2011 Fiscal Year Research-status Report
痛覚伝達に関わる脊髄後角局所回路における高解像度トレーシング
Project/Area Number |
23659320
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
八坂 敏一 佐賀大学, 医学部, 助教 (20568365)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 神経科学 / 解剖学 / 生理学 / 疼痛 / 局所神経回路 |
Research Abstract |
脊髄後角は感覚入力の入り口であり、病態を考えた時、痛みの情報処理のメカニズムを明らかにすることは非常に大切である。しかし、現時点においてこの部位での細胞レベルの結合様式はほとんど分かっていない。本研究の目的は、痛みの神経回路、特に脊髄後角浅層部の細胞と一次感覚神経が形成している神経回路を明らかにすることである。この目的のために、本研究ではin vivo単一細胞遺伝子導入法と経シナプストレーサーを用いた方法に挑戦し、細胞同士の結合を明らかにすることができる新規な方法を確立することを目指している。この方法を確立するための第一ステップとして、まず単一細胞エレクトロポレーションを確立する必要がある。これには専用機が生産されており、受注生産している。このため納期が9月となった。現在この機器を使用し実験を行っている。最初の段階では遺伝子導入は行わず培養細胞を用いて蛍光色素の単一細胞エレクトロポレーションを行った。新規購入機器の構造は使い慣れた電気生理実験用の機器でと非常に類似しているが、表示パラメーターが異なり、この機器の使用を習熟するには多少の時間を要すると思われる。また、当初簡便と思われた培養細胞を用いてエレクトロポレーションを行うことは、電極の角度と培養細胞の形状が平坦であることがアプローチを難しくしていることが判明し、今後は培養細胞の種類を変更するか、スライスを用いた方法に変更して行う。単一細胞エレクトロポレーションの実験と同時に、今後使用する予定のプラスミドの発現実験を行い蛍光タンパクが融合している経シナプストレーサータンパクが発現しているかどうかを確認する実験を行った。この実験はHEK293細胞使用しの通常の培養系で行った。その結果2種類のプラスミドで予想された蛍光タンパクの発現が確認された。今後脊髄にこれらのプラスミドを単一細胞エレクトロポレーションする予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず非常に重要な段階である実験系のセットアップを完了することができた。受注生産のため納期が9月となり、多少の遅延は発生してしまったが、セットアップを完了し、実際に稼動を開始している。初期の目標として設定しているのは培養細胞を用いて、顕微鏡かで細胞を確認しながら蛍光色素のエレクトロポレーションを行うことである。現在この系で実験を行っており、まだ、成功率は低いものの蛍光色素の注入は可能である。今後、詳細なパラメーターをさらに調整して成功率を上げていく必要がある。また、他大学の先生よりいただいていた将来的に使用するプラスミドベクターは、郵送のためろ紙上にしみこませた状態であったが、プラスミドを大腸菌に再度導入し培養して量を増やし、実験に用いるのに十分な量のプラスミドを得た。大腸菌のクローンは保存したので今後必要な際にはより簡潔なステップでプラスミドを増やすことができる。また、HEK293培養細胞を用いてこれらのプラスミドを発現させた。その理由は、得られたプラスミドが遺伝子組み換えにより導入されている必要なタンパクを発現しているかどうかを確認するためである。リポフェクチン法でトランスフェクションを行った結果想定していた蛍光が見られたため、組み込んだ遺伝子の融合タンパクが発現していると考えられた。従って蛍光色素を使ったエレクトロポレーションのプロトコールの最適化がなされれば、これらのプラスミドをすぐに使うことができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
初(本)年度は実験系のセットアップを第一の目的とし研究を行ってきた。また、同時に今後使用予定のプラスミドの調製を行った。現在セットアップを完了し、実験系を稼動させている。全く新しい実験系である為、試行錯誤を繰り返しているが、今後はエレクトロポレーションの成功率を上げるための詳細な条件設定を行うこと急務である。初年度で明らかとなった問題はHEK細胞は平坦な形態をしているため、電極のアプローチが難しいということであった。他の培養細胞を使うことも視野に入れて実験を行っていく。あるいは培養細胞のステップを省略し、スライスを用いた実験に移行することも考慮して行う。培養細胞あるいはスライスを用いた実験で最適な条件が得られ次第、実際にin vivoでもエレクトロポレーションを確立するための実験に移行する。次に、実際にプラスミドDNAを細胞に導入し、目的の遺伝子を発現させることができるかを確認する。この段階で使用するプラスミドは単にマウスの細胞で蛍光たんぱく質を発現することのできるもので良い。また、エレクトロポレーションが成功したかどうかを判断するために蛍光色素とプラスミドの混合液を用いてこの実験を行う。エレクトロポレーション後、切開した部位の筋肉と皮膚を縫合する。その際、脊髄の露出部位を脂肪片で覆い他の組織との癒着を防ぐ。1日程度の生存期間を置いた後、マウスを灌流固定し、脊髄の組織切片を作成し遺伝子発現の有無を確認する。良好な結果が得られるようになれば、実際に経シナプストレーサーのエレクトロポレーションを行い、適切な生存期間をおいて灌流固定し、組織の観察を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度は実験系のセットアップのため(主に専用機器の購入のため)に、200万円以上の経費を必要とした。現在実験系のセットアップは完了した。そのため24年度以降では、ランニングコストとして、主に動物購入に必要な経費、組織染色等に必要な経費が実験に必要な経費となる。また、学会発表のための旅費、あるいはその他の経費が必要となる。
|