2012 Fiscal Year Research-status Report
グローバル化とIT革命がもたらす異文化体験の変容:アジア系医療従事者の事例
Project/Area Number |
23653172
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
宮本 節子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (60305688)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅井 亜紀子 桜美林大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10369457)
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Keywords | ICT / 文化接触 / 社会・文化的アプローチ / インドネシア / 看護師 / 介護福祉士 |
Research Abstract |
本研究の目的は、国境を越えて移動する人々の異文化体験をICTがどのように変容したかという視点から、青年期における文化間移動の意味を探ることである。そのため、日本とインドネシアでEPAに伴う人材の国際移動が、メディアを通してどのように伝達されているのかを調べ、関係者への面接と受け入れ施設の訪問を続行した。また、時間とともに異文化体験がどのように変化するのか、帰国した元EPA候補者と面接し、日本体験のキャリア形成に及ぼす影響を調べた。 2013年度の成果は、 ①2008,9年に比して、2012年度はEPA看護師・介護士候補者のことが報道される回数は減少し、ニュースバリュがなくなり日常化したことが伺われた。また、インドネシア語の新聞ではEPAで渡日する人々の報道がほとんどなく、じゃかるた新聞(日本語)のみが継続的にEPAがらみの報道をしていることが分かった。 ②第4陣からは日本語予備教育がジャカルタで実施されている。国家試験には2012年1月末に介護福祉士候補者の第1陣が、2013年度には第2陣と第1陣1年延長組が再挑戦の予定だったので、2、3、4陣を中心に面接した。日本語力の伸展は顕著で、ICTの利用状況について語ってもらうことができた。昼間は勤務先で日本語環境、夜はインドネシア語環境の中で、親とは携帯電話、日本国内のEPA仲間やインドネシアの友達やキョウダイとはfacebookで、幼い子供や妻を残して渡日した人や恋人同士はスカイプなど相手が見える形でのコミュニュケーションがなされていることがわかり、結果は社会心理学会で発表した。 ③EPA看護師は、第1,2陣の不合格者が帰国していたので、追跡面接を実施。その結果、インドネシアの病院看護師に戻った人のほか、日本企業に通訳として勤めている人、病院勤務ではないが、医療知識と日本語力の双方を生かせる職業についている人がいることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(理由)昨年度はやや遅れているという報告を出していたが、今年度は遅れを挽回し、最終年に向けて今まで得た面接資料の整理を行い、成果を見通せる段階まで来た。 2013年度にジャカルタで実施した帰国者との面接調査では、13人と直接会うことができ、その人たちからさらに24人の人たちの現況について間接的に聞くことができ、EPAで来日したインドネシア人の若者の帰国後のライフコースの全体像がみえてきた。また、看護師をEPAに送り出すインドネシア側の看護学校や病院・保健省がもつEPAに対する複雑な思い(インドネシアの看護師資格が正当に評価されていない)も引き出すことができた。 今までに面接したEPAインドネシア人は92人、うち50人とは複数回接触することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本テーマに着手して以来、5年が経過した。この間、グローバル化の進展と共に、医療人材の国家間移動が増加していることがわかってきた。こうした人々の異文化接触の問題は、近年のIT革命により急速に変質している。インターネットからソーシャルメディアへの移行は急激であり、テクノロジーは国家間の経済格差を乗り越えつつある。マスメディアとパーソナルメディアの境界は、常に流動し、曖昧化している。 EPAによる医療人材の受入は、現在、量的にみれば、試験的な段階にとどまっているが、当初の想定を超える様々な問題が浮かび上がっている。同様の問題は、近い将来、医療人材の送り出し国にも生じるであろう。マスメディアは国家試験の合否に問題を焦点化しているが、グローバル化とIT革命という大きな波は、問題を個人化し、多様化した。この現状の把握に質的調査は欠かせない。本研究は萌芽的であるが、今日的な異文化接触研究の端緒を示す。国際学会発表や国内外の関係方面への報告は意義がある。具体的には以下を予定している。 1)平成25年1月の介護士国家試験、2月の看護師国家試験の結果を踏まえて、インドネシアのEPAで来日した若者がどのような意思決定をするかについて引き続き調査を続行する。 2)今後EPAに参加を考えている施設に参考になりそうな情報を盛り込んだ小冊子をつくり、研究の社会還元を図るとともに、学術雑誌への投稿論文を2~3執筆する。国際学会でも報告する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度当初予定額に30万余の残額が生じた理由は、主として以下の2つである。 1)海外調査地を、ジャカルタ以外の都市にも広げる必要性がわかった。そのため、次年度の渡航費として、幾分留保した。 2)24年度に実現できなかった国外学会発表を予定している。すでに申請し、発表許可を得ている。 上記を当初予定の25年度予算と合わせ、使用する予定である。
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