2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23654122
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中澤 康浩 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60222163)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | マイクロチップ / 熱容量 / 有機超伝導体 / 磁場 |
Research Abstract |
本研究では、微細加工した比熱・熱容量測定用マイクロチップを使って、外的な環境制御下での熱測定を行うことを目指した測定開発とそれを用いた物性研究を行うことを目的としている。平成23年度は、微小チップの極薄基板上に二次元性の強い微少単結晶を平面性良く固定できるメリットを生かし、二次元層状構造をもつ有機電荷移動塩に対して最大7Tまでの磁場を平行方向に印加した状態で、面内磁場異方性に関する情報を得るための実験を行った。対象物質としては、有機超伝導体である k-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brと低温で磁気秩序を示さずスピン液体的な基底状態を形成するk-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3を取り上げた。測定に用いた試料は、ともに1μg程度の薄片状の単結晶を選び、基板の試料部に固定して半定量的な交流熱測定によって熱異常を検出することを行った。前者の二つの塩においては、磁場印加によってTcは大きく変化しないものの、ピークの大きさがボルテックスの侵入によって抑制される層状超伝導体の磁場依存性が検出された。また後者の塩では、5.7 K付近に二量体内での電荷の揺らぎによる誘電異常とそれに誘引される格子熱容量のブロードな異常があることが知られている。マイクロチップデバイを用いて、BEDT-TTF分子の末端エチレン基を軽水素体のもの、重水素体に置換したものに対して実験を行ったところ、面内磁場の大きさ、方向による変化がなくこの熱異常はスピンそのものに関する秩序化ではないことを明らかにした。さらに、平成23年度はこのような物性測定と並行するかたちで、各種のマイクロ熱測定チップTCGシリーズの特性の評価とそれを用いた装置の開発も行った。TCG3990シリーズではセンサー部がより微小化され熱電対とチップ抵抗がより近い位置にあるため高い熱的な応答が観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の装置開発、物性測定に関する実験の展開によって、マイクロチップを用いた熱計測測定を比較的強磁場領域、極低温を組み合わせた開発課題の達成は十分に可能であるという判断に至ることができた。特にスプリット型超伝導磁石と組み合わせて二次元的な層状構造をもつ有機超伝導体の超伝導転移と、局在スピンをもつMott絶縁体で面平行状態での角度分解磁場依存性の実験装置のセットアップと、微弱信号の高感度増幅を行うことで、熱容量の温度依存性に対する正確な情報を引きだすことにはある程度は成功した。分子磁性体に関しては、面内の磁場容易軸の方向まで決定することができた。また、これらの成果は、平成23年度の日本熱測定学会をはじめとする熱測定の技術に関する学会や会議で部分的な発表とともに、物性研究の成果を発表する日本物理学会、有機伝導体、磁性体の主な対象とする国際学会であるISCOM(平成23年度ポーランドで開催)においても発表を行った。また、このチップを用いた実験データを含んだかたちの論文を投稿することができ、本年度以降の主要な目的である微少結晶を用いた磁場方向依存性の測定と、より多重環境制御下での物性研究への展開可能性を開くことができることを示す成果である。これらの事から、初年次としては、概ね順調であると判断できる。また、より低温領域までも測定を拡張することを視野にいれ、大阪大学の我々のグループで用いている希釈冷凍装置、分子科学研究所の共同利用装置である300μWの希釈冷凍装置を用いた実験についても、セル部の設計が進み実験の準備を行うことが出来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、前年度に行ったチップ特性の評価結果のデータと作成した測定検出系を用いて、強磁場領域での実験を行う。チップを搭載するクライオスタットは前年度に準備をおこなった大阪大学の簡易型希釈冷凍システムと分子研の大型希釈冷凍システムを用いる予定であり、これによってチップを用いても約0.1 K程度から測定が可能である。実験は最大で18Tまでの一定磁場下での熱容量の温度依存性に関する測定を行う。一方で、温度を固定しながら磁場を掃引し熱容量の磁場依存性を測定する手法開発にも着手する。磁場掃引下での熱容量測定によって、マイクロチップを載せているホルダー等の磁性や磁場掃引による表面電流等によってヒーティングが生じる。現在、この加熱を防ぐためホルダーの加工材料から吟味を進めており、温度を固定した状態で、10 Tを越える強磁場下での測定の展開をはかる。このような磁場制御下での実験と並行して、今年度は圧力印加した状態での測定にも着手する予定である。圧力媒体にダフニオイルを用いてCuBe, CuBe+NiCrAlのクランプ型高圧セルの中でチップを用いた熱測定の開発も進める。交流法での熱測定を行うためには、測定に最も適切な周波数条件を決定する必要があるため、試料とチップのセンサー、ヒーター部の熱的なリンクによる内部緩和時間(試料とセンサーとの間の緩和時間)と試料の熱が媒体へ逃げる外部緩和時間を熱振動の周波数依存性を測定することによって測定条件を評価し、交流測定の適正な成立条件を決定する。このような方法論を確立するとともにその成果を熱測定関係の学会、研究会で発表する。さらに論文として投稿して行く予定である。年度の後半から次年度にかけては、これらの開発研究の成果を検証するために、k-BETS2FeBr4などの電荷移動塩の分子性の磁性超伝導体を測定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画を遂行するにあたり、平成24年度以降は、備品として大きな計測装置の購入は必要なく既存の設備で実験は可能である。平成24年度予算で、装置を超伝導磁石付きのクライオスタット(温度可変インサート)を減圧するロータリーポンプを導入する予定である(エドワーズ社 250千円)。これは、現在研究室で用いているもの耐用年数が5年程度であり、その代替装置として用いる。磁場中の熱容量計測を正確に行うため、酸化ルテニウム、セルノックス温度計を消耗品として購入し温度、磁場をパラメターとした校正を行う。また、チップを搭載するための試料ステージの金属加工を行う。このような消耗品購入のために約150千円を使用するとともに、超伝導磁石を使い低温環境下での実験を年間通して継続的に進めるため、寒材として液体ヘリウム、液体窒素が必要になる。平成24年度は、あわせて400千円程度を想定している。額が大きくなるが、磁場中、低温に実験を行うためには欠かせないものであり、本研究の目的を達成するためには必須のものである。実験成果を発表するための学会(熱測定討論会、分子科学会)に参加するために旅費と、分子科学研究所の希釈冷凍装置を使用するための旅費も本研究費から使用する予定である(100千円)。これらの計画は、平成23年度の当初の想定していた計画と大きく違わないが、購入する物品については状況にあわせて変更している。また平成25年度についても、消耗品の購入と寒材などの実験継続に必須の消耗品に充てる予定である。
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Research Products
(9 results)