2011 Fiscal Year Research-status Report
病腎移植に関する諸調査の実施とそれに基づく倫理問題の検討
Project/Area Number |
23613009
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高木 美也子 日本大学, 付置研究所, 教授 (00149337)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 病腎移植 / 生体腎移植 |
Research Abstract |
現在、日本では腎不全で透析治療を受けている患者数は30万人弱で、そのうち腎移植希望登録者は1万2500人である。死体腎や脳死からの提供は極端に少ないため平均待機年数14年となり、待機期間中に死亡する患者も多い。2007年における腎移植件数では年間1224例であるが、その内、親族間の生体腎移植は1037件(84.7%)で、それがほとんどを占めるという異常さである。そこで、腎移植に関わっている医師達にまずインタビューを行った。生体間ドナーは血族または配偶者等に限られているが、養子縁組をした場合など、その確認が大変難しいということであった。Salt lakeでは、腎癌のスペシャリストDr. Bishoff、移植医Dr. Fujita, Dr. Van der Werfに腎移植についてインタビューを行った。彼らの所属するIntermountain Medical Centerでは、比較的簡単なinformed consentで、移植手術の同意を得ていた。病腎移植については、親族間の生体腎移植で最近、提供腎に小径癌が見つかったが、レシピエントの同意を得て、癌の箇所を修復し移植したという。腎移植患者組織がしっかりしている奄美大島では、夫婦間の生体腎ドナー8名に対し、聞き取り調査を行った。全員ドナー側から提供を申し出ており、生命倫理的な問題はなかった。但し生体腎移植を行ったにも係わらず、レシピエントに急性拒絶反応が起こり、結局、透析に戻ったケースでは、ドナー側の心的ケアも必要であったと感じた。病腎移植は本来廃棄されるはずの腎臓を修復して使用するため、ドナーやその家族に肉体的、心理的負担をほとんど与えない。生体腎移植した当時、病腎移植が医療として認められていたら、そちらを選択したというドナーも何人かいた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.宇和島徳洲会病院で2009年から臨床研究として病腎移植が行われているので、そこでの実態調査を行う。病腎移植臨床研究として10例が既に行われているが、10例目の患者さん(レシピエント)がまだ入院中だったので、インタビューした。さらに病腎移植に関わっている医師-万波誠医師、万波廉介医師(宇和島徳洲会病院)、光畑直喜医師(呉共済病院)、宇和島徳洲会病院松原淳倫理委員会長にインタビューを行った。また病腎移植の立ち上げに関わった市立宇和島病院名誉院長・近藤俊文医師と会い、腎移植の歴史、病腎移植の可能性等について討論した。主に伺った項目は、生体腎移植において、腎提供する近親者の確認法/腎提供が親子間、兄弟・姉妹間、夫婦間における違い/提供者が年老いても1つの腎臓で大丈夫といえるか/ ドナーの健康状態が悪くなった場合、誰が責任を持つべきか/ICで特に必要な事項/IRBで必要な審議は何かなどである。また病腎移植については、病腎移植の必要性・危険性/ 学会が反対する根拠/部分切除の基準は?(renal score?)/レシピエントへの適用範囲(若い患者にも可能か)等であった。2. USAでは藤田士朗医師を訪ね、アメリカにおける腎移植、病腎移植についてインタビューを行う。Salt lakeでは、腎癌のスペシャリストDr. Bishoff、移植医Dr. Fujita, Dr. Van der Werfに腎移植についてインタビューを行い、日本と比べて比較的簡単な手続きで病腎(修復腎)を行っている実態の報告を受けた。3. 病腎移植弁護団へのインタビューは、2011年度に行っていないので、2012年に行う予定である。これらを勘案すると、達成度は90%といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.まずは親族間生体腎移植ドナーに対し、ドナーになった時の家族の様子、誰の希望でドナーになったのか、提供後の自分自身の身体的・精神的な変化や不安、更には、ドナー・レシピエント双方に病腎移植が移植時に可能であったなら、生体腎あるいは病腎のどちらを選択していたかなどについて、また透析患者には、病腎移植が可能であるなら、それを受けたいかなどのアンケート調査を行い、結果を分析する。2.移植医療においては、レシピエントが中心になり、ドナーの問題は御座なりにされがちである。ドナーの身体的・精神的な面における不安やケアについて、直接聞き取り調査したものをまとめ、Global Congress For Qualitative Hearth Research(ミラノ、イタリア)やアジア生命倫理学会(クアラルンプール、マレーシア)、その他で発表する。3.アメリカ移植学会(ボストン、USA)に参加し、marginal donorや病腎ドナーの可能性、サイコネフロロジーの現在・未来、ハイリスクドナーについての新ガイドラインなどの発表があるので、アメリカにおけるこれらの実態を探る。4.ドナー不足を解消する一助として、アメリカのUNOS(臓器共有ネットワーク連合)は病腎移植を開始する手始めとして、担癌臓器の移植に伴うリスク評価を行った(アメリカ移植学会誌2011年11号)。この件に関し、編集者ら(ケンブリッジ大学所属)は大いに評価している。UNOSのリスク評価を行った人たち、さらに編集者らに対し、インタビューを試みる。5.現在進行中の腎臓病患者による、病腎移植の原則禁止により治療の選択権と生存権を侵害されたとする、日本移植学会幹部を相手取った裁判は、生命倫理的な争点も多くあり、フォローしてゆく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年分より、12,519円が繰り越しになった。その理由は、研究関連本が絶版になっていたため版元からの購入が不可能となったためである。これに係わる費用は、中古市場からの研究関連本購入に充てる所存である。平成24年分の直接経費1,800,000円の使用計画は、まずは親族間生体腎移植ドナー・レシピエント双方、さらには透析患者に対し、病腎移植についてアンケート調査を行う(300,000円)。またアメリカ移植学会(ボストン)に参加し(320,000円)、marginal donorの可能性やガイドライン、サイコネフロロジーの現在・未来等の調査を行う。さらにUNOS(アメリカ臓器共有ネットワーク連合)関連の方々が2011年に発表した「臓器移植においてドナーから伝わる悪性腫瘍の臨床的リスク評価」という論文に関するインタビューを行う(バージニア州リッチモンド、360,000円)。インタビュー成果物は必要に応じ、医学を専門とするテープ越し・翻訳に出し、調査結果をまとめる(300,000円)。まとめた結果は、Global Congress For Qualitative Hearth Research(ミラノ、イタリア)(380,000円)やアジア生命倫理学会(クアラルンプール、マレーシア)(140,000円)で発表する。
|
Research Products
(1 results)