2012 Fiscal Year Annual Research Report
糖鎖修飾によるEphrin/Ephシグナルの制御機構と生理的意義
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23687032
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千原 崇裕 東京大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (00431891)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | Ephrin / Eph / 神経回路 / 糖鎖修飾 / 小胞体 / ショウジョウバエ |
Research Abstract |
ショウジョウバエ嗅覚系神経ORNとPNをモデル系として、Meigo変異体の解析を進めた。MARCM法によりPNをmeigo変異ホモ接合体にした場合(meigo変異体PN)、その樹状突起はすべて正中線側へシフトした。更にmeigo変異体ORNを作成した場合も、ORN軸索は正中線側へシフトした。これらの結果から「触角葉内には正中線-側方軸方向の軸情報があり、ORN軸索、PN樹状突起はそれら位置情報を利用して最終的な糸球体を選び出していること」、及び「meigo変異体神経細胞では、この位置情報認識に異常があること」が想定される。meigo変異の原因遺伝子は、小胞体に存在する糖核酸トランスポーター様分子であり、小胞体ストレスによって発現誘導される。私は「Meigoは、小胞体において神経突起ターゲティングに必要な膜分子の修飾に影響し、その結果として神経突起ターゲティング制御に関わっている」と仮説を立て、meigo変異と遺伝学的に相互作用する細胞膜表面分子を検索した。その結果、PN樹状突起ターゲティングに関してmeigo変異と強く遺伝学的相互作用する因子としてEphrinを見出した。更に、遺伝学的・生化学的解析を進めた結果、① Ephrinは4カ所でN型糖鎖修飾を受けること、② Ephrin上のN型糖鎖修飾はEphrinの機能発揮に必要であること、③ Meigoの量に対応して、Ephrin N型糖鎖修飾の程度が変化すること、を見出した。すなわち、小胞体膜上に存在するMeigoは、EphrinのN型糖鎖修飾を介してEphrinの機能を調節し、神経回路形成に寄与していることが明らかになった。これまでEphrinの糖鎖修飾に関してその可能性は示唆されていたものの、生化学的・遺伝学的検証を行われておらず、今回の研究結果は、Ephrin機能に対する新たな制御機構を提示するものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究提案を立案した時点では、小胞体に局在する分子MeigoがEphrinの糖鎖修飾を介して、その機能を制御することを想定していた。しかし、様々な生化学的、細胞生物学的実験を行うことにより、Meigoはephrin糖鎖修飾を促進する機能に加えて、「ephrin分子を効率的に形質膜へ提示すること」にも寄与していることを見いだした。更に、ephrin分子の量を効果的にノックダウンするトランスジェニックショウジョウバエを作成することにより、嗅覚系神経PN発生におけるephrinの正確な機能を明らかにすることに成功した。また、「ほ乳類一細胞遺伝子マイクロアレイ法」の技術をショウジョウバエに応用することにより、発生過程の嗅覚系神経PNにおけるephrin遺伝子の発現を示すことにも成功した。これらすべての結果をまとめ、国際科学雑誌ネイチャーニューロサイエンス誌において発表することができた。また、この研究成果は日経新聞、 Yahooニュースなどにも取り上げられた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究過程において、Ephrin機能の制御における糖鎖修飾の役割が明らかになってきた。今後は、本研究過程で見いだした「ephrin/Ephシグナルの樹状突起ターゲティング、及び軸索ターゲティングに関する機能」に焦点を当て本研究課題の内容を更に深めていく。以下、具体的に内容を記す。これまで私は、ephrin/Ephシグナルが、ショウジョウバエ嗅覚系一次中枢「触角葉」内の特に「DA1糸球体」における神経回路形成に関わる可能性を示す結果を得ている。DA1糸球体は、ショウジョウバエが性フェロモンの感知に利用するシナプス構造体である。今後は、ショウジョウバエ脳内一細胞モザイク解析法、CRISPRゲノム改変法などの最先端の遺伝学的手法を駆使し、生体内においてephrin/Ephシグナルがどのように神経回路形成を制御しているのか、その作動原理を生体内一細胞レベルの解像度で解明していく。
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Research Products
(3 results)