2011 Fiscal Year Research-status Report
加速器ビームによる空気シャワーの電波エコー観測と超高エネルギー宇宙線観測への応用
Project/Area Number |
23654078
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 大輔 東京大学, 宇宙線研究所, 特任研究員 (60584258)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国際研究者交流(米国) / 宇宙線 / 電波エコー観測 / 電子加速器 / TA実験 / GPS |
Research Abstract |
超高エネルギー宇宙線の起源を理解するためには、現状の検出器面積を大きく上回る大規模検出器が必要である、という事は分野の共通認識になりつつある。この将来計画を実現するための手段として、安価に昼夜問わず観測可能な電波を用いた手法が再注目されており、本研究の重要性は高まっていると言える。本研究では特に電波エコー法に注目し、Telescope Array(TA)実験サイトにて、加速器(ELS)による擬似空気シャワーからのエコーの観測により、本検出手法を確立する。 本年度には本研究がTelescope Array RAdar project(TARA)としてTAグループ内でTAサイトにおける関連実験として認められた。出力2kW, 54.1MHzの送信器を設置し、観測サイトから30km程度離れた町から観測サイトに向けて電波の送信を開始した。 また、最大25MHzサンプリングで直交検波を行なう受信器を開発した。本受信器はGPSモジュールからの1pps信号で時間を記録し、この1pps信号に同期した10MHzの信号をクロックとして用いる事で、温度変化に影響されない安定した基準周波数での検波と時間精度50nsの観測を実現する。またGPSモジュールからの1pps/10MHz出力を共有することで、複数の受信器を同期して運用することができる。 この受信器とLog-periodicアンテナ、1.2GHz広帯域増幅器、バンドパスフィルタを組み合わせた測定器をユタ州のTA観測サイトに輸送し、動作試験を行なった。バンドパスフィルタにより、最大のノイズ源であるFMラジオ放送の除去を確認した。またELSからのトリガーを用いた観測を行ない、数日間安定して動作すること、ELS起源のノイズによる影響が無視できる事を確認した。今後、垂直偏波アンテナ2本による同時観測を行ない、ELSからの電波エコーの観測を行なう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた装置の設計製作のうち、最も苦労すると思われていた受信器の開発をほぼ終える事ができた。GPSモジュールからの1ppsでタイムスタンプを押し、1ppsと同期した10MHz信号をクロックとして用いることで、温度差の激しい砂漠でも安定した基準周波数による検波を行なう事ができる。加えて、時間精度50nsで信号を記録することで、TA実験の検出器との同時観測を容易に実現でき、さらにTA実験の検出器で測定された信号の時間との比較により、空気シャワーのどの部分で反射された電波を観測しているか、といった詳細な情報を得る事が可能である。またこのGPSモジュールからの1pps/10MHz信号を共有することで、複数の検出器を同期させて運用できる。これは本試験では必須の項目である。 本年度にはこの受信器を米国ユタ州の砂漠まで輸送し、実際にTA観測サイトで試験を行なう事ができた。これにより砂漠という温度差が激しく、インフラの限られた場所での安定動作を確認した。また最大のノイズ源になると思われていたFMラジオ放送も、用意したバンドパスフィルタで除去できることも分かった。 この試験の際に、1つのアンテナ-受信器の組み合わせに加えて、ELSトリガー記録用にもう一つの受信器を同期させて運用する必要があったが、これは前述したGPSからの出力を共有することで無事に成功している。これは本試験で行なうアンテナ-受信器セットを2つ、トリガー用受信器1つの合計3つの同期動作まで容易に拡張できる物である。 残された装置設計は垂直偏波アンテナの開発だけであり、来年度には予定通りにELSトリガーからのエコー検出試験を行なう事ができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本試験では2つの垂直偏波アンテナによる同時観測により、送信波の直接受信の影響を抑えた観測を行なう予定である。この際、2つのアンテナに対応する2つの受信器に加えて、ELSトリガーを記録する3つの受信器を同期して運用する必要がある。現状、残された開発項目のうち、追加の受信器の用意、2台同期から3台同期への拡張は容易であるため、残された課題は垂直偏波アンテナの開発だけである。 現在、既存のアンテナを水平スタックする方法や、ワイヤーアンテナを用いた物などいくつかの候補について、電場計算シミュレーションを用いた計算を進めており、この結果により垂直偏波アンテナを決定し、制作する予定である。これらは来年度6月までに終了する予定である。その後再び現地に輸送し、ELSからの電波エコー観測試験を開始する予定である。 また、本観測で用いた電波検出器は、そのままTA実験との同時観測にも流用可能である。本試験で理解された検出器特性や、電波エコーの性質をフィードバックすることで、宇宙線空気シャワーの観測試験に移行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費のうち、物品としては主にELSからの電波エコー観測試験用として追加の受信器、増幅器やバンドパスフィルタ、垂直偏波アンテナの制作や輸送、設置用の架台等に使用する。またTA実験との同時試験の際には別の方向を向けた検出器を増やす事で観測データの確度を上げる事を考えており、そのための追加受信器の購入にも使用する。 旅費としては主に米国ユタ州のTA実験サイトまでの往復に使用する。また本観測結果は国際会議にて報告する予定であり、その渡航費にも使用する。
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