2012 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳類におけるメラトニンおよびその前駆体の生理学的意義の解明
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23687010
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
笠原 和起 独立行政法人理化学研究所, 精神疾患動態研究チーム, 副チームリーダー (50344031)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アセチルセロトニン / メラトニン / マウス |
Research Abstract |
マウスをモデル動物としてメラトニンやその前駆体であるN-アセチルセロトニン(NAS)の生理学的な役割を明らかにするために、C56BL/6J系統(メラトニン合成系の最終酵素HIOMTと最後から2番目の酵素AANATとの両方の活性を失っている)とMSM/Ms系統(両酵素とも活性を保持している)のマウスを掛け合わせ、メラトニンを合成できるマウス(MEL+)、メラトニンを作れないが前駆体のNASは合成できるマウス(NAS+)、どちらも作れないマウス(none)を作製した。遺伝的な背景が均一となるように、C56BL/6J系統またはMSM/Ms系統にコンジェニック化を行った。10回以上のバッククロスを行い、ゲノムワイドに設定した80~100カ所のマーカーを調べて、コンジェニックが完了したことを確認した。3群のマウス(MEL+、NAS+、none)の輪回し行動解析を行ったが、概日リズムに関するさまざまな行動のパラメータには違いがなかった。しかし、その他の行動学的解析では、特に、NAS+のマウスにおいていくつかの違いを見出した。NAS+マウスは、尾懸垂試験では無動時間が有意に短かった。また、社会性接触の亢進や、記憶の保持が良くないことを示唆するデータを得ることができた。多くの実験マウスの系統は長い間、飼育されてきた中で、NASを合成する能力を失ってしまった(Aanat遺伝子に変異が生じて固定された)が、NASが多く分泌されることは、馴化・愛玩化に邪魔だったかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
N-アセチルセロトニン(NAS)を合成できるがメラトニンに代謝できずにNASを分泌するマウス(NAS+)が、予想していたよりも、多様な表現型を示すことができた。反対に、メラトニン合成能を持つマウス(MEL+)に関しては、すでに報告した性成熟の早熟以外の表現型をこれまでに見出せていない。NASの生理的な役割、NASの合成能に関わるAanat遺伝子の飼育舎内進化に、今後は注目していくべきだという、研究を進めるべき方向性が見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、2遺伝子の遺伝子型の組み合わせによって、比較すべき3種類のマウス群を作成しているが、このような複雑な遺伝子型のマウスの交配をすることは、実験に使用するマウスの数を増やすことにつながる。使用数を抑制するためには、別の研究手法も用いることを考慮中である。すなわち、遺伝的にメラトニンやNASの合成能が決まっているマウスを作出するのではなく、それらの合成能がないマウスにメラトニンやNASを投与する方法を利用する。ただし、離乳前あるいは胎児期のマウスに投与するには母獣を介することになるが、同腹のコントロール(非投与群)を作ることが難しい、という欠点がある。投与による方法と遺伝的に合成能を規定する方法は、得られた結果の解釈にあたって、相補的に役立つと考えられる。
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