2012 Fiscal Year Research-status Report
元禄期の江戸における浮世草子及び俳諧ネットワークの研究―出版文化を基盤として―
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23720123
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Research Institution | Kogakkan University |
Principal Investigator |
速水 香織 皇學館大学, 文学部, 助手 (60556653)
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Keywords | 出版文化 / 出版ネットワーク / 浮世草子 |
Research Abstract |
上方の浮世草子が江戸板浮世草子に与えた影響の具体像について考察するため、調査を継続して行ない、現在までに得られた成果を研究論文として発表した(「近世前期文芸における大神宮と伊勢参宮」『神宮と日本文化』)。さらに、西鶴浮世草子のうち、伊勢参宮(ぬけ参り)を重要な要素として取り入れた貞享三年刊『好色五人女』巻二「情を入し樽屋物がたり」を取り上げ、本話において「ぬけ参り」が話の展開に与える効果とこれをめぐる登場人物の位置づけについて考察を進めた。その結果、主人公おせんが腰元、おせんをぬけ参りに連れ出す重要人物こさんが子おろしと設定されているが、それらの生業に対する当時の社会的な認識を基底に置いた上で「ぬけ参り」が終盤の事件を導くための大きな効果を挙げているとの知見を得た。今後この知見を論文化して公表する予定である。加えて、このような実際の事件に基づくと見られる内容の浮世草子が貞享四年から江戸でも複数出版されていることから、江戸板浮世草子の内容分析を継続し、西鶴をはじめとする上方板浮世草子との具体的な影響関係について考察する予定である。 同時に、上方において浮世草子出版に従事していた書肆と、江戸書肆との交流がより活発化する元禄期後半から宝永~正徳期にかけての出版文化の実態を究明すべく、書誌調査を継続して行なった。具体的には、上方と活発な交流が確認できる万屋清兵衛・須原屋茂兵衛・小川彦九郎他の出版物を、国文学研究資料館・国立国会図書館・東京都立中央図書館・京都大学附属図書館・京都府立総合資料館・法政大学図書館・中京大学附属図書館で調査を行なった。これにより、江戸書肆の活動をより明確に把握するとともに、上記の書肆が元禄十五年から刊行し出す前句附俳諧書についても調査を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
元禄8-10年板桃林堂作浮世草子について考察する前段階として、貞享・元禄初期に江戸で出版された浮世草子(松月堂不角作浮世草子等)について把握する必要が生じたため、その内容分析を優先したが、上方と江戸との交流の実態を考察するにあたっての調査は、概ね予定通り進行している。 貞享・元禄初期に江戸で浮世草子を成した作者は、不角をはじめ江戸で活躍した俳諧師が多数を占めており、俳諧文化の中で醸成された言語感覚及びそこで得られた情報を活用して浮世草子を執筆していたと考えられる。そこで、浮世草子及び俳諧ネットワークの実態を究明するにあたり、同時期における出版状況と上方との影響関係について調査を進めている。 また、今年度行なった元禄期後半から宝永・正徳期における江戸出版書肆の活動調査を継続して行い、出版ネットワークの上に成り立つ要素の強い前句附俳諧書の出版状況および作者と書肆との関係についての考察を進められる状態にある。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度から継続して出版書肆の調査を行なう。また、貞享・元禄期に出版された江戸板浮世草子(特に不角作浮世草子、桃林堂作浮世草子)における上方からの影響とその独自性とを考察し、当時の出版文化を基盤とした作品創作の状況を明らかにしてゆく。 さらに上記と併せ江戸前句附俳諧書の分析を進めて行く。具体的には、万屋清兵衛板俳書の収録句作者の俳諧活動をそれぞれ調査し、当時の江戸俳壇における位置づけを明確にした上で、書肆との関係について考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究課題に取り組むにあたり、必要となる諸学会・研究会出席のための旅費ならびに資料調査に係る旅費として使用する。 加えて、必要と認められる書籍購入費としても使用する予定である。
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