2011 Fiscal Year Research-status Report
腸管免疫を指標とした抗がん剤の副作用予測とその評価法の開発
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23659278
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井関 健 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (40203062)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 夏子 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (60535293)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | α-defensin / 腸管免疫 / 薬物間相互作用 / 医薬品副作用 / 機能性食品 / 抗がん剤 |
Research Abstract |
近年、小腸パネート細胞から分泌される抗菌ペプチド、 α-defensinが腸管免疫の分野で注目されている。このペプチドは、微生物に対する生体防御機構としてだけではなく、クローン病のような腸管疾患や腸管免疫との関連性が報告されている。本研究では、がん患者における機能性食品と経口抗がん剤併用による影響をα-defensinを指標とした免疫能の観点から科学的根拠に基づいて提示するとともに、がん治療における食品機能性成分の有用性を明らかにすることを目的とした。 がん患者の安全の担保およびQOL向上の観点からも、経口摂取された機能性食品および薬物が、最初に接触する防御機構である腸管免疫の食-薬間相互作用の科学的検証は極めて重要な因子となる。がん患者においては、サプリメントの摂取が多く見られることから、抗がん剤併用時における安全性について検討した。始めに経口抗がん剤によるdefensin 5(HD-5)および6(HD-6)の発現に与える影響を評価し、がんの発生や進行に関与するIFN、IL-1 、IL-6、IL-8との関連についても詳細に検討することとした。機能性食品の安全性評価法の構築に必要な基礎的知見を得るため、Caco-2細胞に対しテガフールおよびEGCgの曝露時間を変動させた時のα-defensin mRNA量を評価した。さらに、得られたα-defensinの変動が細胞障害性に起因するものであるか確認するため、テガフールおよびEGCgの曝露濃度、時間を変動させMTT assayにて評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
腸管上皮細胞が産生する抗菌性ペプチドであるα-defensinの発現に対する経口抗がん剤と機能性食品成分の影響を検討した。腸管モデル細胞であるCaco-2を用い、テガフール曝露によるHD-5 mRNA量への影響を確認したところ、HD-5 mRNA発現量は減少し、短時間の曝露で最も減少することが明かとなった。さらに、機能性食品成分であるEGCgを同時添加したところ、テガフールによるHD-5 およびHD-6 mRNAの減少を抑制する効果が認められた。 HD-5 mRNA量は3時間で顕著な減少を示し、12時間まで時間依存的に回復し、以降再び減少した。また、HD-6では3時間曝露において有意な減少が確認されたが回復後は大きな変動を示さなかった。一方、EGCgの曝露では、HD-5 およびHD-6 mRNA量共に早い段階での増加が見られ、12時間後減少傾向を示した。また、テガフールおよびEGCgの曝露濃度の違いがα-defensinに与える影響については、100 μM暴露で両mRNA量の低下が確認された。また、EGCg曝露においては、暴露濃度の違いによるHD-5 およびHD-6 mRNA量の変動は観察されなかった。テガフールの曝露による細胞障害性の検討では、1‐100μMにおいて細胞障害性は確認されなかった。また、EGCg曝露においても、同濃度範囲で細胞障害性は確認されなかった。テガフールの曝露時間の違いが細胞生存率に与える影響では、48時間曝露において細胞生存率の低下が見られた。しかし、EGCg曝露では細胞障害性は確認されなかった。 EGCg曝露濃度依存的に、テガフールによるHD-5およびHD-6 mRNA量減少を抑制する傾向が見られた。特に、HD-5における抑制効果は、HD-6と比較しより低濃度で効果があることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果より、EGCgは腸管において、テガフールによるα-defensinte mRNA量減少を抑制することが示され、抗がん薬治療による免疫低下を改善できる食品素材となり得る可能性が示唆された。また、本研究において確立された評価法は、機能性食品の安全性評価における新たな基準となり得ることが期待されるため、がん患者のみならず、生活習慣病を予防する食品の探索等、健常人の健康維持・増進にも役立つことが示唆される。従って、平成24年度については、平成23年度で構築された、副作用評価システムを用いて、抗がん剤と食品成分の相互作用に関する検討を行い、がん患者のQOLの維持・向上や安全性の確保に貢献できるデータの蓄積を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.機能性食品成分が腸管免疫に与える影響 ヒト小腸株化細胞を用いて平成23年度に確立した評価系を用い、defensin 5 および6および各サイトカインのmRNA量および蛋白質発現量を測定することで、腸管免疫に与える影響を総合的に評価する。本研究で用いる評価系は、細胞培養系を駆使したものであるため、細胞培養関連消耗品が経費の多くを占める。平成23年度の経費の節減の結果生じた使用残(18,500円)については、24年度に使用する細胞培養メディム、FBS、培養フラスコ類、オートピペットチップ、エッペンドルフチューブの購入経費に組み込む。2.経口抗がん剤と機能性食品成分の相互作用 経口投与される抗がん剤は注射抗がん剤と比較して副作用発現の低さから投与頻度が増加しているが、腸管に直接接触することから、食品成分との相互作用においては特に注意が必要である。食品成分が使用頻度の最も高い経口抗がん剤であるTS-1等の効果発現に及ぼす影響をα-defensinおよびサイトカインの発現量から評価する。このため、24年度の経費から免疫評価のためのサイトカインおよび測定用試薬等の購入に充当する。
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Research Products
(1 results)