2012 Fiscal Year Annual Research Report
高分子ベシクルを用いた人工オルガネラの創製と細胞内配置技術の開発
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23685037
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岸村 顕広 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70422326)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ポリイオンコンプレックス / ベシクル / ブロック共重合体 / 人工オルガネラ / ドラッグデリバリーシステム / ナノリアクター / タンパク質デリバリー |
Research Abstract |
本研究では、Nano-PICsome(直径100-400 nmでサイズ可変な生体適合性高分子ベシクル)の技術を発展させ、細胞内で作動するナノリアクター、即ち、人工オルガネラの創出を目指している。24年度は、下記の1.-4.を実施した。 1. 新規Nano-PICsome型ナノリアクターの作製:本年度は、PICsome型ナノリアクターの挙動を追う上で意義深い発光イメージング利用可能な酵素として新たにルシフェラーゼに注目して評価を行った。ルシフェラーゼ封入PICsomeに基質を作用させたところ、適切に発光が生じることを見出した。 2. ナノリアクターの物質透過性制御:前年度確立した架橋度制御法を基に、PICsome内からの高分子物質の放出挙動を評価した。その結果、架橋度や溶液の温度に応じて透過性が変わりうることを見出した。 3.諸物性を制御したNano-PICsomeの細胞取り込みの検証:前年度、残存アミノ基の化学修飾法をさらに発展させ、膜物性の異なるPICsomeの構築を進めた。特に、アミノ基、カルボキシル基をPIC膜内に選択的に残す手法を確立した。一連のPICsome(直径100 nm)に蛍光標識を施し、共焦点レーザー顕微鏡による細胞内動態観察、及び、イメージングサイトメトリーを用いた定量を行ったところ、PIC膜内にアミノ基が残っている場合のみ、細胞内への取り込みが著しく向上することが明らかとなった。この結果は、架橋率が低いPICsomeが有意に細胞内に取り込まれている結果と対比して非常に興味深い。 4.PICsome表面へ細胞取り込みを制御するリガンドの導入:本年度は、PICsome表層(PEG末端)へのcRGDの導入法を確立し、培養細胞を用いてその機能評価を行ったところ、取り込み時間の短縮効果があることが分かった。今後、細胞内運命などの詳細について検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究で掲げた目標は、細胞内で作動するナノリアクター、即ち、人工オルガネラの創出し、さらに細胞内動態を考慮に入れた上でナノリアクターを細胞内へ適切に配置する技術を開発することである。これらの達成のために、(1)酵素や抗体の封入と、種々のナノリアクターの作製とその活性の確認、(2)膜の物質透過性を架橋率や膜の修飾により制御し、同時に環境応答性を付与する手法の模索、(3)PICsome物性とPICsomeの細胞取り込み・細胞内動態の相関の評価、(4)PICsomeの細胞質導入とナノリアクターの機能評価、(5)Nano-PICsome表面へのリガンド分子導入と、細胞取り込み・細胞内動態の制御、の5つの項目主たる研究項目として配置しているが、23年度、24年度の研究を通じて、項目1-3,5については一定の成果をバランス良く上げており、残る項目4.の達成に向けての準備は25年度に入る前に十分に整っており、補助事業の研究期間内の完了はほぼ間違いなく、前倒しでの達成も期待できる状況である。加えて、これまでの成果において研究計画段階で期待した以上の知見が様々得られており、PICsomeの細胞内利用に関してさらに発展的な成果を得るに至っている。以上より、本研究課題は、当初の計画以上に進展していると結論できる。
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Strategy for Future Research Activity |
前掲の項目2-5について引き続き検討を進め、特に4に注力して研究を進める。具体的には、項目(2)について、 前年度までに確立した膜修飾法に基づき、環境応答的な物質透過性の制御を試みる。具体的には、膜物性を変えたサンプルについて詳細な物質透過性評価を行い、主にサイズ排除クロマトグラフィーやフィールドフローフラクショネーションなどの手法を用いて、一連の分子量の異なるデキストラン、ポリエチレングリコールなどのリリースプロファイルを取得する。また、親水性や疎水性が異なる試薬によるPIC膜の化学修飾も視野に入れ、透過性などとの相関を探る。これらを通じ、内包物を保持しつつ細胞内に配置されるためのPICsome設計の要件を整理する。項目(3)について、前年度に引き続いて膜物性の異なるベシクルの細胞取り込みとその動態を明らかにする。同時に、エンドソームエスケープを行うための機能素子の搭載も検討し、自発的に取り込み→細胞質移行を可能にできる設計を模索する。項目(4)について、人工オルガネラとしての機能を細胞実験により評価する実験を行う。25年度は、外来の酵素を封入したナノリアクター型PICsomeを細胞質に導入し、その機能評価を行う。具体的には、フォトケミカルインターナリゼーションや、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションなどの化学的、物理的手段を用いての細胞質導入を試み、人工オルガネラとしての基礎的知見を得る。また、より発展的な内容として、小動物を用いる実験を行い、in vivoでナノリアクターの機能評価を行う実験も予定している。項目(5)について、細胞内動態のさらなる制御に向けて、Nano-PICsome表面へ細胞取り込みを制御するリガンドとしてcRGDのペプチドリガンドを導入し、細胞質内への配置挙動を評価する。
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