2011 Fiscal Year Research-status Report
生物による方解石・アラレ石の生成条件と微量元素分配の統合的理解の推進
Project/Area Number |
23654174
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
寺門 靖高 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (30127378)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 炭酸カルシウム / 生物鉱化作用 / 希土類元素 / 分配 / サンゴ |
Research Abstract |
平成23年度は主として3つのテーマで研究を行った.(1)蒸発法による方解石と模擬海水(塩化ナトリウム溶液)間での希土類元素の分配実験を行った.その結果は,平成23年9月に茨城大学で開催された日本地質学会で発表し,現在は論文にまとめつつある.希土類元素の分配実験はこれまで2,3の研究があるが,本研究で得られた値(DMe=(XMe/XCa)×([Ca]/[Me]): Xは固相中のモル分率;[ ]は液相中の重量モル濃度)は概ね10~100程度であった.これらの値は,従来の報告されていた1000程度の値と比較すると1桁以上小さいが,溶液にドープした希土類元素の濃度に依存しているように見え,本研究における液中の希土類濃度濃度が従来の研究で用いられた濃度より桁違いに低く天延の海水中の値に近いことが関係していると考えられる.また,希土類元素相互の差は小さいが,中希土付近にピークが見られ,結晶構造とイオン半径の関係が認められたが,それ以外の要因があるものと考えられ今後の課題である.(2)天然の貝殻と海水間での分配を調べた.貝殻は,カルサイトとアラゴナイトの両方を用いた.両者の差はMg以外はほとんどなく,希土類元素の見かけの分配係数は重希土から軽希土にかけて顕著に増大するパターンを示した.(3)サンゴと海水間での元素分配を調べるために,天然のサンゴと海水を分析し,分配の要因を検討した.結果として,希土類元素の見かけの分配係数は2価の陽イオンより1桁以上大きく,希土類相互の差が小さいという結果が得られた.また,サンゴの元素取り込み機構を解明するためにサンゴの飼育実験を始めた.研究費の多くは水槽などサンゴ水槽の経費に用いた.サンゴ,特にミドリイシの飼育は困難なことが知られており現時点ではサンゴを育てている段階で,分析にはいたっていない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画は多角的でありいつつかの項目(テーマ)を並行して進める計画になっている.平成23年度の計画では,蒸発法によるカルサイト・アラゴナイトの合成による元素の分配実験が中心となっており,天然のサンゴや貝殻についての研究は24年度の予定であった.しかし,実際には,蒸発法による結晶生成速度は遅く時間がかかることや,希土類元素などの微量元素の測定にもかなりの労力を要するために,十分進んでいるとはいえない.しかし,平成24年度の予定であった天然のサンゴや貝殻の研究は予定より前倒しして進展している.平成23年度は,原子間力顕微鏡(AMF)による合成カルサイトなどの表面観察も行う予定であったが,実際にはAMFの使用方法を学習した程度になっている. また,サンゴの飼育は初めての試みであったため,水槽やその関連機材をそろえバクテリアを安定させるために膨大な時間と労力を費やしたが,最近ようやく飼育が軌道に乗ってきた.以上のような状況であるので,遅れているところもあるが,進んでいるところもあるので,おおむね順調であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は,申請時の計画のうち次年度分に相当する天然のサンゴや貝殻に関する研究をかなり進めた.したがって,全体的に合成実験と天然物の研究を並行して行ったことになり,平成24年度も同様に合成実験と天然物を用いた研究を同時進行で進める. 合成実験については,引き続き蒸発法による検討を行う.特に,二酸化炭素分圧と関連するpHの影響の検討を行う.予察的検討の結果から,蒸発法の溶液系に二酸化炭素を多量に吹き込んでも溶液のpHはそれほど低下せず,せいぜい6程度である.このような状態でpHの効果を検討する.また,蒸発法での結晶成長はかなりゆっくりであり反応速度を上げるために,蒸発法の発展的方法を実現させる.このような実験方法の改良とともに,AMFによる表面観察を行い,何らかの新知見が得られることを期待している. サンゴの飼育実験を継続し,得られたサンゴを用いて元素分配を検討する.希土類元素については,相互の分別が小さいことが予想されるが,その原因を有孔虫殻や貝殻のデータと比較検討することにより,生物の元素取り込みのメカニズムを視野に入れて検討する.また,サンゴの成長段階での相違やサンゴ水槽で無機的に沈殿した炭酸カルシウム物質のデータも検討する. 最後に,無機的な場合と生物的な場合を比較するために,合成系にタンパク質などの有機物を導入しての実験を行う.前述の改良型蒸発法と組み合わせて,効率よくデータを得られるようにする.なお,サンゴ水槽は前年度から最も苦労して維持,改良をしてきたもので,この実験系の有効利用をするために,貝や石灰藻などサンゴ以外の生物も飼育し研究に利用することを検討する.また,理論的考察を行い論文執筆などまとめを行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の使用計画は次のようである.(1)機材・消耗品の購入:(1)サンゴ水槽をより充実させるために,エコシステムを導入する.(2)サンゴ水槽を維持するために人工海水,ポンプ,クーラー,ライブロックなどを購入する.(3)分析のための試薬などを購入する.(2)旅費:(1)学会発表を行うために旅費に使用する.(2)サンプルを採取するために旅費を使用する.(3)論文発表費用:(1)英文の校閲を業者に依頼するために用いる.(2)印刷費に使用する.
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