2012 Fiscal Year Research-status Report
結晶界面ノンストイキオメトリー制御による高効率太陽光発電セル光吸収体の開発
Project/Area Number |
23656395
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
溝口 照康 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70422334)
|
Keywords | 太陽電池 / CuInSe2 / 原子・電子構造 / 電子顕微鏡 / EELS / 第一原理計算 / 薄膜 / 無機材料・物性 |
Research Abstract |
非シリコン系太陽光発電セルの光吸収層であるCIGSやCISにおいては,光の散乱やキャリア電子の散乱を抑えるためには,均質かつ緻密でバンドベンディングの少ない多結晶体が必要となる.これら特性には界面近傍における欠陥の集積状態(ノンストイキオメトリー)が重要な役割を果たしている.本申請研究によりCIGS,CIS系化合物の粒界,界面の原子構造を定量的に明らかにし,さらにそれら界面における欠陥濃度と組成ゆらぎを定量化する.さらに得られた原子構造と欠陥構造からバンド構造を明らかにし,粒界が及ぼす光吸収効率やキャリア移動への影響をしらべる.以上の研究から機能との相関性を明らかにすることを目指す. 平成24年度においては,CIS薄膜について原子分解能電子顕微鏡観察を行い,粒界原子構造を調べた.その結果,堆積した薄膜は多結晶であり,多数の粒界が存在していることが分かった.さらに詳細に調べた結果,CISの双晶粒界が多数存在していることが明らかとなった.このことは過去の報告と一致している.双晶粒界の詳細な原子構造,バンド構造,キャリア移動特性を明らかにすることを目的とし,第一原理計算を行った.また,実際のCISは酸化物電極と接しており,酸素や周辺物質の構成元素の拡散が生じている.その影響をしらべるための欠陥形成や原子拡散に関する第一原理計算も行った. 参考物質の双晶粒界構造の第一原理計算を行い,高分解能STEM像と比較することによりその原子構造を明らかにした(APL2012).また,原子空孔の第一原理計算を行い,形成エネルギーの計算に用いるセルサイズが結果に影響することを明らかにした.さらに,そのセルサイズ依存性は欠陥種によって変化し,欠陥準位の局在程度に依存するということを世界に先駆けて明らかにした(PRB 2012). 結果の一部は国内学会(応用物理学会及び顕微鏡学会)において報告した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究目標は作成されたCIS粒界を原子分解能透過型電子顕微鏡により解析し,その粒界原子構造を定量的に明らかにすることである.基板上に堆積したCIS薄膜は多結晶であったが,カルコパイライト型化合物に多く存在する双晶粒界の原子分解能観察に成功した.また,環状暗視野法を用いたことにより,双晶界面の終端面を明らかにすることができた.さらに,参照物質の双晶粒界構造の高分解能STEM観察と第一原理計算を行い,その原子構造を明らかにした(APL2012).また,CIS/電極ヘテロ界面における原子拡散を理解することを目的として,欠陥形成エネルギーとそれに伴う拡散活性化エネルギーの第一原理計算を行った.その結果,欠陥準位の局在具合により計算結果が大きく変化するという新たな知見を得た(PRB2012). 一方で,実際のCIS多結晶体には双晶粒界だけではなく,ランダム粒界や非対称粒界とも多数存在している.今後はそれら対称性の低い粒界をしらべる必要もあると考えられる.以上のことから24年度の目標はおおむね達成していると結論付けることができる.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度においては,引き続きCIS粒界構造を調べるとともに,CIS/電極界面も原子分解能TEM観察と第一原理計算により調べる.特に,そらら界面における原子空孔の形成挙動と拡散挙動をしらべる.界面において単原子カラムの分解能を有するEELSスペクトルを測定し,Cu, In, Se, Gaの吸収端を測定する.各吸収端のエネルギーはCu-L2,3:930eV,In-M4,5:440eV, Se-L2,3:1440eV, Ga-L2,3:1100eVで同時取り込みが可能であり,高精度な定量評価が可能である.また,独自のスペクトル計算法を用い,各原子カラムにおける組成,化学結合,電子構造を明らかにする. さらに,界面近傍の欠陥形成挙動を第一原理計算により明らかにする.界面近傍の各サイトに点欠陥を導入し形成エネルギーを求める.同解析をいくつかの結晶粒界において行い,界面に形成される特異構造と,局所応力,結合歪み,結合欠損,そしてノンストイキオメトリーとの相関性を明らかにする. 傾角を変えた双結晶薄膜を系統的に作成し,計測と理論計算を複合利用した手法を適用することにより界面ノンストイキオメトリーの粒界性格依存性を調べる.以上の研究により界面構造⇔ノンストイキオメトリー⇔化学結合の相関性の解明を目指す.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度においては界面の空孔形成挙動を実験的に明らかにするためにEELS測定を行う予定である.そのためにはバックグラウンド/シグナル比の良い良質なスペクトルを取得する必要がある.そのためにEELS装置のペルチエ制御装置を改良し,よりバックグラウンドの低い仕様にする.そのための費用を物品として計上している.さらに,界面から取得されたEELSスペクトルを解釈するためには大規模なEELS第一原理計算を行う必要がある.一方で,Cu,In,Seは価電子数が多く,これまで以上に計算が高負荷になることが予想される.そのために既存の計算機を増強する.そのための予算も物品として計上する. さらに,これまでと同様に薄膜基板,ターゲットなども継続的に導入する予定である.さらに,これらの成果を発表するための学会参加旅費と論文投稿料を計上する.また試料作成補助の謝金も計上している.
|
Research Products
(33 results)