2012 Fiscal Year Research-status Report
平安時代貨幣制度の変容・崩壊過程に関する基礎的研究
Project/Area Number |
23652161
|
Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
森 明彦 関西福祉科学大学, 社会福祉学部, 教授 (90231638)
|
Keywords | 平安貨幣 / 隆平永寳 / 富寿神宝 / アンチモン / 銅 / 鋳銭司 / 古和同 / 神功開寳 |
Research Abstract |
本年度の研究成果は、①銭貨鋳造復原実験、②富壽神寳小型化の貨幣理論的必然性、③平安銭貨のアンチモン由来に関する察の三つである。 ①前年度に続き和銅寛において鋳造実験を行った。本年度の実験は,前年度が元素比の違いによる完成銭貨の多様な在り方を観察することを目的としたことに対して、本年度は、元素比を異にする三種の地金の鋳造時の温度差が及ぼす影響についての観察を行った。その結果、温度と湯流れと鋳上がりについての感触を得た。 ②平安時代銭貨を特色づけるものは、頻繁な改銭とそれに伴う小型化・粗悪化である。①の鋳造実験は、その粗悪化が鋳造技術的に見てどの段階で生じるかを考察するために行ったものである。これに対して、文献史的立場からは、もう一つの特色である小型化の問題をその画期となった富壽神寳をとりあげて考察を加えた。従来、平安貨幣の小型化は、鉱山からの産銅不足が最大の理由とされてきた。貨幣史が鉱山史の従属変数として扱われてきた。本研究では、平安時代貨幣の小型化が貨幣独自の論理にも依っていることを提言したものである。そのメカニズムとして等十貨幣は、かならず旧銭と等価ににならざるをえず、その際、質の良い銭貨が流通界から多く消える傾向があり、良貨となった隆平永寳が逆に流通界から消えたことへの対策として、政府が意図的に悪貨を作成する必要があるととらえたのである。小型化の端緒は銅不足を原因とするのではなく、流通銭貨の中から旧銭の一掃を目的として行われたとの新見解を提起した。 ③平安時代初期の貨幣の中に、アンチモンを多く含むものがある。これを和同開珎の古和同と初期新和同の鋳直しと捉えた説を批判し、鉛同位体の在り方、鉛とスズの含有率から神功開寳の鋳直しとすべきであり、古和同が平安時代まで大量に残されてはいないことを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
挑戦的萌芽研究の主眼とした鋳造実験に関しては、二年度に渡って実験を行うことが出来、材質・鋳造温度の問題に関して一定の見解や見通しを持てている。したがって鋳造実験は順調にこなしていると評価できよう。また復原した銭貨および枝部分の成分分析に関しては、平成25年度を予定しており、これから分析すべき箇所を絞り込む作業を進行させていくところであり、予定どおりといえる。 今回の研究のもう一つの柱となる文献史および経済学的アプローチに関しては、業績の項で述べた②と③の成果については平成24年度に出土銭貨研究会において「平安時代貨幣史の二・三の問題」の題での研究発表を行った。二つの主題の内、③の主題であるアンチモンを大量に含む平安銭貨を古和同の遺直しとする説への批判は、平成26年春刊行予定の著書に組み込む予定である。また②富壽神寳を画期とする説に関しては、出土銭貨研究会の機関誌への投稿を予定している。文献史からの平安時代貨幣制度の変容過程に関する研究も、着実に進んでいるといえよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究推進の方策は、以下の三点を主眼とする。平成25年度は鋳造実験で作成した各種銭貨の中から、成分分析を行うサンプルを決定することから始まる。この作業を、まずは復元した枝銭の目視による十分な観察のあと、破壊検査・被破壊検査を行う箇所を指定して、鋳造時に投入した元素が各箇所においてどのような分布を示しているかを明らかにすることが、まず第一の取り組みとなる。 第二の方策は、第一の結果に基づいてそれと現存する平安貨幣の成分分布に付いての考え得る誤差を示すことである。この二年度にわたる鋳造実験で再現した銭貨は、目視レベルでも元素のばらつきがあることを確認出来るものと目視だけでは不可能なものの両様があった。平安貨幣の現物ではそれがどのように現れているか、所蔵機関に依頼して目視による観察を行い、その当てるべき成分分布のばらつきについて考察を加えていきたい。 第三は、実績・達成度の項でも述べたようにこの簡の研究成果を、自著と学術論文として学界に問うことである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の主な使用用途は以下の通りである。 ①研究資料・史料整理、データ入力を担当する研究支援者の雇用費。 ②平成23・24年度に鋳造再現した枝銭からサンプルを指定して非破壊・破壊の検査費用。 ③国会図書館等での文献調査のためにおこなう出張費。 ④奈良文化財研究所・黒川古文化研究所などでの平安銭貨実地調査のための出張費。 ⑤その他、電子計算機の周辺機器や記憶媒体・印刷用インクの購入費。
|
Research Products
(1 results)