2012 Fiscal Year Research-status Report
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23654122
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中澤 康浩 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60222163)
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Keywords | 熱容量 / マイクロチップ / 環境制御 |
Research Abstract |
本研究は、分子性化合物の極微サイズの単結晶に対して、磁場、圧力など様々な外的環境を制御した条件下での熱測定を高感度で行うために微細加工したサーマルチップを使った多重極限下での測定開発を行うことを目的としている。平成24年度は、前年度に引き続き、有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2,量子スピン液体的な基底状態を形成するκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3に関する実験に加え、アニオン部の3d電子による磁性と有機分子によるπ電子が相互作用をおこし磁性と超伝導の競合、協奏効果によって各種の物性が発現するκ-,λ-(BETS)2FeX4 X=Cl, Brを対象にμgオーダーでの熱物性研究を展開した。まず、これまでの実験で用いていたTCG3880において、センサー部とヒーター部が離れていることから、温度変調をおこす励起電流を比較的低い周波数にせざるを得ないことが問題になっていたため、両者の距離が14μm程度と近いXEN-39393というタイプのチップセンサーの性能評価を行った。TCG3880チップでは試料の温度変化に対する時定数が、104 Ks-1だったが、それが二ケタ程度改善されているため、より高感度の応答があることが判明した。その結果、κ-(BEDT-TTF)2X系の超伝導転移とガラス転移をともに検出することに成功するとともに、測定可能な周波数領域が直流から25 Hz付近まで広がりBEDT-TTF分子のエチレン基の配座の凍結によるガラス転移の周波数依存性に関する情報を得ることができた。数μm程度の薄片状の試料になる重水素化したκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3において6 K付近に生じる電荷の自由度による熱異常の検出も行った。さらに、κ-(BETS)2FeBr4の面内の様々な角度から磁場印加した状態での磁気転移点とエントロピーの変化の議論に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画とした進めたXEN-39393チップの性能評価とそれを搭載するプローブ等の装置開発の結果、各種の分子性導体、磁性体、強相関物質の物性研究がより高感度に行うことが可能であることが分かった。現在、15 Tまでの強磁場印加によってκ-(BETS)2FeBr4の磁場有機金属相、磁場有機超伝導相の探索にむけた実験が進行中である。この塩の面内異方性の詳細な実験によって、アニオン相内のFe原子間の相互作用に1次元的な異方性が存在し、その方向に磁場を印加すると三次元的の相互作用が抑制され、磁気転移点よりも低温側にスピンの内部構造の揺らぎによるhump構造が出現することがこの磁場下での測定で明らかになっている。この点をさらに追跡するため、強磁場下での実験を行う必要があるが、温度計の補正と、ノイズレベルの上昇が現状において課題としてあらわれており、現在、ノイズの少ないクライオスタットの作成を進めている。強磁場領域での二次元面内に平行に磁場を印加した状態で進めていけば、磁場有機超伝導、3d電子による外部磁場の補償効果についての情報を得ることができ、π-d電子系の理解に対して有益な情報を得ることが出来る。平成24年度の成果は、日本熱測定学会,日本物理学会で部分的に発表するとともに、熱測定関係の国際学会であるICCT2012においても発表を行っており、次年度へ継続可能な成果があがった。 希釈冷凍機温度までの実験整備は、今年度の課題として着手していたが、現在、極低温でのクライオスタットのテストが進行中であり、次年度にも継続する予定である。圧力印加下でのマイクロチップを用いた実験についても、現在、開発中である。平成24年度の試行実験によって試料部分をエポキシでコートすることで素子の破損を防ぐことを検討しており次年度にむけてより安定した測定開発を進めることで目的を達成できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、TCG3880を用いたカロリメター開発をある程度まとめながら、XEN-39393を用いたチップ特性の極低温域での評価をすすめ、二次元的な特徴をもつκ-(BETS)2FeX4(X=Br, Cl)に関する熱容量測定を行う。まず、これまでの開発に取り組んできた液体ヘリウム温度以上のチップの特性評価を論文等にまとめるとともに、前年度から進めている簡易型希釈冷凍システムと、分子研にある大型希釈冷凍システムへの搭載を進める予定である。感度のより良いXEN-39393を用いることで、約0.1 K程度からの測定が可能であり、κ-(BETS)2FeBr4, κ-(BETS)2FeCl4の極低温熱容量の面内磁場依存性について情報を得ることができる。またこれらの系よりも-d相互作用が強く磁場有機超伝導を示すことで知られるλ-(BETS)2FeCl4についても実験をおこない、磁場中熱容量の結果をπ-d相互作用、d-d相互作用の観点から検討を行う。絶対値が必要な場合は、緩和法測定セルを用いた実験も並行させ、磁気的な相互作用と遍歴的なπ電子の競合、協奏効果について議論する。またチップの小型化によって、高い周波数領域での測定が可能であるため、チップをCuBe,クランプ型高圧セルの中に組み込み、20-30Hz程度で変調をかけることでチップを用いた熱測定の開発も進める。交流法での熱測定を行うためには、測定に最も適切な周波数条件を決定する必要があるが同時に、媒体の存在よるチップの破損、試料の脱離などの可能性がある。試料部をエポキシでコートすることによって試料部を保護しながら、外部緩和時間を熱振動の周波数依存性を測定することによって測定条件を評価し、交流測定の適正な成立条件を決定する。最終年度にあたるため、成果を熱測定関係の学会、研究会で発表するとともに論文として投稿していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究計画の遂行のためには、研究室で現有する15T超伝導磁石、7 Tスプリット磁石、希釈冷凍装置などを用いる予定である。また測定系も平成23-24年度までの研究を通して必要となるものは、ほぼそろっている。そのため、平成25年度は備品としての装置の導入の必要なく、既存の設備で実験は可能である。希釈冷凍装置は研究の一部で分子科学研究所の装置を利用予定であるため、そのための旅費を本研究費から支出することを予定している。また本研究で最も重要である、XEN-39393, TCG-3880のチップを平成25年度新たにまとめて購入する予定である(200千円)。また、極低温磁場中の熱容量計測を正確に行うため、酸化ルテニウム、セルノックス温度計を消耗品として購入し、温度、磁場をパラメターとした較正を行う。上記の超伝導磁石と低温条件を実験を年間通して継続的に進めるため、寒材として液体ヘリウム、液体窒素が大量に必要になる。年間通して、あわせて400千円程度を想定している。額が大きくなるが、磁場中、低温に実験を行うためには欠かせないものであり、本研究の目的を達成するためには必須のものである。実験成果を発表するための学会(熱測定討論会、日本物理学会)に参加するために旅費と、分子科学研究所の希釈冷凍装置を使用するための旅費も本研究費から使用する予定である。 これらの目的と具体的な計画は、平成23年度の当初の想定していた計画と大きく違わないが、購入する物品については必要度や研究の達成状況にあわせて変更している。平成25年度についても、前年度と同様に消耗品の購入と寒材などの実験継続に必須の消耗品に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)