃度依存性を測定し、麻酔薬の構造とNa,K-ATPase活性抑制作用の強度の相関を明らかにする研究を予定通り進めた.2.リポソーム膜に対する各種局所麻酔薬の作用 - 1)スピンラベル剤である5-DSAあるいは16-DSAでラベルしたリポソームを作製する。2)リポソーム中のスピンラベル剤の電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを測定し、スペクトルの線形の各計測値から、膜の中でのスピンラベル剤の配向や異方的回転を示すオーダパラメータ(S)と回転運動の速さを示す回転相関時間(τ)を計算する。スペクトルの線形と、これらSおよびτの値から、膜の流動性等の物性を評価する,もほぼ終えて,麻酔薬の作用を調べる準備は出来ている.3.ナトリウムチャネルに対する各種局所麻酔薬の作用 - 1)リポソーム(単層脂質二重層膜)を作成し、ブタ心筋から精製したナトリウムチャネルを組み込む。2)ナトリウムチャネルによるナトリウムイオン輸送を測定し、輸送に対する各種アミド型およびエステル型局所麻酔薬の作用の濃度依存性を測定し、麻酔薬の構造とナトリウムチャネル抑制作用の強度の相関を明らかにする研究は,ナトリウムチャネルの精製を進めているところである.3に関しては遅れているが,1と2はほぼ終えていることから,おおむね順調に進展していると自己点検評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,計画していた,1.培養細胞を用いた細胞レベルでの局所麻酔薬の評価 - 株化された培養神経細胞と、筋肉細胞に対する各種局所麻酔薬の細胞不活性化作用を、細胞内ATP量を測定する方法(三光純薬のバイアライトを使用)で調べ、細胞レベルでの局所麻酔薬の麻酔作用と毒性の総合評価とする。2.細胞膜内タンパク質に対する局所麻酔薬の作用 - 1)精製したNa,K-ATPaseを蛍光性のSH試薬であるBIPMを用いてラベルし、蛍光強度変化を測定することにより、Na,K-ATPase反応過程における分子構造変化を検出する。2)蛍光ラベルしたこのNa,K-ATPaseをリポソームに組み込んで蛍光測定を行い、蛍光強度変化を指標にして、リポソーム内でのNa,K-ATPaseの分子構造変化を検出する。3.リポソーム膜に対する各種局所麻酔薬の作用 - 各種局所麻酔薬存在下で、ESRの測定実験を行うことにより、生体膜のうち脂質部分に対する局所麻酔薬の作用を解析することができる。その結果をもとに、局所麻酔薬の細胞膜の安定性に対する作用と、麻酔薬の構造との関連について解析する。スピンラベル剤に加えて、Na,K-ATPaseあるいはナトリウムチャネルを組み込んだ、より生体膜に近いリポソームを作成してESRスペクトルを測定する。局所麻酔薬の膜に対する作用が膜タンパク質の存在により変化するか否かを検討する,を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)平成23年度未使用額の発生理由 i)消耗品の購入に科学研究費の使用を開始するのが遅れ,物品費が少なくなった.ii)研究発表のための旅行も1回となり旅費の支出も少なかった.iii)研究成果を2編学術雑誌に投稿してアクセプトされたが,投稿費用と別刷り代金の支払いが翌年度となった.以上により,かなりの未使用額が発生した.(2)平成23年度未使用額の平成24年度の使用予定 i)上記の2編の論文の投稿及び別刷り購入費用にすでに101,358円支出した.ii)研究は順調に進展しており,未使用残額1,423,077円のうち25万円を研究発表旅費,30万円を23年度中に得られた研究成果の英語論文校正,論文投稿及び別刷り購入費用に使用する.残りの873,077円は平成23年度に十分な成果をあげるところまで進展しなかったナトリウムチャネルに対する各種局所麻酔薬の作用の研究(上記,現在までの達成度の3に記載)に必要な物品の購入に使用する.具体的には細胞培養のメディウム,ウシ胎児血清,細胞内のATP含量を測定するバイアライトキット,スピンラベル剤,リン脂質,電子スピン共鳴スペクトル測定に必要な試薬と器具の購入などである.
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Research Products
(4 results)