2011 Fiscal Year Research-status Report
シリカナノ細孔内の「天然―人工ハイブリッド光合成系」の構築
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23655196
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 繁 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (40108634)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 人工光合成 / 生体材料 / ナノ材料 / メゾスコピック系 / 光合成 |
Research Abstract |
本研究では、光反応タンパク質をナノメートルサイズのシリカ細孔内(ナノポア)へ導入し、内部で機能させる新しい反応系の開発を目的とする。水から電子を取り出し、水素発生を行う天然/人工ハイブリッド光合成系を構築するため、当該年度の研究では、光合成反応中心膜タンパク質複合体である光化学系II(PSII)二量体をナノポアへ導入する実験を行った。天然のPSIIは、酸素発生型光合成の反応過程の内、光反応により水から電子を取り出す初期反応を担う。PSII二量体の分子量は756 kDaで、その構造は長辺20 nm・短辺12 nmの桿状の粒子と見なせる。 実験では、好熱性シアノバクテリアThermosynechochoccus vulcanusよりPSII二量体を単離・精製し、孔径の異なる粉末状多孔質材料(SBA15(孔径15 nm)、SBA23(23 nm))と水溶液中で混合し吸着させた。粉末粒子の直径は平均5μmである。この粒子への吸着パターンの解析と、吸着PSIIの活性評価、および熱安定性評価を行った。活性評価は、PSIIの酸素発生活性を指標とした。 SBA15とSBA23では粉末重量1gに対し、それぞれ4.7mgと15mgのPSIIが吸着された。共焦点顕微鏡による吸着パターンの解析からは、SBA23では粒子表面と内部にPSIIが吸着されるが、SBA15では内部には吸着されないことが明らかとなった。これにより、充分な孔径を持つ多孔質材料が選択的にPSIIを内部まで浸透させ吸着できることが示された。SBA23に吸着したPSIIは、活性と熱安定性が高く保たれており、PSII-SBA複合系は、光デバイスや人工光合成系の新しい材料と成り得ることが検証された。また、光化学系I(PSI)のSBA23への吸着実験や、バクテリア型反応中心やアンテナLH2とFSMとを吸着させる実験を並行して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究は当初、PSI、PSII、バクテリア型反応中心、アンテナLH2、水溶性光センサータンパク質のナノポアへの導入実験を行うことを想定していた。現状では、PSIIについてはSBAに吸着させ、内部で機能することまで確認できた。このPSIIの活性測定は、当初の年次予定よりも早く達成できた。PSIについては、シアノバクテリアから単離・精製し、多孔質材料へ吸着させる実験を行った。その活性評価は未だ充分には為されていないが、当初の予定とは見合う進捗状況にある。バクテリア型反応中心とLH2、光センサータンパク質についても、ナノポアへ導入する実験を行い、順調に進展している。これまでに、吸着パターンなどの解析法をPSII-SBA23複合系で確立した事によって、次年度以降の他のタンパク質(複合体)のナノポアへの導入・解析・活性評価を効率的に進展させられると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)PSI-SBA23複合系の活性評価 PSIは、酸素発生型光合成で二段階目の光反応を担う膜タンパク質複合体である。天然のPSIは、光エネルギーを利用してプラストシアニンを酸化しフェレドキシンを還元する機能を持つ。シアノバクテリアのPSIは三量体構造を形成し、直径21 nm、厚さ9 nmの円盤状の粒子と見なせる。これまでにSBA23にPSI三量体を吸着させる実験を行った。今後は、このPSI-SBA23複合系について、吸着量の定量と吸着パターンの解析を行い、孔径と分子サイズのマッチングを確認する。次に、人工の電子供与体・電子受容体存在下でPSI-SBA23複合系の光反応測定を行い、電子移動の活性を定量する。また、PSI-SBA複合系でNADP+を還元させる反応を達成目標とし、最適な電子供与体・メディエイターを選別する。熱安定性の評価を並行して行い、PSI-SBA23複合系の光デバイスとしての機能や特性を評価する。(2)ガラス板状シリカ多孔体へのタンパク質の導入によるイメージング材料の開発 (1)PSIやPSIIは、タンパク質複合体内部に多数のクロロフィル分子を結合する。そのためナノポアへの吸着物は緑色を呈する。また、電子受容体はその酸化還元状態に応じて変色する。ガラス板状シリカ多孔体へPSIやPSIIと人工の電子受容体を併せて導入することで、光反応(光誘起電子移動)で色調を変化させる光反応材料を開発する。粉末材料であるSBAでの実験結果を踏まえ、板状シリカ多孔体への吸着条件(イオン強度、pH、濃度)の最適化を行う。(2)光センサータンパク質AnPixJは、フィコシアノビリンを結合し、青色と赤紫色を呈する二状態間で可逆的な光変換(フォトクロミズム反応)を起こす。AnPixJを板状シリカ多孔体へ吸着させ、光で制御するイメージング材料を開発する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:分光解析に必要な光学機器、生化学実験の薬品と消耗品、データ解析に必要な計算機の購入を主に予定する。旅費:研究打ち合わせや学会での成果発表を行うための出張旅費を研究費から充当する。人件費:実験補助のため1名の研究員をパートタイム勤務職員として雇用する。次年度への繰越額は、物品費・光学機器の購入に充てる。
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