2013 Fiscal Year Annual Research Report
ソ連農村ミュージカル映画の巨匠イヴァン・プイリエフ研究
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23720070
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 まさき (池田 まさき) 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (30600184)
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Keywords | ソ連 / 社会主義リアリズム / スターリン批判 / 農村共同体 / ミュージカル・コメディー / 映画 |
Research Abstract |
平成25年度は、これまでの研究を踏まえて、プイリエフの代表作である『クバン・コサック』についての学会発表を行った(日本ロシア文学会、東京大学、平成25年11月2日)。 ソヴィエト時代の映画監督イヴァン・プイリエフ(1901-1968)は、とくにスターリン期には娯楽映画に分類される一連の作品によって高い評価を得ていた。その中でも大祖国戦争後に製作された『クバン・コサック』(1949年、モスフィルム)は、戦前の作品群の流れを汲みながら、農村地帯を舞台に人々の恋愛模様が描かれるミュージカル・コメディーである。しかしながらこの作品は、その後フルシチョフによって「ラキロフカ」のレッテルを貼られたことで、スターリン時代の負のイメージを背負うことにもなった。そのため広くソ連文化を考える上でも特筆すべき作品でありながら、従来の研究の枠組みにおいて本格的な論考の対象から外れてしまっていた。 本報告では、『クバン・コサック』公開後の1952年に出版されたプイリエフについての本『人民芸術家イヴァン・プイリエフ』を元に、フルシチョフによる批判以前に、同時代人が同作品をどのように評価していたのかを明らかにしようとした。それにより、プイリエフの創作史における『クバン・コサック』を位置づけなおすとともに、この作品の到達点を再確認することができた。 また本報告では、プイリエフが戦前の作品製作から得られた経験を踏まえ、『クバン・コサック』において何を描いているかに着目した。その際に注目したのは、作中の労働の表現である。この作品は企画段階から、収穫の後の市、祝日における人々の楽しみを描くことを主眼としていたため、作中で描かれる労働と娯楽の表現のバランスは、娯楽に大きく傾いている。これは戦前の作品群が、主に労働のシーンを通じて物語が展開するのとは、性格を異にしている。
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Research Products
(1 results)