2011 Fiscal Year Research-status Report
新原理「交換結合磁石」の開発 -希土類フリー磁石を目指して-
Project/Area Number |
23656224
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
福永 博俊 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10136533)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 正基 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20274623)
柳井 武志 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30404239)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 磁性材料 / 保磁力 / 交換結合 / 反強磁性 / 希土類フリー |
Research Abstract |
硬磁性母相と反強磁性結合した軟磁性薄表面層が母相の保磁力に及ぼす影響について,マイクロマグネティクス理論による計算機シミュレーションにより検討した。その結果,反強磁性結合した軟磁性薄表面層が母相の保磁力増加に寄与することを示すことができた。また,数nm厚の反強磁性結合軟磁性薄表面層の存在が,母相の保磁力を著しく増加させることも明らかになった。 さらに,反強磁性およぼ強磁性結合した軟磁性薄表面層の両者を有する硬磁性母相の磁化反転過程も計算機シミュレーションした。その結果,反強磁性およぼ強磁性結合した軟磁性薄表面層が,硬磁性母相の磁化容易軸に対して,それぞれ,平行および垂直に存在する場合には,軟磁性薄表面層により母相の保磁力を増加できることが明らかになった。しかしながら,保磁力を増加できる薄表面層の厚さは数nmまでに限られていた。 強磁性結合軟磁性表面層の存在にもかかわらず,母相の保磁力を改善できる原因は以下のように理解できる。磁化反転が母相の磁化容易軸と垂直な面から開始する場合には,粒界に磁極が発生し静磁気エネルギーが増加する。一方,磁化反転が平行な面から開始する場合には,静磁気エネルギーの増加を抑制できる。したがって,磁化反転は母相の磁化容易軸と平行な面から始まり,この抑制により保磁力を増加できる。このため,反強磁性結合軟磁性薄表面層が,母相の磁化容易軸と平行な面に存在すれば,強磁性結合軟磁性薄表面層存在にかからず,母相の保磁力が増加する。 粒界に存在する反強磁性結合軟磁性薄相により保磁力改善が可能であることが確認できたので,粒界拡散法によりこの実現を試みた。具体的には,種々の磁性金属を非晶質Nd-Fe-B磁粉にコーティングし,結晶化と粒界拡散を同時に起こし,表面コーティングによる保磁力の増減を評価した。現在のところ,保磁力の増加はNd-Cuコーティングのみで観察されいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マイクロマグネティクス理論に基づく計算機シミュレーションにおいては,反強磁性結合軟磁性薄表面層の効果を確認すると共に,保磁力を顕著に改善できる条件を明確にするすることができた。さらには,反強磁性及ぶ強磁性結合軟磁性薄表面層の両者が存在する場合についても,保磁力を改善できる条件を明確にすることができた。これらの点は,計画通りの進捗状況である。 一方で,計算機シミュレーションで得られた特性の実現については,Nd-Cuの粒界拡散で,保磁力1.8MA/mの等方性Nd-Fe-B粉末を得ている。得られた保磁力は目標値の2MA/mに近い値であるが,保磁力改善メカニズムについては,計算機シミュレーションで仮定したモデルとは異なる可能性が高い。この点,計画より遅れている。 以上総合して,「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
計算機シミュレーションについては,当初の予定より研究が先行しているが,材料の創製についての研究が遅れている。これを念頭に,平成24年度の研究においては,実験に加わる学生を1名増やし,材料の創製に力を入れて研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1) Dyフリー超高保磁力Nd-Fe-B系磁石粉末の開発 平成23年度研究においては,計算機シミュレーションにより高保磁力化のために必要な反強磁性結合軟磁性表面薄層の厚さ等を明らかにした。また,非晶質の結晶化を利用した粒界拡散法により,Nd2Fe14B結晶表面に反強磁性結合軟磁性薄層を形成することを試みてきたが,高保磁力を実現できたのはNd-Cuを拡散させた場合のみであり,この部分では研究が遅れている。平成24年度の研究においては,計算機シミュレーションによる検討を継続するとともに,反強磁性結合軟磁性薄層の実現に重点をおいて研究を進める。すなわち,まず,非晶質Nd-Fe-B磁粉表面に反強磁性結合軟磁性薄層となる可能性のあるFe,Ti, Fe-Ti, Cr, Fe-Cr, Mn,Fe-Mn等をコーティングし,非晶質の結晶化を利用して粒界に拡散させ,反強磁性結合する元素を探索する。その際,コーティング量,拡散条件をパラメータとし,保磁力の増減を評価し,元素をスクリーニングすることにより,実験の効率化を図る。2) 希土類フリー高保磁力磁石粉末の開発 保磁力の起源となる硬高磁性相を3d遷移金属合金に置き換え,1) の研究の成果を利用して,希土類フリー交換結合磁石の実現を試みる。当初の計画では,多様な3d硬磁性相を対象とする予定であったが,研究が遅れ気味であることに鑑み,硬磁性相としてはCo, MnAlを選択して研究を進める。まず,添加元素と超急冷法によりCo, MnAl系の非晶質フレークを作製し,その結晶化を利用して,Ti, Fe-Ti, Cr, Fe-Cr, Mn, Fe-Mnを粒界に拡散させ,反強磁性結軟磁性表面薄層の作製を試みる。この際,1)の実験と同様に,保磁力の増減を評価することにより実験の効率化を図る。
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