2012 Fiscal Year Annual Research Report
マウスの過剰な攻撃行動を発動するセロトニン神経活動の解析
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23683021
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
高橋 阿貴 国立遺伝学研究所, 系統生物研究センター, 助教 (30581764)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 過剰な攻撃行動 / セロトニン / 背側縫線核 / 光遺伝学 / 遺伝マッピング / コンソミックマウス系統 |
Research Abstract |
本研究では光遺伝学的手法を用いて、①背側縫線核セロトニン神経系の興奮、抑制が過剰な攻撃行動を誘発するかを直接的に検証する。さらに、順遺伝学的手法を用い、②過剰な攻撃行動とセロトニン神経活動に関わる遺伝要因の同定を試みる。本研究により、過剰な攻撃行動の生物学的基盤としてのセロトニンの役割を明らかにし、それを抑制するためのメカニズムを探索する。 ①セロトニン神経活動を直接的に制御するために、背側縫線核セロトニン神経に光受容体を発現させて、光刺激によって活動の制御を行う。本年度から、Tet発現系を用いたTph2発現領域(セロトニン神経)に特異的にChR2(活性化)もしくはArch(抑制化)を発現させるトランスジェニックマウスの解析が可能となった(名古屋大学山中章弘博士と慶応義塾大学田中謙二博士との共同研究)。しかし、遺伝的な背景の影響によるものか、トランスジェニック個体は攻撃行動を示さず、光刺激による攻撃行動の増加・抑制を観察することが不可能だった。そこで現在、a)C57BL/6J系統への戻し交配(現在N5)、そしてb)攻撃行動をよく示すICR系統との交配を行っており、来年度にはこれらの個体の解析を行うことが可能となる。別のアプローチとして、Tph2プロモーター下にChETA(ChR2の改変型)を発現するレンチウイルスを用いて、ICR系統の背側縫線核に感染させ、光操作を行うための準備を進めた。 ②過剰な攻撃行動に関わる遺伝要因の同定のために、過剰な攻撃行動を示すMSM系統のコンソミックマウス系統を用いて攻撃行動の解析を行った結果、染色体4番と15番を持つ系統において、高い攻撃行動が示されることが明らかになった。これらの系統について、セロトニン受容体や合成酵素のmRNA発現、そして脳内セロトニン量の違いを検討するとともに、コンジェニックマウスの解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス系統によって攻撃行動を示さない可能性があるということは当初からある程度想定していたとはいえ、残念ながらChR2・Arch発現トランスジェニックマウスは攻撃行動をほとんど示さなかった。この問題を解決するために、早急にC57BL/6Jへの戻し交配やICR系統との交配という対応を取っており、来年度中には解析を行うことが可能である。また、京都大学金子周司博士と永安一樹博士との共同研究により質の良いセロトニン神経特異的ChETA発現レンチウイルスの準備もできており、ICR系統での解析も行っていく。2つのアプローチを並行することで、来年度中にはセロトニン神経の光操作による攻撃行動の変化を解析することが可能であると考えられる。 攻撃行動の遺伝マッピングについては、4番染色体コンソミックはセロトニンの受容体やTph2の脳内mRNA発現がB6とは異なるのに対し、15番染色体コンソミックはそれらの発現に変化がなかったことから、4番染色体上の遺伝子はセロトニン神経系に影響を与え、かつ過剰な攻撃行動を引きおこす遺伝子である可能性が示唆され、一方15番染色体上の遺伝子はセロトニン神経活動には依存せずに攻撃行動を増加させることが示唆されている。コンジェニック系統の解析によって、これらの関係を更に検討していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
攻撃行動中の光操作の実験系は確立できており、攻撃行動が高いICR系統においては問題なく光操作が行うことができる。戻し交配(N5世代)のトランスジェニック系統やICRとの交雑トランスジェニック個体について、現在個体が生まれてきているところであるので、順次攻撃行動の程度の検討を行った後に、光操作を行っていく予定である。また、レンチウイルスの感染系では、ICR系統の背側縫線核にステレオタキシスを用いてレンチウイルスを注入し、感染3週間以上経過したのち光受容体が背側縫線核セロトニン神経に安定して発現した段階で、光操作の攻撃行動への影響を検討する。 また、順遺伝学的な解析も更に進めていく。野生由来MSM系統の過剰な攻撃行動に関わる染色体(4番と15番)が明らかとなったことから、HPLC解析を用いてこれらのコンソミックマウス系統のセロトニン量を定量している。また、コンジェニック系統の作製によりこれらのコンソミック系統の遺伝子座を狭めていく。15番染色体についてはかなり狭い領域まで同定されてきており、候補遺伝子も数個に絞られてきている。 また、攻撃行動を抑制するための脳回路の解析にも着手を始めている。前頭前野は攻撃行動の制御に重要な役割を持つことが、ヒトからげっ歯類において報告されている。そこで現在、前頭前野の興奮性神経の活性の光操作を行うことで、攻撃行動がどのように変化するかについても検討を行っており、影響があることが見えてきていることから、今後この解析も進めていく予定である。
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Research Products
(7 results)