2012 Fiscal Year Research-status Report
前期から最晩期へ至るウィトゲンシュタインの世界観の変遷
Project/Area Number |
23720003
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山田 圭一 千葉大学, 文学部, 准教授 (30535828)
|
Keywords | ウィトゲンシュタイン / 世界 / 可能性 / 文法 |
Research Abstract |
二年目となる今年度は、一年目の成果を踏まえて前期ウィトゲンシュタインの世界観が中期から最晩期の世界観へと転換していく過程を明らかにすることを試みた。 一年目の成果として得られた否定可能性に関する考察をさらに展開し、「この対象は赤い」を否定する可能性の体系としての色の文法体系の内実を明らかにするとともに、ウィトゲンシュタインの前期の思想と中期の思想のうちで現実世界と否定命題との一致・不一致がいかにして可能となるのかを解明した。 その上で、最晩期の蝶番命題の否定において提示される可能性を前期の論理空間内の可能性と中期の文法体系内の可能性との対比において分析し直した。その結果として、否定可能性の領域が、<論理空間内的・文法体系内的可能性>、<論理空間内的・文法体系外的可能性>、<論理空間外的・文法体系外的可能性>の三つに区分されうることが明らかになった。このことによって、最晩期ウィトゲンシュタインがこの後者二つの可能性についての考察を行っていたことを明らかにし、この両者の可能性がそれぞれ言語ゲームの可能性の条件と言語ゲーム一般の可能性の条件となっていることを解明した。そして、このような可能性がある種の自然的・歴史的事実の否定可能性であることを明らかにし、ウィトゲンシュタインの世界観における一つの変化を解明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画において二年目に明らかにしようとしていたのは、前期ウィトゲンシュタインの描く独我論的世界観の中にいかにして「他なる私の世界」=「他者の世界」についての考察が入り込むようになっていったのかという点であった。 しかしながら、一年目の考察において現実世界において成立していない否定可能性についての前期ウィトゲンシュタインの考察を分析したことによって、この考察の延長線上で中期及びそれ以降のウィトゲンシュタインの世界の捉え方を明らかにしていくことによって、前期から最晩期への世界観の変遷についての統一的な描像を与えることができるのではないかと考え、そちらの分析を優先して行った。そして、このことによって、三年目に予定していた世界の歴史的側面と自然的側面について考察が前倒しして行われることなった。具体的には、ある種の自然的事実を記述した命題は論理空間に位置づけられるにもかかわらず、文法体系の中には位置づけられないことを示すことによって、その種の命題が文法成立のための超越論的な歴史的事実をも示していることを明らかにした。 したがって、三年目の予定と二年目の予定を入れ替えて、他者の世界の問題に関しては三年目に改めて考察し直すことにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」で言及したように、昨年三年目の予定を前倒しして遂行したので、本年度は当初の二年目の研究で予定していた「他なる私の世界」についての考察がウィトゲンシュタインの中で登場する契機を見出し、前期の独我論的世界観からの展開の道筋を明らかにすることを目指す。 前期の独我論的世界観において、世界は「私の世界」であり、そこには本来的な意味での他者は存在していなかった。中期の『哲学的考察』の時期においても、一人称的の痛みについては「痛みがある」という人称を消去した存在命題として語る一方で、三人称的の痛みについては行動主義的に記述する、という言語の可能性が考察されている。このような行動に還元されたない「他なる私の世界」がウィトゲンシュタインの哲学においてどのような位置をもつのかを明らかにしていきたい。 この目的を達成するために探求していくテキストは、前期ウィトゲンシュタインの試行錯誤の軌跡が書きとめられた『草稿1914-1916』と中期ウィトゲンシュタインの思考的変遷が垣間見られる『哲学的考察』、そして後期ウィトゲンシュタインが個人的体験について検討を試みた『青色本』の後半部である。加えて、未刊行の遺稿に関してはデジタルアーカイブのNachlassをもとに、研究を進めていく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定と異なり、研究発表の場が関東圏に固まっていたこと、および、文献収集の量が当初の予定よりも少なくなったがゆえに、次年度使用額が生じた。 したがって、次年度はウィトゲンシュタインの世界観についての考察の足場とするために、前年度収集したウィトゲンシュタインに関する二次文献ではカバーできていない分野の文献収集を積極的に行っていく。具体的には、第一にウィトゲンシュタインと心の哲学や知覚の哲学との関係性を考えるための著作群である。心の哲学および知覚の哲学に関しては近年さまざまな先進的な研究成果が蓄積されてきているところであるが、これらの研究成果の蓄積をウィトゲンシュタインの哲学といかにして結びつけることができるのか、という観点から幅広く文献を集めて分析を試みたい。また、ウィトゲンシュタインの主体についての考察や他我問題について考察したについて分析した二次文献等も近年続けて刊行されており、これらも購入することを予定している。 さらに、研究成果を発表したり、あるいは同分野の研究者と研究情報の交換を行うために国内学会、国際学会を含めて可能な限り参加することを考えている。 それから、前年度から国内の若手研究者とともに「ウィトゲンシュタイン研究会」を始めたので、その会において講演会等を行った場合の旅費等への支出も計画している。
|
Research Products
(5 results)