2013 Fiscal Year Annual Research Report
脳梗塞後のニューロン再生過程における新生ニューロン-アストロサイト相互作用の解析
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23680041
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
金子 奈穂子 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20464571)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ニューロン新生 / 脳梗塞モデル / 反応性アストロサイト / ニューロン再生 |
Research Abstract |
1)新生ニューロンと活性化アストロサイトの接触部の微細構造の解析 バレンシア大学・Garcia-Verdugo研究室にて脳室下帯由来細胞の電子顕微鏡解析法を習得し、脳梗塞部に移動している新生ニューロンとその周囲のアストロサイトの接触を解析した。野生型マウスでは、活性化アストロサイトは新生ニューロンの集団を包むように突起を伸展させていたが、Slit1欠損マウスでは、この突起が新生ニューロンの集団の内部に入り込むなどの異常が見られた。またSlit1欠損マウスでは、新生ニューロン間に形成される断続的な接着結合が拡大し、細胞間隙が減少していた。これらから、新生ニューロンのSlit1が、傷害脳の活性化アストロサイトとの適切な相互作用・新生ニューロン間の接着制御に重要であることが示唆された。 2)低酸素曝露後のアストロサイトと新生ニューロンの相互作用の解析 新生ニューロンがアストロサイトを足場として移動する共培養実験を行った。低酸素刺激でRobo受容体の発現が亢進したアストロサイトは、新生ニューロンの移動速度を上昇させた。一方、Slit1発現を増強した新生ニューロンの移動速度は上昇し、Slit1欠損新生ニューロンの移動速度は野生型に比べて低下した。よって、新生ニューロン-活性化アストロサイト間のSlit-Roboシグナルが、アストロサイトを足場とする新生ニューロンの移動を制御していると考えられる。 3)Slit1遺伝子発現誘導による移動促進の検討 新生ニューロンに持続的にSlit1を発現させるために、Slit1遺伝子をコードするレンチウィルスを作製した。これを用いてSlit1発現を増強した新生ニューロンは、傷害脳に移植すると、対照群と比べてより傷害部周囲に多く分布した。つまり、Slit1発現増強によって、新生ニューロンの傷害部への移動効率が向上することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでに得られたin vivo, in vitroの実験結果から、以下の3点が明らかになった。 1)新生ニューロンは脳室下帯を離れて傷害部へ移動し始めるとSlit1の発現が低下してくる。一方、非侵襲時にはRobo受容体を発現していない線条体のアストロサイトは、傷害によって活性化されるとRoboを強く発現するようになる。 2)新生ニューロンがアストロサイトを足場として移動するとき、Slit-Roboシグナルがその接触や相互作用に関与している。 3)新生ニューロンのSlit1発現を増強することにより、脳室下帯から活性化アストロサイトが分布する傷害部への移動が促進される。 これらは、本研究課題である、傷害後の新生ニューロン-アストロサイト相互作用の分子メカニズムとして、Slit-Roboシグナルが重要な役割を果たしていることを示唆している。昨年度までに計画した実験計画はほぼすべて遂行し、課題に即した成果を得ている。更に、バレンシア大学で、3ヶ月に亘って専門性の高い脳室下帯の電子顕微鏡解析法を習得したことにより、新生ニューロンと周囲組織や環境との相互作用について、超微細構造を含めた新たな視点で解析することができた。これは、本研究課題全体に影響を与える重要な経験となった。 また、次年度の実験の準備として、歩行解析装置を用いた神経機能の解析法の検討、あらたなSlit発現ベクターの構築、スライス培養法の検討なども行っており、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究成果から、新生ニューロンが発現するSlit蛋白質が、傷害脳で活性化したアストロサイトの間をスムーズに通過し、効率よく傷害部へ移動するのに重要であることが示唆された。今後、このシステムを応用し、ニューロンの再生促進・神経機能の改善が可能であるか、また、移植医療への応用性について、以下のように検討を行っていく。 1)Slit-Roboシグナルを用いたニューロン再生促進作用の解析:Slit1の持続発現によって新生ニューロンの傷害部への移動が促進されることが分かった。そこで、実際にこの効果が長期的なニューロンの再生に繋がるかを検討する。作製したレンチウィルスを用いて、脳室下帯から単離した新生ニューロンに持続的にSlitを発現させ、脳梗塞モデルマウスに移植し、後の移植細胞の分布・分化・成熟度の解析を行う。 2)多能性幹細胞を用いたニューロン再生法への応用性の検討:動物レベルでは、ES細胞またはiPS細胞から誘導した新生ニューロンを移植細胞として用いて、ニューロンを再生させる研究が進んでいる。これらの細胞移植において、Slit-Roboシグナル活性化によるアストロサイトとの相互作用の促進が、新生ニューロンの分布やニューロン再生効率の向上にどのような影響を与えるか解析する。 3)歩行解析装置を用いた神経機能改善の定量的解析:自動歩行解析装置を用いて、同一個体において経時的に歩行解析を行い、脳梗塞後の運動機能の回復過程を定量的に評価する方法を確立する。これを用いて、上述のSlit-Roboシグナル増強による再生促進が、機能的改善に寄与する可能性を検討する。
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[Presentation] Sustained release of growth factors from gelatin hydrogel microspheres enhances neurogenesis in the adult mouse brain.
Author(s)
Nakaguchi, K., Jinnou, H., Kaneko, N., Sawada, M., Hikita, T., Saitoh, S., Tabata, Y., Sawamoto, K.
Organizer
Neuro2013
Place of Presentation
国立京都国際会館(京都)
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