2011 Fiscal Year Research-status Report
高齢受刑者の「生活世界」と、出所後のかれらの自立プロセスに関する実証的研究
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23610008
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
細井 洋子 東洋大学, 社会学部, 教授 (80073633)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
辰野 文理 国士舘大学, 法学部, 教授 (60285749)
小柳 武 常磐大学, 国際被害者学研究所, 教授 (90576216)
小長井 賀與 立教大学, コミュニティ福祉学部, 准教授 (50440194)
平山 真理 白鴎大学, 法学部, 准教授 (20406234)
矢野 恵美 琉球大学, 法務研究科, 准教授 (80400472)
渡辺 芳 東洋大学, 人間科学総合研究所, 奨励研究員 (70459832)
西村 春夫 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (60228228)
鴨志田 康弘 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (60408979)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 高齢者の犯罪 / 生活世界 / 受刑者調査 / 高齢者Web調査 / 地域生活定着支援センター / アクション・リサーチ / 社会的包摂 / 再犯防止 |
Research Abstract |
本研究では、「高齢者の犯罪」の抑止や再犯防止、高齢受刑者の保護更生や地域共同体での生活のあり方を見出すためのに、以下の3つの調査・研究計画を設定した。(1)受刑者の「生活世界」にまで踏み込む新しい視点の「高齢受刑者調査」では、当初の調査計画から発展し、研究グループと法務省矯正局との正式な協力関係に基づく調査活動として推進することとなり緊密な意見の交換を行ってきた。背景には、本課題は矯正局にとっても大きな課題であり、調査データや分析結果の共有に期待が大きく、矯正局から、データの代表性を担保するために調査対象を全国77刑事施設とし、男性300名、女性128名の高齢受刑者を抽出する詳細な調査計画が提案されている(平成24年3月)。調査方法は、「受刑者アンケート調査(本人記入)」と、当該受刑者の「処遇調査表」や生活歴を含む「身上調査書」の記録から転記する「受刑者調査(職員記載用)」の二つの調査で構成され、確定された各調査票は、研究グループの意図が十分反映されていると考える。さらに、双方の意見として、高齢受刑者の意識や行動の特異性を抽出するために、一般高齢者との比較分析を行うこととし、当初の計画にはなかったが、平成24年2月に「受刑者アンケート調査」に準拠した質問の他、生活、犯罪、家族、余暇、コミュニケーションなどに関する質問を加え、65歳以上の高齢者1,000名を対象とした「Web調査」を行った。詳細な分析はこれからであるが、一般の高齢者の実態を把握する上でも貴重なデータとして活用していきたい。(2)「地域生活定着支援センター」は平成24年3月に全国に設置が完了したが、その活動は地域により大きく異なり、現在関連資料の収集と関係者へのヒアリングを行っている段階で具体的な計画はまだ設定されていない。(3)海外事例調査は、研究者の都合がつかず、国内での情報収集で終わった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)受刑者調査では、当初想定した調査計画から大きく発展し、法務省矯正局の全面的な協力をえることとなり、これまでの計画を再構築することとなった。しかし、特に本調査計画は、受刑者本人の自記入式アンケート調査に加え、特に外部への秘密性の高い回答者の「処遇調査表」や「身上調書」を転記する「受刑者調査(職員記載用)」のセットデータが重要な意味を持ち、だれが転記作業を行うか、そのマッチングの方法の工夫はどうするか、統計上の最小適正サンプル数はいくつか、サンプル偏差を最小限にするのは、サンプリング方法と有効回答数の調整はどうするか、など多くの解決すべき事案が指摘され、その解決に多くの時間を要した。さらに平成24年1月の広島刑務所での脱走事件に対する矯正局の対応でより協議の場が取れなくなった。最終的には、詳細な調査設計や調査票の完成は平成23年度の末近くになり、実際の調査活動は、平成24年度以降となった。しかし、矯正局の担当者の人事異動があり今後動向を注視している。(2)高齢受刑者の更生支援施設である「地域生活定着支援センター」は平成24年3月にようやく全国の都道府県に設置された。セミナーや講演会で収集した資料やヒアリングでも、各施設の運営形態が異なり、それぞれ独自の取り組みが行われている。また、活用者には高齢の障がい者も多く、「アクション・リサーチ」の有効なサンプルの設定や調査のタイミングの設定方法の策定に時間を要し、具体的な実行計画にまで至らなかった。(3)海外事例調査は、経費の節減を考慮し、他の海外出張の機会を効率的に使用することとしたため、当初の計画にマッチした機会が得られず、平成24年度以降で行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
5月には、全体会議を開き、これまでの経過と実績の共有を行い、今後の研究活動の具体的な研究計画を協議する。 今後の研究の推進方策として、最も注力して行うのは、「受刑者調査」である。新しい法務省矯正局の担当者との信頼関係の構築には、研究メンバーが一体となって取り組み、協力関係をより強化させ、できるだけ早期の調査実施を要請していく。また、研究グループでは、調査の運営体制を整え、調査票の印刷や施設への発送、回収、データ化の体制、具体的な集計・分析計画、テキストデータの分析計画などの個別事項の対応を準備する。また、一般高齢者の「Web調査」の分析を進め、一般高齢者の実態を把握するとともに、「受刑者調査」の特異性の仮説設定を進め、比較分析に備える。受刑者調査が開始後は、経過情報の共有を密にし、メンバー全員の関与を積極的に推進する。 「地域生活定着支援センター」でのアクション・リサーチの実行計画の立案のために、7月までには、これまで触法高齢・障がい者の福祉の中心的な活動を展開してきた、長崎の南高愛隣会を訪問するなど、ことし全国の施設の情報を収集するとともに、6地点程度を選定し、積極的に現地調査と関係者との協力関係を確立する作業を進め、遅くとも9月までにはテストを開始できる体制を構築するように取り組む。 海外事例の研究は、6月に細井がスウェーデンでの調査を行う予定である。この機会に、これまで研究メンバーが持っている海外の高齢犯罪者への対応や更生保護の取り組みなどに関する情報の一元化を図り、相互に活用できる情報ベースを構築していきたい。そのことで、今後の海外渡航先の基礎情報として活用し、より新しい情報の効率的な収集を促進さることに役立てるとともに、研究資料としての価値を高めて行けれがと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度直接経費の総額は繰越金を含め約1,406,000円である。繰越が生じた主な理由は、予定していた海外事例調査が、研究者の都合がつかず、行えなかったことによる。東洋大学以外の研究分担者に対する分担金の合計は、270,000円とする。総額の個別区分別の配分は、「物品費」は、文献・資料などを含め全体で150,000円。「旅費」は、550,000円で、主に「地域生活定着支援センター」への訪問や、アクション・リサーチの出張経費を見込んでいる。「謝金」は、150,000円とし、取材や作業にかかわる経費を見込む。「その他」は、556,000円とし、「受刑者調査」に関わる作業やデータ入力作業、データ加工作業等に関する委託費、会議費、事務消耗品の経費などを見込む。繰越金の約106,000円は「旅費」に50,000円、「その他」の委託費に56,000円として配分した。
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