2011 Fiscal Year Research-status Report
振動刺激による血管新生の基礎的・臨床的検討―心地よい振動がなぜ創傷を治すのか?
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23612001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長瀬 敬 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師 (00359613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仲上 豪二朗 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70547827)
峰松 健夫 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師 (00398752)
森 武俊 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (20272586)
赤瀬 智子 東海大学, 健康科学部, 准教授 (50276630)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 振動 / 血管新生 / 創傷治癒 / 褥瘡 / Deep Tissue Injury / 糖尿病性足潰瘍 / 国際情報交換 / インドネシア |
Research Abstract |
1.ラット深部組織損傷型褥瘡モデルの治癒に対する振動刺激の影響の分子レベルの検討 本研究計画では、ラット・マウスの皮膚血流・創傷治癒に対する振動の効果を検討する予定であったが、23年度には特に、ラット深部組織損傷型褥瘡(deep tissue injury: DTI)モデルでの検討を行った。DTIとは、皮膚表層ではなく皮下脂肪・筋肉などの深部組織から損傷が進行するタイプの褥瘡で最近注目されている。ラットモデルは当研究室で開発した実験系(Sugama et al. 2005, Sari et al. 2010)を用いた。DTIモデルラットでは、組織圧迫後、深部組織の損傷進行に伴い、炎症細胞浸潤、低酸素状態の悪化(低酸素マーカーHIF-1免疫染色のシグナル亢進および核移行)、組織障害性タンパク分解酵素MMP-2,9の発現亢進・活性化が認められ、圧迫13日後に深い褥瘡潰瘍形成に至った。これに対し、DTIモデルラットを連日15分間小型の振動器(47Hz) で刺激すると、組織の炎症所見や低酸素状態が著しく改善し、MMPの発現は抑制され、創部は13日目でも浅い創傷にとどまった(DTI群20匹、DTI+振動群16匹による解析)。以上より振動刺激がラットDTI治癒を著しく促進することが明らかになった。2.インドネシアでの糖尿病性足潰瘍に対する振動刺激の臨床評価 本研究の連携研究者として、インドネシアTanjungPura大学のDr. Suriadiのグループに新たに加わってもらい、インドネシアの糖尿病性足潰瘍患者に対する臨床用振動器(マツダマイクロニクス社製「リラウェーブ」)の創傷治癒促進効果を検討する臨床試験の共同研究体制を構築した。現在数名に試験的に振動器の使用を開始し、有害事象の有無などの検討を行っている。現時点では良好な創治癒効果との印象を得ているとの報告を受けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初提出していた研究計画によると、23年度は培養細胞系での振動刺激、動物実験モデルでの振動刺激により、創傷治癒および血管新生の促進効果を検証する予定であった。現在、培養細胞系での検証は未着手であり、またラットでの実験についても、上記DTIモデルにおける血管新生の有無の解析にはまだ着手できていない。しかし、DTIモデルにおける振動の創傷治癒促進効果の検討は、大学院生の博士論文としてすでにまとめられたが、私どもの想像を超える著しい効果であった。本実験において、単に創傷治癒が促進されるのみならず、創傷治癒に伴う低酸素分子マーカーやタンパク分解酵素の発現・活性が振動によって抑制されるという分子メカニズムまで踏み込んだ解析がなされ、これは当初24年度以降のテーマであったものがすでに一定程度の解析が終了したものと考えられ、当初予定よりも研究の進捗が見られる部分である。また、インドネシアの新規連携研究者Dr.Suriadiとの臨床研究体制が構築できたことも、当初予定よりも大幅な進捗と言える。臨床での振動器使用による創傷治癒促進の検討は、25年度に予定されていたが、実際の臨床フィールド確保が当初から問題と危惧されていた。しかしこの共同研究は偶然にも先方からのリクエストで着手されたものであり、Dr. Suriadiはかつての申請者の研究室の留学生であることから、研究上の連絡・ディスカッションは密に行われており、今後実りある国際共同研究の進行が期待できる。以上の進捗状況を総合して考えると、当初の予定に達していない部分(培養細胞系での検討・血管新生の確認)はあるものの、当初予定をはるかに超えた進捗も極めて多く、全体としての進展は順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.DTIモデルラット振動負荷時の血管新生の確認:上記の如く創傷治癒効果、特に低酸素改善効果が著しいことから、DTIモデルラット振動負荷時の血管新生の亢進の可能性は高く、最優先で検討を加えたい。DTI群とDTI+振動群の深部組織において、血管内皮マーカー(CD31, Flk-1、など)の免疫染色で 血管新生の程度を確認・定量し、血管新生に関わる主な因子(振動による血管拡張の誘導因子と考えられるeNOS、その他VEGF, Angiopoetin-1など)の発現の振動による変化を検討する。2.振動負荷による血管新生を誘導するシグナル分子のin vitroでの解析:当初の予定ではin vitro実験→in vivo実験と研究を展開する予定であったが、上記DTIモデルでの振動の著明な効果の方が先に検証されてしまったことから、in vitro実験の位置づけを変え、DTIモデルで生じていると想定される分子レベルのメカニズムを明らかにするためにin vitro実験を組む方向性に変更する。即ち、培養細胞での血管新生系に振動を加えて、血管新生の亢進が確認された場合、上記eNOS, VEGF, Ang-1等をin vitroで阻害する(阻害薬、機能阻害抗体の添加、RNA干渉など)ことにより、分子カスケードを明らかにしたい。3.インドネシアの糖尿病性足潰瘍への振動負荷臨床試験:これはDr. Suriadiの指導のもとで、インドネシアの大学での院生の博士課程研究として計画されており、最終的には非振動群・振動群合計約60名でのランダム化比較試験を1-2年の間に行う計画となっている。結果の得られる時期にもよるが、振動器の創傷治癒促進効果がどのようなパラメーターによって決定されるかが判明した場合、そうした部分を改善させたバージョンアップ型の振動器の開発も視野に入れたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度に引き続きDTIラットモデルによる解析を行うため、動物費、飼育費、また組織の解析を行うための各種試薬(免疫染色用の抗体・キット、ザイモグラフィー、遺伝子発現解析用試薬など)などの支出が必要となる。特に前年度よりの繰越額(約46万円)が発生した背景には、in vitro実験の実施に先だって in vivo実験での振動のDTI治癒効果が著しいことが判明し、そちらの解析を最優先で進めたという事情がある。繰越額に関しては主に初年度に行わなかったin vitro実験に充当する予定でいる。しかし、研究の進行に伴いin vitro実験の位置づけも変わってきており、今後のデータ次第では更なるin vivo実験に使用する可能性もありうる。インドネシアでの臨床試験に関しては、臨床用振動器自体は業者より無償提供を受けており、23年度科研費によりインドネシアまでの輸出・運搬費(約5万円)を充当したが、24年度以降当面、現地での医療に必要な資金は現地大学での研究費より賄われ、科研費よりの支出の予定はない。現地での臨床使用に際して万一の有害事象の場合の対策として、患者からのインフォームドコンセントを得ることはもとより、インドネシアでの臨床における責任はDr.Suriadiが負うことを文面で承諾を得ており、この面でも科研費がカバーする予定はない。但し、今後インドネシアでの臨床試験の結果を踏まえ、振動器のバージョンアップを図る場合に科研費の使用が想定される。
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Research Products
(3 results)