2013 Fiscal Year Research-status Report
チベット伝来梵文仏典写本を用いたインド・チベット文化交渉史の総合的解明
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23720030
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Research Institution | Koyasan University |
Principal Investigator |
加納 和雄 高野山大学, 文学部, 准教授 (00509523)
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Keywords | 梵文写本 / 仏典 / インド・チベット文化交渉史 / 国際研究者交流 / チベット: ネパール: イタリア: ドイツ |
Research Abstract |
[研究目的]本課題はチベット伝来梵文写本を巡って織りなされたインド・チベット間の文化交渉史という視座から、写本および付随する事象を総合的に解き明かそうとするものである。すなわち (A) チベット伝来の梵文仏典写本の由来、(B) インドからチベットへの梵文仏典写本の流伝の様相、(C) 梵文仏典写本がチベット文化に与えた影響、という三点から逐次解明をめざす。 [研究実施状況]本年度は(B)(C)について研究を行った。前年度に行ったアティシャがチベットに将来した梵文写本について補充調査をし、チベットでの借覧状況を附加し改訂版を英訳した。成果はCarmen Meinert (Ed.): Periphery as Centre―Transfer of Buddhisms between Hubs in Eastern Central Asia (9th to 13th Centuries), Brill, 2014に収録予定。またカシュミールに由来しチベットに伝世する仏典梵文写本の調査を継続。その一つ、1057年書写の密教儀礼集成本にはジュニャーナパーダの『普賢成就法』本文が含まれている点確認し、『密教学研究』に投稿。さらに11-12世紀ころに記された15点以上の作品を含む仏典集成本について、李学竹、葉少勇両氏と共同研究を行い、共著論文を刊行。 [海外学会・研究会]2013年8月16~30日、中国蔵学研究中心の李学竹副研究員を京都に招聘、『牟尼意趣荘厳』の梵文校訂作業を行う。2013年8月31日~9日1日、日本印度学仏教学会(於松江)で研究発表。2013年9月4日~16日、ハンブルグでIsaacson教授らと共同研究、およびナポリ東洋大学プロチダ校でManuscript Buddhica Workshopに参加。2014年2月14日~19日、カトマンドゥで国立公文書館の梵文写本調査。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記三点の目標のうち、(B)(C)についての調査を、東インドに由来するアティシャの梵文写本の蔵書コレクションのみの調査から、カシュミールに由来する集成本二点にまで調査範囲を広げて、文物を通じた異文化交流の一端を明らかにしえた。 これは当初の年次計画に沿ったものである。特に史資料と遺品現物(文献とモノ)との両面を照合しながら同一事象を追求することによって、導出された結論の確度を担保し、それを別の類例を通じてさらに確定しえた。 たとえば、代々すぐれた翻訳師を輩出したdPyal家に伝わる梵文写本の存在が明らかになり、その由来と伝播について具体的なことまで判明した。ほかにも梵文写本の表紙頁や末尾にチベット語で書きこまれる写本所有者の名前とそれが発見された寺院などから、伝承の経路がかなり明らかになってきた。これらは当初の計画においては予想していなかった成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、(A)(B)(C)三点を軸に過去三年にわたって順次解明してきたことを、時系列に従って整理・総括して全体像を把握する。 そしてインド・チベットの文化交渉を(a)思想、(b)地理、(c)文物の各側面からそれぞれ考察する。 さらにチベット伝来梵文仏典写本研究の現状と課題を確認して、そこにおいて本研究課題の成果が貢献しうる役割を検討し、写本の解読研究と写本を用いた文化交渉史研究とが相互補完的に発展しうる可能性を模索する。そのために国内外の研究協力者を招待して研究会を開催し、今後の展開研究で予想される問題点を抽出しその対処法を講じる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
旅費及び資料購入費が想定額を下回ったため。 今年度の調査旅費に充当する。
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