2011 Fiscal Year Research-status Report
クラウドコンピューティングによる大規模な離散逆問題の新しいGMRES型算法の構築
Project/Area Number |
23654040
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
野寺 隆 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50156212)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷 温之 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (90118969)
大野 義夫 慶應義塾大学, 理工学部, 名誉教授 (20051865)
山本 喜一 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20051873)
田村 要造 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50171905)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 非適切問題 / 離散型悪条件問題 / GMRES法 / Krylov部分空間 / 正則化法 / Tikhonov / 制約条件 / 逆問題 |
Research Abstract |
離散型線形悪条件問題は,逆問題などで多く見られる非適切な問題を表すモデル方程式の離散化による連立1次方程式であり,石油探索,医療画像処理など応用分野は広い.ここで,非適切な問題とは,Hadamardの定義した良条件問題のための3条件を満たさない問題,具体的には,解の存在性・一意性・安定性のいずれかを満たさない問題のことである. 本研究は,非適切問題から生じる連立1次方程式に対し,近似解の安定を図る正則化手法としてGMRES法を用いた並列計算向きのソルバーの開発を目的としている. 特に,GMRES法による正則化過程は,次の2つの過程に分けることができる.(1)GMRES法によって連立1次方程式の近似解を生成する(2)制約条件を用いて最適な近似解を決定するこの(1)と(2)の過程において,我々は,それぞれ従来よりも利便性を高めることを目的とした新手法を提案した.(1)に相当する従来の手法としては,近似解の構成に利用するKrylov部分空間に対して任意の空間を付加する手法が提案されている.そこで我々は,ユーザの空間選択の負担を軽減させることを目的とし,あらかじめ用意されたいくつかの空間の中から,近似解の構成に有利な空間を自動的に選択する条件を提案した.さらに,(2)における適切な近似解の決定を自動化するための制約条件,即ち,Simplified Tikhonov値を提案した.この値は,悪条件問題に対する古典的な正則化手法であるTikhonov 正則化の枠組みを利用したものであり,従来の反復法で収束判定に用いられる残差ノルムに加え,近似解のノルムを近似解決定の指標として用いることができる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
離散型線形悪条件問題に対する反復解法として,近似解の構成に利用するKrylov部分空間に対して,任意の空間を付加する方法が提案されている.しかし,従来,そのような空間の選択は,問題に依存しており,ユーザ自身に任されているので,どの空間を選択して付加してよいか判断することが難しかった.そこで我々は,ユーザの空間選択の負担を軽減させることを目的とし,あらかじめ用意されたいくつかの空間の中から,近似解の構成に有利な空間を自動的に選択する条件を提案した. 次に,適切な近似解の決定を自動化するための制約条件として,Simplified Tikhonov値を提案した.この値は,悪条件問題に対する古典的な正則化手法であるTikhonov 正則化の枠組みを利用したものであり,従来の反復法で収束判定に用いられる残差ノルムに加え,近似解のノルムを近似解決定の指標として用いることができる.さらに,制約条件の構成要素の決定は,すべてGMRES法を実行する際に自然にGMRES法の反復の途中に現れる値である.よって,新たに必要となる計算量の負担は小さい.また,Simplified Tikhonov値は,GMRES 法と共に用いることで,適当なタイミングでの反復終了が可能となった.
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Strategy for Future Research Activity |
大規模な離散型悪条件問題の近似解を効率よく求めるための総合的な反復解法に基づくソフトウェア開発が最終目標である.提案する新しい制約条件とGMRES法を利用することで,適応的にGMRES法の反復を適応的に終了することができるようになった. 本年度は,離散型悪条件問題から得られる連立1次方程式の算法(アルゴリズム)およびソルバー開発に重点をおいて研究を進めてきたので,非適切な問題に関する数学的な理論解析が十分に行えなかった.次年度は,本年十分な時間が取れなかった領域,即ち,非適切な問題の定式化を踏まえた理論解析にも重点をおいて研究を行う. そこで,まず最初に,離散型線形悪条件問題の1つである,第一種Fredholm積分方程式から導かれる連立1次方程式(係数行列の条件は大変悪い)を対象とし,GMRES法を適用して数値実験を行い,離散型線形悪条件問題の性質や各算法の有効性を考察する.即ち,(1)非適切な問題の離散化,(2)提案手法による近似解の計算,(3)提案手法のパフォーマンスの評価,(4)近似解の精度評価,などを行い,近似解の評価を可視的に行うサイエンティフィックヴィジュアリぜーション用のソフト開発を行う.また,これらのソルバーで近似解を高速計算可能にするために並列計算機向きのプログラムの開発と実装を行う必要がある.次に,石油探査,衛星写真,医療画像などの応用分野から現れる実際問題に対して,提案手法の有効性などを評価する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は, クラウドコンピューティングを踏まえた算法の基本研究と基本プログラム(ソルバー)の開発実装であった.その現状報告のために,2011年2月にスイスバーゼルで開催された"Speed Up"シンポジウムに出席し,発表を予定していた.しかし,不慮の出来事によって,やむなく国外出張を取りやめる必要が生じ,研究費を予定どおりに使用できなかった. 平成24年度は,現実の問題を踏まえた悪条件を持つ逆問題に対し,我々が開発したソルバーを使用する数値実験を行い評価したい.そこで,新しいソルバーの並列計算機への実装に関する研究開発と平成23年度と平成24年度の成果発表が最終目標である. よって,以下の目的のために研究費を使用する.(1)平成23年度に十分な時間を取れなかった非適切な問題(例えば,第一種Fredholm積分方程式)の理論的な定式化と数理解析を行うため.(2)近似解の精度などに関する誤差解析を行い, 実際問題に対して提案した算法の正当性や有効性を評価するため.(3)残差ノルムの可視化やパラメータや係数(ステップサイズ)の可視化を行うGUIを構築し,Krylov部分空間に基づく非対称系の高速反復解法の総合的なソルバーの完成させるため.(4)並列計算機向きなソルバーの最終的な開発検証に利用するため.(5)クラウドコンピューティングを主眼とするオープンソース(open source)を利用できる開発環境を構築するため.(6)研究成果を国内外の学会や論文誌に発表するため.
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Research Products
(9 results)