2011 Fiscal Year Research-status Report
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23653180
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
松本 敏治 弘前大学, 教育学部, 教授 (50199882)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 特別支援教育 / 言語学 / 発達障害 |
Research Abstract |
青森県津軽地方の発達障害に関わる福祉・教育関係者の間には「自閉症は方言をしゃべらない」との噂が存在する。申請者は、この噂を検討するため、おもに特別支援教育関係者を対象に調査を行い、この噂を支持する結果を得ていた。本年度はこの現象が生じた原因について理論面から検討を行った。この現象に関して、発達障害の研究者および現場の実践家からはプロソディ、語用論、マスメディアの影響を指摘する解釈が提出された。しかしながら、これらの説は先行データを十分に説明できるものではなかった。申請者は、日本特殊教育学会において方言研究者および言語発達研究者と共にこのテーマでシンポジウムを行った。事前打合せおよびシンポジウムでの議論を通じて、自閉症の方言使用の問題が方言の社会的機能についての理解の困難さからきているとの仮説を提出することができた。この仮説は簡潔に述べれば次のようなものである。 方言には以下のような社会的機能が存在する。1.帰属意識の表明機能、2.連携意識の表明機能、3.感情の表出機能、4.他者との差異化機能、5.緊張の緩和機能。対人的社会的能力に問題を抱える自閉症スペクトラム者にとっては方言の持つこのような社会的機能を理解することが困難なため、対人関係を調整するために方言を使用することが少ないと考えられる。もし使用した場合も、エコラリアか、少なくともその社会的機能を理解した上での使用とは異なると思われる。この仮説にもとづき、先行データについての検討を行った。多くのデータおよび臨床的経験が、この解釈により説明可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の達成目標は、先行するデータについて他の研究者から提出された解釈・仮説を理論的に検討し、より適合性の高い解釈を提出することであった。結果、方言研究者及び言語発達の研究者との協議を通じて、方言の社会的機能の側面からの解釈を提出することができた。本年度の研究成果は、この目標を達成するものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、東北以外の方言使用が強く残っているとされる地域で同様の現象が認められるかどうかについて、特別支援学校の教員に対してアンケート調査を行う。さらに、国立特別支援教育研究所等の研修に参加している全国から集まった特別支援教育関係者に対しても同様の調査を行う。また、個別の児童生徒の方言使用についても調査を行う予定である。具体的には、鹿児島および高知の特別支援学校の教員に対して、自身が接したことのある自閉症スペクトラム障害児と他の知的障害児の方言使用の程度について四件法にて尋ねる。また、個々の児童生徒の方言語彙使用についての調査も行い、青森県津軽地方にも行ってみられたのと同様の傾向が見られるか否かを検討する。また、LD学会においてシンポジウムを行い、理論的検討を進展させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
鹿児島、高知、神奈川への1次および2次調査のための旅費。鹿児島在住の言語発達研究者および弘前在住の方言学者のシンポジウム参加のための費用。方言情報提供者への謝礼。アンケート作成にあたっての印刷等諸費用。
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