2012 Fiscal Year Annual Research Report
効率的な体細胞クローンの作出へ向けたクローン特異的X染色体発現抑制に関する研究
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23680048
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
井上 貴美子 独立行政法人理化学研究所, 遺伝工学基盤技術室, 専任研究員 (70360500)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 体細胞核移植 / エピゲノム / クロマチン |
Research Abstract |
24年度は、クロマチン免疫沈降法(ChIP)のさらなる改善を目指して研究を行った。ChIPは、ゲノム上におけるクロマチンの修飾や各種因子の結合を解析するのに有効な技術であるが、通常の手法では10E7個以上の細胞数を必要とするため、初期胚を用いた解析には適さない。そこで本法を体細胞核移植クローン(SCNT)胚に応用すべく、ChIPの微量化と感度の向上について開発を試みた。 昨年度までに、実験系の微量化とDNA吸着による損失を避けるための器具類の選択や抗体の選別を行うことによって、胚盤胞期胚を用いた実験系においては再現性が見られることを定量PCRを用いて明らかにした。今年度は更にゲノムワイドな解析を目指して、タイリングアレイによる修飾解析について技術開発を行った。 1. 微量DNAの増幅:マイクロアレイ解析に使用するには、十分量のDNAが必要であるため、ChIP DNAを増幅する必要がある。そこでin vitro transcription法とPCR法による増幅を試みたところ、何れの方法でもラベリングに十分なDNA量が得られた。 2. ラベリングとハイブリダイゼーション条件の検討:次にこの増幅DNAを用いてラベリングを行い、タイリングアレイにハイブリダイゼーションを行ったところ、良好なハイブリ像が得られた。 3. ヒストン修飾解析:ヒストン修飾解析では、転写活性型修飾であるヒストンH3K4me3の再現性が特に良好で、遺伝子発現量と相関している事が明らかとなった。ハウスキーピング遺伝子である6番染色体Gapdh付近の遺伝子は特に高い蓄積が見られ、体細胞に見られるパターンと大きく異なっていることが明らかとなった。またサンプルの微量化については、3個(300細胞)程度の胚があれば、ピーク値は落ちるものの、再現性良く修飾が確認できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、本年度はSCNT胚への応用を目指し、ChIP技術の改善を行ってきた。通常、ChIPは10E7個程度の細胞数が必要とされ、十分な細胞数が得られない初期胚に適用することは困難である。本年度はマウス胚盤胞期胚(細胞数50~100個)100個程度、すなわち10E4個以下の細胞数で、適用可能なゲノムワイドChIP技術を開発してきた。 具体的には、実験系の微量化とDNA吸着による損失を避けるための器具類の選択、抗体の選別を行い、さらに、マイクロアレイ解析に必要なDNAの増幅やハイブリダイゼーション条件の検討を行ってきた。その結果、胚盤胞期胚3個程度、すなわち300個以下の細胞数で、ヒストンメチル化のエンリッチが再現良く認められ、初期胚にも十分に適用可能な技術を開発することができたと言える。更に、今年度の目標の一つであった、ゲノムワイド化を目指したマイクロアレイ解析への応用についても、ほぼ見通しが立ち、今年度の目標のいくつかは達成できたと言える。しかし一方で、SCNT胚への同法の適用や次世代シークエンサーへの応用については、まだ達成できておらず、来年度の最重要課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに微量ChIPの基礎となる部分は固まってきた。しかし、本法においては、未だ下記の問題点が残されており今後はそれらの解決に向けてさらに実験を行っていきたいと考えている。 1. 使用可能な抗体の選別:ここまで技術開発に使用してきたのは比較的安定して修飾が観察されるヒストンH3K4me3抗体である。一方で、抑制性の修飾であるH3K9me2抗体はChIPグレードで市販されているものであっても、十分なエンリッチ情報を得るのが困難であることが分かっている。従って、次年度以降は本法に適した抗体の選別を第一に行っていきたいと考えている。 2. SCNT胚への適用:本年度にChIP技術の微量化を行ったことで、SCNT胚のような多くを獲得する事が困難なサンプルにも適用できる可能性が出て来た。次年度以降はそういった貴重なサンプルを用いて、解析を行っていく予定である。 3. 次世代シークエンサーへの応用:ここまでの解析はタイリングアレイを用いて行っており、増幅DNAを用いて再現性のある結果が得られている。しかしながら、現在のタイリングアレイが搭載できるプローブ数は多くても200万個程度であり、ゲノム全体のクロマチン修飾を把握することは困難である。そこで、より広い範囲を解析できる次世代シークエンサーへの適用を目指したいと考えている。一方で、次世代シークエンサーは繰り返し配列などの解析には弱点があるので、タイリングアレイとも併用して、両技術により情報を補完できるように研究を推進していきたい。
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Research Products
(5 results)