2012 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける米国社会科教育論の受容とインパクト
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23653297
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
草原 和博 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (40294269)
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Keywords | 国際情報交換 / アメリカ / 社会科 / 研究方法論 |
Research Abstract |
本年度は,米国社会科研究者の研究成果と方法論が日本の社会科研究者にどのような影響を与えているかを調査・検討した。具体的には,全国社会科教育学会と日本社会科教育学会の学会役員121名に調査票調査を実施し,57%の回答を得た。その結果,大きく以下の傾向性を明らかにするをことができた。 1.日本の社会科研究者は,米国の社会科理論やカリキュラム開発・指導法開発の成果(おもに1970年代まで)の影響を一定程度受けているが,方法論での影響は小さい。とくに現代米国(おもに1980年代以降)で普及してきた実証的・経験的な研究の影響は明確には確認できない。 2.日本の社会科研究者は,米国の社会科理論やカリキュラム開発・指導法開発の成果に学び,日本の社会科カリキュラムや授業改善に役立てようとしている。米国の研究・開発の動向を,グローバルな研究動向の把握としてはもちろん,機能的でナショナル・ローカルな問題関心から捉えようとしている。 3.日本の社会科研究者は,実証的・経験的な研究よりも,規範的・開発的な研究を志向する傾向にある。これは,日本の研究者が参照する米国の成果や人物・理論は,米国で規範的・開発的な研究が盛んだった1960年代から70年代までのそれに集中することと符合している。 上のような傾向性がみられる背景として,日本の社会科研究者は,①「研究と開発」を相互に結びついた相互補完的な関係で捉えていること,②「研究者と実践者」は連携・協働して課題解決や授業改善に務めるべきと認知していること,などの理由が指摘できる。このような日本の傾向性は,③「研究」と「開発」を質的に異なるアプローチとして区別して捉え,④「実践者」は「研究者」が記述・説明すべき対象として見做される欧米の状況とは対照的である。 本研究の成果は,第61回全国社会科教育学会全国大会(岐阜大学)の自由研究発表で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去2か年にわたって,以下のことが解明されている。 1年次は,米国の社会科研究者の問題意識と方法論を,インタビュー調査を通して質的に把握し,傾向性の説明に努めた。2年次は,日本の社会科研究者の問題意識と方法論を,調査票調査を通して量的に把握し,その特色を解明できた。 このように日米それぞれの視点から社会科教育研究の理論と方法を把握し,相互に動向・状況を比較できる段階に至っている。また米国→日本に対する研究上のインパクトも,データとして確定できている。 以上のように当初に意図した研究は計画どおりに進んでいるため,「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
3年次の平成25年度は,大きく2つの研究を推進する。 第1に,日本に留まらない東アジア各国への米国社会科の影響を調査する。現段階では,韓国または中国の社会科研究者にターゲットを絞って,日本で実施した調査と同様の調査を行うことを予定している。この調査を通して,①米国→日本と②米国→中国・韓国ではインパクトの量や質にどのような違いがあるか,またなぜそうのような違いが生じたかについて解明していく。 第2に,これまでの研究成果を整理・体系化し,論文として公刊する。1年次に実施した米国の研究者に対するインタビュー調査,2年次に実施した日本の研究者に対する調査票調査の成果をまとめ,日本の教科教育学が培ってきた成果の強みと特色,ならびに将来にむけて乗り越えていくべき方法論上の課題について提起する。現段階では,日本教科教育学会の学会誌への投稿を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次の4点への使用を予定している。 第1に,中国・韓国の研究者との研究打ち合わせの経費(2回程度の渡航で30万を予定している)。第2に,調査票の中国語または韓国語への翻訳経費(10万円)。第3に,回収したデータの入力・集計を依頼するアルバイト謝金(5万円),第4に,これまでの研究成果を外国語で発表するための翻訳経費(5万円)である。 これらの使途にもとづいて3年次の研究を推進し,計画を達成するとともに,国内外に向けて研究成果のフィードバックに努めたい。
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Research Products
(4 results)