2011 Fiscal Year Research-status Report
アイヌ-和人の民族関係史に関する文化人類学的再構築
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23652194
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
木名瀬 高嗣 東京理科大学, 工学部, 講師 (80548165)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | マイノリティー / アイヌ |
Research Abstract |
1) 思想としての〈アイヌ〉: 木名瀬(研究代表者)は、以前から整理を手掛けてきた作家・鳩沢佐美夫の関連資料についての精査・体系化を進め、未公刊資料の活字化作業を行うとともに、それを戦後のアイヌをめぐる言論・社会運動史のなかに位置付けて考察した。また、平取町紫雲古津のアイヌコタンで日蓮宗により1946年頃から行われてきた祭祀の参与的調査を行った。ウィンチェスター(研究協力者)は、1970年代前半に活動した佐々木昌雄の論考について、現代思想およびアイヌをめぐる近年の政治状況という文脈の中で評価し、近代という時代における差別の役割を考える上で洞察力に富んだ視点を提供していることを明らかにした。2) アイヌ文化研究史: 坂田(連携研究者)は、アイヌ口承文学における頻出モチーフ・話型の調査・分析を行い、頻出モチーフ・話型が物語解釈上およびアイヌの歴史認識を理解する上で重要な観点を提起していることを明らかにした。山崎(連携研究者)は、柳宗悦の著作群から「アイヌ」に対する眼差しを検討するとともに、北海道における民芸運動に注目し、「民芸」という思想が、現代につながるアイヌ物質文化に与えた影響について予備的調査をおこなった。3) 大衆メディアと知: 長岡(研究協力者)は、戦後のNHKにおいて制作・放送された代表的なアイヌ関連番組を取り上げ、その比較検討を通じて「テレビはアイヌをどう描いてきたか」を考察した。喜多(研究協力者)は、昭和20年代の「北海道文学論」の言説分析を行い、「北海道」の自己表象の構成過程に見られる「北海道」とアメリカ・ヨーロッパ・アイヌとの関係性について検討した。また、3月には、作家・向井豊昭と「アイヌ文学」をめぐる論考を書き進めている著述家の岡和田晃氏を招き研究会を行った。上記1)~3)のメンバーが執筆した論文集が、御茶の水書房から刊行される(現在、校正中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画において研究の全体を構成するとした3つのテーマ(「思想としての〈アイヌ〉」「アイヌ文化研究史」「大衆メディアと知」)に関して、いずれも基礎的情報の体系的整備を中心に進めた。連携研究者・研究協力者がそれぞれのテーマに関して現時点で提示しうる情報については論文の形で提出され、すでに図書として公刊可能な水準に達している。メンバーの全員参加による研究会は3月に1度東京で実施したにとどまったが、次年度はその回数を増やし、相互の連携をより深めていくことが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
総合的な分析によって論点を明確化し、実証・理論の両面における全体像の剔出に力を注ぐ。ワークショップなどを通じて研究成果の社会的還元を図るとともに、本課題終了後にはさらにテーマを拡大・深化させた新たな研究プロジェクトへと発展させることを前提として、内容的な厚みを蓄積するとともに、必要な課題と方策を検討する。テーマ毎の具体的な内容は以下の通り。1) 思想としての〈アイヌ〉: アイヌの日本における〈近代〉との葛藤という視点から、それが現在の日本社会との間に持つ連続/不連続面について、社会運動の展開など実践的なコンテクストを踏まえてさらに掘り下げる。いわゆる「アイヌ問題」の外延に位置する種々の運動や政策による動向をも視野に入れつつ、近年の理論的な文化研究がアプローチしているようなグローバルな思想課題と切り結ぶような形でこれらの問題を再定位する。2) アイヌ文化研究史: 口承文学研究・物質文化研究ともに、和人の研究者を中心とした言説の系譜とアイヌによる実践とを相互関係のなかに置き、その結果として生み出されてきた「アイヌ口承文学」や「アイヌ工芸」の意味を検討する。また、それがアイヌをめぐる歴史研究や文化研究一般のなかに援用される仕方を分析することで、アカデミズムにおける公式的なアイヌ・イメージおよびアイヌ-和人関係のイメージがどのように作られてきたかについて明らかにし、媒介としてのアイヌ文化研究のあり方について理論的考察を深化させる。3) 大衆メディアと知: 大衆メディアを通じたアイヌと北海道の表象について、戦後期の社会的動向と関連付けながら、作品表現の内容読解により踏み込んだ精緻な分析を行うとともに、1)で検討されるアイヌによる諸言説や 2)で検討される学知との相互関係について考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費の主な用途は、アイヌ研究関連図書。基礎資料の収集は次年度も継続して行う。本研究課題において設備備品としての機器購入は必要ないので計上しない。旅費は、研究会およびワークショップの開催(計4回を予定)、さらには北海道でのフィールドワークと文書資料調査のための出張に使用する。連携研究者2名および研究協力者3名の分も併せて計上する。謝金については、聞き取り調査対象者および研究会のゲストスピーカーによる専門知識提供への対価として計上する。その他、文献複写費、通信費、会議費等を計上する。また、次年度が最終年度であるため、ワークショップ等を通じて研究成果を社会的に還元するための費用として成果公開費を計上する。
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Research Products
(1 results)