2012 Fiscal Year Research-status Report
痛覚伝達に関わる脊髄後角局所回路における高解像度トレーシング
Project/Area Number |
23659320
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
八坂 敏一 佐賀大学, 医学部, 助教 (20568365)
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Keywords | 神経科学 / 解剖学 / 生理学 / 疼痛 / 局所神経回路 |
Research Abstract |
脊髄後角は感覚入力の入り口であり、病態を考えた時、この部位での痛みの情報処理メカニズムを明らかにすることは非常に大切である。しかし、現時点においてこの部位での細胞レベルの結合様式はほとんど分かっていない。本研究の目的は、痛みの神経回路、特に脊髄後角浅層部の細胞と一次感覚神経が形成している神経回路を明らかにすることである。この目的のために、本研究ではin vivo単一細胞遺伝子導入法と経シナプストレーサーを用いた方法に挑戦し、細胞同士の結合を明らかにすることができる新規な方法を確立することを目指している。この方法を確立するための第一ステップとして、まず単一細胞エレクトロポレーション用専用機器を昨年度9月に購入した。現在この機器を使用し実験を行っている。最初の段階では遺伝子導入は行わず培養細胞を用いて蛍光色素の単一細胞エレクトロポレーションを行った。新規購入機器の構造は使い慣れた電気生理実験用の機器でと非常に類似しているが、表示パラメーターが異なり、この機器の使用を習熟するには多少の時間を要すると思われた。そのためこの機器を用いた実験と並行してこれまで行ってきたパッチクランプによる細胞標識と、一次感覚神経のマーカーを用いた実験も並行して行うこととした。特にアロディニアと関係が深いとされるAベータ線維のマーカーとコンタクトしている細胞について検討している。これらのコンタクトは電顕により実際にシナプスかどうかを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、実験系のセットアップを完了することができた。単一細胞エレクトロポレーション用専用機器は、実際に稼動を開始しているが、操作の習熟に予想以上に時間を要している。そのためこの方法の開発と並行して、パッチクランプ法でラベルした細胞と一次感覚神経週末のコンタクトの検索を行った。この結果複数の細胞タイプで、これらのコンタクトが検出された。今回用いたマーカーは低閾値機械受容器からの情報を伝えているAベータ線維のマーカーであり、アロディニア発症のメカニズムとの関連が示唆され非常に興味深い。 一つは興奮性介在ニューロンで、3-4層でこれらの線維入力を受けていることが確認された。この細胞は1層の投射細胞に軸索を送っていることから、低閾値機械受容器からの情報を伝えているAベータ線維から1層の投射細胞への入力を仲介していると考えられる。すなわち、触刺激が痛み刺激に変換される可能性を示唆している。興味深いことにこの興奮性介在ニューロンは、活動電位を起こしにくい膜特性を示していた。この膜の興奮性を調節している脱分極により開くカリウムチャネルがアロディニア発症のメカニズムに関わっているのかもしれない。 もう一つのタイプは抑制性細胞で、Aベータ線維の終末において軸索‐軸索シナプスを形成し、これらの線維入力をプレシナプス抑制している可能性が示唆された。インビボやインビトロで薬理学的な脱抑制を起こすと、アロディニア様の行動が観察されたり、投射細胞へのAベータ線維からの多シナプス性入力が増加したりすることが報告されているので、この細胞はこれらの病態に関係しているのかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は実験系のセットアップを第一の目的とし研究を行った。また、同時に今後使用予定のプラスミドの調製を行った。現在セットアップを完了し、実験系を稼動させている。全く新しい実験系である為、試行錯誤を繰り返しているが、今後はエレクトロポレーションの成功率を上げるための詳細な条件設定を行うこと急務である。2年目となる24年度も引き続き条件設定を行ってきたが、エレクトロポレーション用の機器の操作習得に予想以上に時間を要していいるため未だ正晃には至っていない。本年度は最終年度に当たるため、この方法の開発を成功させたい。 また、この方法の開発に予想以上の時間を要しているため、他のアプローチにより、局所神経回路を明らかにしようとする試みを行っている。それは、これまで行ってきたパッチクランプ法による記録細胞の標識と免疫組織化学染色を組合わせることで、細胞‐細胞間、細胞‐線維間の結合様式を明らかにする方法である。パッチクランプにより可視化した細胞と、一次感覚神経の中でもAベータ線維のマーかによる染色で、これらの細胞‐線維間でコンタクトが見られた。現在この方法を用いて、2つのプロジェクトを進めており、良好な結果を得ている。本年度はさらに電顕による観察を行い、このコンタクトが実際にシナプスを形成していることを確認する実験を行う。これら2つのプロジェクトは2種類の介在ニューロンについて研究を行っており、本年度中に論文発表を行いたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(3 results)