2011 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける米国社会科教育論の受容とインパクト
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23653297
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
草原 和博 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (40294269)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アメリカ / 東アジア / 教科観 / 研究方法論 / インパクト / 受容 |
Research Abstract |
本研究の目的は,東アジアにおける米国社会科教育論の受容とインパクトについて解明することである。本年度の成果は,大きく以下の3点に集約できる。第1に,米国社会科を主導する研究者・実践者の「教科観・研究方法論」について,聞き取り調査を実施できた点である。W.パーカーをパイロット版に調査を開始するとともに,引き続いてC.オマホニー,B.バンスレッドライト,T.ソーントンらの教科観・方法論について,約60分にわたるインタビューを実施できた。本データは,すでに文字起こしを終えている。第2に,日本における米国の「教科論・研究方法論」の受容について,聞き取り調査を実施できた点である。全国社会科教育学会を拠点に,社会科研究の方法論を学的に確立するとともに,米国の社会科教育論を先導的に導入してきた森分孝治から聞き取りを行い,約3時間30分にわたるオーラルヒストリーを収集できた。本データは,部分的には分析を終えている。第3に,日本における米国の「教科論・研究方法論」のインパクトについて,文献調査を実施できた点である。全国社会科教育学会の学会誌『社会科研究』(1号~70号)に掲載された論文では,米国社会科の思想や方法がどのように選択,加工・解釈され,導入されているかを量的・質的に調査し,大きな傾向性を引き出すことができた。以上の研究から,日本の社会科教育研究者は,(1)米国の「教科論・研究方法論」を主体的・自立的に受容してきたこと,(2)そして米国とは異なる独自の体系(エンジニアリングとしての規範的・原理的研究)を確立してきたこと,(3)その性格には学習指導要領の法的拘束力や国家の教育権の大きさが影響していることが,明らかとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調に進展している」と判断した理由は,大きく3点ある。第1に,東アジアにおける米国社会科教育論の受容とインパクトが,「日本と米国」との関係に限られてはいるが,その実態がおおよそ解明されてきた点である。その成果は,公開シンポジウムや学会誌において,すでに報告できている。第2に,1の解明が,インタビューと文献調査の両面から進んできた点である。データの特性に偏りがでないように,(1)(学会誌に文献データとして記述された)客観的な事実と,(2)(当事者の声として語られる)主観的な理解の両面から,日本における米国社会科教育論の受容を描きだすことができた。第3に,日本と中韓のケースを比較する基礎的なデータがそろった点である。現段階では,日本の研究動向を集中的に分析することで,米国社会科教育論の受容を説明する枠組みを,仮説的ながらも構築できた。次年度以降,この仮説を手がかりに,東アジア各国の社会科教育研究の特色に迫っていく見通しを持つことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方を,年度に分けて述べる。平成24年度第1に,我が国における米国社会科教育論の受容とインパクトについて,引き続きデータを収集する。とくに(1)米国の理論・人物・実践等の選ばれ方,(2)研究・政策・実践に対する影響,(3)受容のプロセスに焦点をあてて,(1)(2)(3)をアンケート調査と聞き取り調査を通して明らかにしたい。第2に,我が国の社会科教育に影響を与えた米国の研究者・実践家とその実像を,引き続き解明する。彼らの「教科観・研究方法論」を,文献調査や聞き取り調査を通して明らかにしていく。第3に,一連の成果を整理し,社会科教育における「日本型教科論・研究方法論」の確立としてまとめる。成果は,CiceaやNCSS等の学会で報告したい。平成25年度第1に,日本の研究動向から明らかになった米国社会科教育論の受容とインパクトの構造を東アジア各国に拡張していく。日本でみられた諸現象が,中国や韓国でも同じように確認できるかどうか,現地での調査・聞き取りを通じて明らかにしたい。第2に,1の結果を整理して,「東アジアにおける米国社会科教育論の受容とインパクト」を説明するフレームワークを構築する。第3に,一連の成果を検証するために,シンポジウムを開催する。シンポジウムには,中国と韓国の先端的な研究者を招き,(1)中韓における米国社会科教育論の受容とインパクトを報告してもらうとともに,(2)日本との類似点と相違点,ならびにその背景について意見を求める。(3)また(1)(2)の報告内容に対して米国の研究者のコメントをもらう予定。本シンポジウムをもって,本科研の総括としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は,上述の計画を踏まえ,次のような研究費の使用を計画している。第1に,文字起こしに要する謝金である。次年度は,日米の研究者に対するインタビュー記録を再現し,分析を試みる。そのために,社会科教育に精通した個人・業者にインタビュー記録の文字起こしを依頼し,謝金を支払う。第2に,アンケート調査の実施経費である。次年度は,日本の社会科教育研究者に米国の「教科論・研究方法論」の受容についてアンケート調査を行う。そのために,アンケート用紙の印刷経費や郵送費,データの入力・解析に要する謝金を支払う。第3に,成果報告の旅費である。本研究は,米国と東アジアの「知的交流」をテーマとしているので,その成果は国内外の学会で報告することが期待される。また東アジア(中国・韓国)の研究者と打ち合わせを行うとともに,予備的な現地調査を実施する。そのために,相応の国内・外国旅費が必要となる。その他,上の研究を推進するために,消耗品を購入する。
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Research Products
(5 results)