2012 Fiscal Year Research-status Report
生命現象の多様性を科学する新しい研究基盤の開発:日本固有齧歯類の実験動物化の試み
Project/Area Number |
23650236
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
越本 知大 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 教授 (70295210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
枝重 圭祐 高知大学, 生命環境医学部門, 教授 (30175228)
森田 哲夫 宮崎大学, 農学部, 教授 (90301382)
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Keywords | 実験動物学 / バイオリソース / Apodemus speciosu / Apodemus sylvaticus / 高コレステロール血症 / 生殖工学 / ゲノム科学 |
Research Abstract |
ユーラシア大陸に普遍的に分布する齧歯類であるApodemus属のうち、日本固有種のアカネズミ(A. speciosus)と欧州から導入したヨーロッパモリネズミ(A. sylvaticus)を対象に、新規バイオリソース開発を目的とした研究を継続した。人工繁殖が困難な前者については関連技術開発を、コロニーが確立している後者では、LDL蓄積型(ヒト型)高コレステロール血症の表現型解析と関連研究をそれぞれ継続した 【A. speciosus の人工繁殖技術の開発】 1)日長や気温の複合要因と繁殖との関連を明確化するため、繁殖特性の異なる複数地域の個体を用いて同一環境条件での飼育試験を継続した。さらに野生下での巣穴環境を模倣する飼育装置を開発し、ストレスを軽減した室内繁殖試験を実施した。2)個体の繁殖生理状態を経時的に追跡するため、非侵襲的で高感度なホルモン測定法の精度向上に努めた。3)本種を用いた社会学的試験と栄養学的試験を実施し、研究リソースとしての付加価値向上に努めた。 【A. sylvaticus の高コレステロール(HC)血症病態解析】 ヒト型HCを再現する小型実験動物開発をめざし、その病態特性を詳細に評価するため1)HCのヒト用治療薬であるメバロチンと、さらに作用の強いアトルバスタチンを用いた治療試験を実施した。2)HC個体の強制運動負荷試験を実施し、運動による血液性状の改善性を正確に検討するため、エネルギー摂取量と自発活動量のパラメータを加えた正確な測定を行った。3)本種コロニー維持の補助技術と、A. speciosusの人工繁殖補助技術とするため、卵子及び胚の凍結特性を測定し、関連する物理的指標からマウス卵との類似点と相違点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
【A. speciosus の人工繁殖法の開発】 本種の人工繁殖試験を継続し、飼育ケージに巣穴環境を再現して屋外飼育での季節性繁殖を誘導した。またこれにより室内飼育で周年性連続繁殖を誘導し、第4世代まで経代繁殖中である。(第30回九州実験動物研究会・山内・半田賞受賞発表)。この際、本種の後分娩発情と着床遅延を確認し、高い潜在繁殖性を示した(日本哺乳類学会2012年大会)。試料生成法の改善により性ホルモンの連続測定精度を高めた(日本実験動物科学・技術九州2012)。本種の実験動物としての有用性を示すため、社会認知機構研究に関するモデル動物化(日本実験動物科学・技術九州2012)や、実験動物化の過程での消化管内微生物の変遷履歴探索モデルとしての解析(第30回九州実験動物研究会)を試みた。 【A. sylvaticus の高コレステロール血症(HC)病態解析】 ヒト用高脂血症治療薬(メバロチン)のHCへの影響を検討し、総コレステロール(TC)値の低減効果からマウスとの差異を示した。しかしそれは微弱で一過性であった(日本実験動物科学・技術九州2012)ので、より効果の強いアトルバスタチン投与試験を開始した。強制運動負荷試験を実施し、それがTC値と摂餌量に影響しなかったため、本症の遺伝的要因との関連が強調された(日本実験動物科学・技術九州2012)。しかし自発活動量が減少したため、休息によるエネルギー補完の可能性も否定しきれなかった(第30回九州実験動物研究会)。本種卵子の凍結保存法開発にむけて卵細胞の水透過性を検討した結果、2細胞期まではマウスと相同だが、それ以降初期胚盤胞期までは透過性が低く、凍結法改善の必要性が示唆された(第30回九州実験動物研究会)。脂質代謝に関する遺伝的評価を目的に、肝臓での発現遺伝子の網羅的解析を開始し、cDNAの大規模シーケンシングまでを完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
【A. speciosus の人工繁殖技術の開発】 実験室内での経代繁殖を継続し、クローズドコロニー設立の基礎集団を作出する。また異地域個体群の繁殖試験を継続することで、季節繁殖性の制御要因と環境適応に関する複合検討モデルを作出する。性ホルモン連続測定法に関しては、糞を試料とした非侵襲的手法の精度向上に努め、本目的以外にも希少野生種の保全事業に広く応用できるよう努める。 【A. sylvaticus の高コレステロール血症(HC)病態解析】 ヒトHC治療薬であるスタチン系薬剤の効果を明確にするため、ストロングスタチンと呼ばれるアトルバスタチンを用いた治療試験を完了させ、さらに血中コレステロールの詳細な組成分析を実施することでHCのタイピングとスタチン系治療薬のターゲット分画を明らかにして、ヒト型HCとの類似/相違性を明確にする。また、エネルギー代謝との関連性を明確にする必要が生じたため、活動量と代謝量の同時測定を実施する。これらに並行して体外受精、培養系の条件設定と生殖細胞凍結保存技術を中心とした生殖工学技術の開発を継続する 【Apodemus属のゲノム科学的アプローチ】 本年度開始した肝臓cDNAのトランスクリプトーム解析は既に大規模シークエンスが完了しているため、解析断片のアッセンブリを行ってコンティグ作成作業が完了できれば、他の臓器での同様の解析を行い、アカネズミ属のトランスクリプトームデータベース構築の足掛かりとする。肝臓の解析情報は、既知齧歯類ゲノムとの類似性/相違性、ウサギイヌなど既存のHC研究モデルやヒトゲノム情報との比較の解析を行い、関連遺伝子の同定に向けた基礎データを集積する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【A. speciosus の人工繁殖技術の開発】1)異地域個体群の長期繁殖試験を継続するため個体採取旅費と謝金として10万円程度を計上し、疑似巣穴再現ケージを用いた飼育試験と併せて飼料等の動物維持費に10万円を計上する。ホルモン測定系の開発には、ELISA用試薬等に15万円を計上する(計35万円)。 【A. sylvaticus の高コレステロール血症(HC)病態解析】1)スタチン系薬剤投与試験および血中脂質プロファイリング受託解析に30万円を計上する。2)強制運動負荷の再試験は経費不要と考えるが、活動量と代謝量の同時測定のためのチャンバー購入は別途獲得した宮崎大学医学獣医学融合による統合動物実験研究プロジェクト経費を充当する。共同研究者の森田教授に10万円を充当して協力を依頼する。3)人工繁殖技術の開発には高知大学の枝重教授に10万円を充当し、引き続き受精卵の水および耐凍剤透過性測定試験と受精卵凍結試験の協力を仰ぐ。加えて、精子凍結、人工授精、受精卵移植試験に関連した試薬、消耗機器等で5万円を計上する(計60万円)。 【Apodemus属のゲノム科学的アプローチ】肝臓トランスクリプトーム解析のための追加シーケンシングには別途獲得した宮崎大学医学獣医学融合による統合動物実験研究プロジェクト経費を充当する。 これら研究成果の発表のための旅費、論文投稿費用等に経費の残り(10万円程度)を割り当てる。
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