2011 Fiscal Year Research-status Report
英国自然神学の解体と科学的経済学の確立:ダーウィニズムの社会科学的インパクト
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23653058
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
有江 大介 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 教授 (40175980)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 神学 / 経済思想史 / ダーウィニズム / 自然神学 / デザイン論 / ヴィクトリア時代 / 社会科学方法論 / キリスト教経済学 |
Research Abstract |
第一年度は、3.11震災によって研究計画の円滑な遂行に支障を来したが、当該課題についての欧米の標準的な解釈や我が国の関連業績を再検証することを2つの方向において目指した。第一に、個人研究として、ボイド・ヒルトン(Boyd Hilton, The Age of Atonement: The Influence of Evangelicalism on Social and Economic Thought, Oxford: Clarendon Press, 1988)やウォーターマン(A.M.C. Waterman, Revolution, Economics & Religion: Christian Political Economy, Cambridge: Cambridge University Press.)らによって提示された19世紀における「キリスト教経済学」(Christian Political Economy)なる概念の妥当性を検証した。 第二に、ダーウィニズムが登場するヴィクトリア時代中期以降のブリテンの知的状況について、「ヴィクトリア時代思想セミナー」と題する研究集会を、主催者として継続開催する形で当該課題に関わる知識提供を受けた。 (1)2011年8月7日、横浜国立大学ビジネススクール(YBS)サテライト教室、新井明「ヴィクトリア時代の詩と知識人」、泉谷周三郎「J.S.ミルの道徳論とコールリッジ」、(2)2011年11月25日、學士會舘(308室)、田中浩「ベンサムからグリーンへ」、(3)2012年2月4日、横浜国立大学大学院国際社会科学研究科棟(609演習室)、安井俊一「J.S.ミルの社会主義論の形成とウィリアム・トムスン-オウエン主義の影響を探る」 これらを通じて、「キリスト教経済学」なる概念の一面性や同時代の知的環境の一端を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、わが国の社会科学史研究の分野で、スミスやマルサス研究などの一部の例外を除いて全くといってよいほど検討されることのなかった、神学と科学、とりわけ自然神学と社会科学的思惟の確立とが密接に連関していた点につき検討することを目的としている。具体的には、19世紀中葉の英国において、ダーウィニズムが自然神学に最終的な打撃を与えたことと、古典派の予定調和的経済観の解体を経て、経済現象の「科学」的記述へと経済科学が変容した過程について、その相互関係とともに明らかにすることである。 先行する幾つかの科学研究費によって、18世紀前半のニュートン=クラークとライプニッツとの宇宙と空間を巡る論争から、J.バトラー主教の利己的人間像の経済的含意、18世紀後半のスコットランド啓蒙での社会科学の性格、19世紀初頭のペイリーの自然神学と当時の経済的思惟との関連、J.S.ミルの宗教論における自然の扱いなどを検討してきた。今回の申請研究はその延長上にあり、第一年度は当該課題の先行研究の再検討と同時代の知的状況の学際的確認を目指した。3.11震災により、研究スケジュールの遅れや再調整が求められたが、少なくとも、ヒルトンやウォーターマンらによって打ち出された「キリスト教経済学」なる概念が、そのイデオロギ-的側面に過度に依拠した整理であって経済学の持つ科学性について必ずしも十分に配慮していないことは確認できた。これは第一年度の研究計画がほぼ達成されたことを示している。 以上を踏まえて、第二年度は次の課題として、ペイリー以降の自然神学と経済学との内在的な関係を解明することになる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究方法は、研究代表者個人のみによって実施される人文・社会科学研究となる。具体的には、文献資料探索、文献資料読解、学会・研究会報告・参加、関連分野研究者との研究打ち合わせなどによって構成される。 第二年度(次年度)は、震災によって再調整や延期された研究計画の実現を図りつつ、当初計画の履行を目指す。具体的には、まず国内において、引き続き同時代のヴィクトリア期の知的状況について学際的な研究集会の企画や参加することで知見を獲得する。次に、当該課題の研究者数や研究蓄積の少ない日本国内では得られない情報や知見の獲得、資料閲覧のために、可能な限り英国ないし米国を中心とした外国での関連学会や国際セミナー等に参加し、ロンドンやケンブリッヂなどの研究課題に関わる図書館や研究施設に赴く。また、可能ならば継続する研究集会での報告を成果発表するための準備を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
第二年度(次年度)の予算執行については、上記の推進方策に示された研究計画に対応した支出を予定している。予定支出項目を順不同で列挙する。 学会・研究会参加費および旅費(国内・外国)、会場費、知識提供・研究補助への謝金、通信費、複写費、書籍・資料・電子データ購入費、消耗品費等、抜き刷り作成費等である。
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