2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23700158
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
美添 一樹 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (80449115)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 探索アルゴリズム / モンテカルロ法 / 並列計算 / 人工知能 / 囲碁 |
Research Abstract |
本年度の成果として、グラフ探索アルゴリズムの一つであり汎用性が高いと期待されているモンテカルロ木探索を分散メモリ並列計算機 (スーパーコンピュータを含む) の上で効率よく動作させる手法を提案した。また、東工大の Tsubame2 スーパーコンピュータなどの上で1,000CPUコア以上を用いる性能測定実験を行い、600~750倍程度の速度向上を得た。グラフ探索アルゴリズムの並列化は難しく、従来は分散メモリ並列計算機の利用した場合の速度向上は数十倍にとどまっていた。この点を考慮すると上記の成果は非常に有望である。具体的には分散ハッシュテーブルを用いた並列探索手法をモンテカルロ木探索の代表例である UCT アルゴリズムに適用する手法を提案した。簡単な手法では通信が1点に集中することが性能向上のボトルネックとなり、数十倍の速度向上が限界であることを示し、さらにその解決策として UCT アルゴリズムを深さ優先的な動作に変更した df-UCT アルゴリズムを用いることを提案した。対象とする問題として仮想的なゲーム木を用意し、グラフの形状によって速度向上がどのような影響を得るか分析を行い、有用な知見を得た。また、モンテカルロ木探索の弱点を補完する手法を提案した。モンテカルロ木探索は確率的なアルゴリズムであり、特に UCT アルゴリズムは時間をかければ最善解に収束することが示されている。しかしグラフの形状によっては解に到達することが非常に遅くなる場合があることが知られている。統計的な指標を工夫することにより、そのような場合に収束を早める手法を提案し、実際に性能向上が得られることを示した。従来は個々の問題毎に問題の知識を利用した手法が用いられていたが、汎用的な手法の有効性を示したことは有意義である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
分散メモリ型並列計算機を用いてモンテカルロ木探索を高速化するために解決するべき課題として挙げたものは a, 均等な負荷分散手法の実現, b, グラフ合流による問題の解決 c, 確率的探索であるための弱点の補完の3点である。まず、a, b, を解決した並列化手法を提案し、実際に並列化版のモンテカルロ木探索を実装し、仮想的なゲーム木を対象とした実験を行って性能を測定した。数百倍以上の速度向上を達成する手法を明らかにすることを目標としたが、既に 1,200 CPU コアを用いて 600~750倍程度の速度向上、4,800 CPUコアを用いた実験では 1,500倍以上の速度向上が得られている。実験は複数の分散並列計算機上で行った。主に高速なネットワーク (Infiniband) で接続されたクラスタ (スーパーコンピュータ) を用いたが、安価な環境での性能を測定するために広く普及している ethernet を用いたクラスタ上でも性能を測定した。また、c, を解決するために統計的な指標に簡単な工夫を加えることを提案し、複数のゲームにおいて勝率の向上につながることを示した。モンテカルロ木探索はゲーム木の形状によって性能が低下する場合があるが、この手法によりそのような場合にある程度対処することが可能である。従来は問題の性質を利用して個別に対処していたが、本手法は汎用的に利用可能な物である。ここまでの成果により、従来は困難であった分散並列計算にによるモンテカルロ木探索の高速化手法が可能であることを示した。これは平成23年度の計画としては十分に達成されたと言える。特に速度向上の数値は計画当初の目標を上回る性能を示している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の実験結果から得た知見を元にさらなる速度向上を得る試みを進める。また、今まで応用されてきた問題以外の問題に適用し、有用性を示す。理論面の弱点については、さらなる手法を検討すると共に、複雑な数式を用いた場合に、現実的な速度で探索を行う手法を研究する。速度向上について。昨年度は主に 1,200 CPUコア程度を最大とする計算機環境を用いて実験を行っていた。その結果、期待を上回る速度向上を得た。そこでさらに 4,800 CPUコア程度を用いた予備実験を行い結果を解析したところ、予想していなかったボトルネックがあることを発見した。今後は新たに発見されたボトルネックを解消する方法を明らかにし、 1万CPUコア以上で 5,000 倍以上の速度向上を得るために必要な手法について研究を行う。弱点の補完について。提案した確率的探索の弱点を補う手法はまだ改善の余地があると期待される。しかし探索速度の制約から、計算が簡単で効果のある手法に限定して研究を行っていた。今後は二つの方向で研究を進める。まず、理論的には良いが複雑なために計算時間がかかる手法を、圧縮したテーブルなどを保持することによって高速化する。また、特定のグラフ形状に絞って有効な手法を複数提案し、探索中に動的に手法を変更することによって性能向上を得る。応用について。大規模なグラフ探索が必要となる問題、従来のグラフ探索アルゴリズムが苦手とする問題などにこの手法を適用し、有効性を示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
グラフ探索は多くの問題で必要となる。その際には A* 探索などが現在標準的に用いられている。それと同様に、様々な問題解決のためのフレームワークとしてモンテカルロ木探索が選択肢の一つとなることを目指す。様々な問題に提案手法を適用する場合、良い性能を得るためには問題が持つグラフの形状や、実行する計算機の性能などに応じてパラメータを調整する必要がある。そのためには理想的にはスーパーコンピュータを用いた実験を長時間行うことが良いが、そのための費用が問題となる。そこで事前の実験環境として小規模な並列計算環境が必要となる。昨年度購入したワークステーションに加えて複数のワークステーションを購入し、並列プログラムの開発および調整を行うための環境を整えることが必要である。モンテカルロ木探索はコンピュータ囲碁の棋力向上に非常に有効であることが知られている。提案手法を元に、コンピュータの棋力をプロ囲碁棋士に近いレベルに引き上げればアルゴリズムの有効性を広く周知することができる。そのためには囲碁プログラムの大会などに参加し、強さを示す必要があり、高性能かつ持ち運び可能なコンピュータも必要である。研究成果を発信するための学会発表の旅費、研究打合せのための旅費なども必要である。
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Research Products
(2 results)