2011 Fiscal Year Research-status Report
近世禁裏文化圏内における入木道伝授の形成と伝授内容の推移に関する研究
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23720132
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
中村 健太郎 国文学研究資料館, 学術企画連携部, 機関研究員 (60596922)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 入木道 / 有栖川流 |
Research Abstract |
当初計画した研究内容の通り、(1)有栖川宮家における入木道伝授、(2)門跡寺院における入木道伝授、(3)禁裏への入木道伝授の各内容について調査研究を実施した。 (1)については、有栖川宮家における入木道伝授の内容について、従来の研究では不明とされてきた。しかしながら、その伝授内容について、実際の伝授状を発見し調査を実施することで、具体的な伝授内容について確認することが可能となった。また、その伝授内容が、禁裏における入木道伝授と比較すると同一の内容であることが新たに判明した。また、伝授を実施する際の儀礼についても、禁裏や宮家において厳格に行われていた事実を確認した。 (2)と(3)については、禁裏の入木道伝授に深く関与した門跡寺院のうち、妙法院、曼殊院、一乗院の各資料を調査し、禁裏の入木道伝授に深く関与した状況について確認した。特に、曼殊院良恕親王(1574―1643)と良尚親王(1623―1693)は、禁裏への入木道伝授に直接的影響を与えており、入木道伝授が禁裏に伝えられ、古今伝授と同様の伝授体系を持つに到った経緯が判明した。また、妙法院尭恭親王(1717―1765)は、有栖川宮職仁親王(1713―1769)の同母弟にあたり、入木道伝授が有栖川宮家の家伝となる契機ともいえる活動を行っていたことを解明した。 以上の調査過程で、入木道伝授と実際の運筆技法との関係についても研究対象とすべきであるとの認識するに到った。そのため、当時の執筆法を研究するために、江戸時代以来の製法を唯一伝える藤野雲平氏制作の紙巻筆や、和歌懐紙の料紙である大高檀紙などを購入し、用具用材の面から入木道伝授の影響関係を調査研究した。 また本研究内容に関連して、平成23年度書学書道史学会大会(大東文化大学)における口頭発表「近世宮廷書道における入木道伝授と有栖川流」を行い、研究成果の一部を学会に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画の通り調査を実施し、研究は順調に進展している。特に、当初解明を目的のひとつとしていた、有栖川宮家における入木道伝授と有栖川流書道の関係について、多くの研究成果を得た。研究成果の一部は、平成23年度書学書道史学会大会(大東文化大学)において、研究発表「近世宮廷書道における入木道伝受と有栖川流」として口頭発表を行った。初年度の研究の進展としては、計画段階で予測していた内容を上回る成果と考える。しかしながら、資料の紙焼き写真の作成については、本年度内で資料の絞り込みが難しく、次年度にまとめて申請し、実施することとなった。原因は、当初予定していた以上の資料の存在を確認したためである。しかしながら、次年度に継続して作業を進めることで、問題は解決する見通しである。このため、大きな計画変更は不必要で、最小限の軌道修正により、本研究の成果をあげることが可能であると判断するものである。 また調査研究の進展により、実際の書の技法面から見た入木道伝授の影響関係や、当時の用具用材の解明という、新たな研究方法についても実施することができた。当初の計画段階では想定していなかった新たな視点を研究の過程で見出し、問題をより多面的な角度から捉えることが可能となった。 以上の点から当該研究は、当初予定していた研究計画から大きく逸脱するような状況に陥ることもなく、おおむね順調に進展していると考えるものである。 なお、研究内容を広く一般社会に公開するという点においても、一般講座「宮廷の書道と有栖川御流」(徳川美術館・名古屋市蓬左文庫主催夏期講座、平成23年8月25日開催)の講師として、本研究の内容を社会に還元した。研究内容の積極的な発信という点においても、目標は達成することが出来たと考えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画の通り、今後も(1)有栖川宮家における入木道伝授、(2)門跡寺院における入木道伝授、(3)禁裏への入木道伝授の各内容について調査研究を継続する。特に(1)と(3)は、有栖川宮家に伝えられた入木道伝授と、禁裏における入木道伝授の関係について、より詳細な比較検討を実施することで、伝授内容の変遷を解明できるものと考えている。さらに、有栖川宮家における入木道伝授の内容を詳細に分析することで、伝授自体がどのような意味を持つものであったかという、本研究の本質的な問題についても、これまでの調査研究から一定の位置付けを行う。(2)についても、引き続き入木道伝授に関与した人物の特定と、伝授内容の確認を実施する。 また、当時の用具用材の使用状況についても、継続して調査研究を実施する。次年度では、特に料紙の面から、書の技法面への影響について研究を進めた。実際に、書風の変化や差異について、文字が書かれる料紙の種類にある程度関係性を指摘することが可能であることを、これまでの調査事例からすでに把握している。次年度では、大高檀紙以外の料紙について調査対象とし、入木道伝授と書の技法面との関係について考察を深める。こうした研究方法は、当該研究が目標とする、近世禁裏文化圏内における入木道伝授の実体解明に非常に大きな役割を果たすと考えられ、より説得力のある研究成果を得ることができるものと確信する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究を推進する上で、入木道伝授関係資料の撮影は必須となっている。特に、近世資料の多くは、学会未紹介の新出資料を含んでおり、それらを研究対象として考察するためには、新規の撮影や複写の用意が出来なければ、研究を推進することが大変困難な状況となると考えられる。このため、資料撮影や複写の費用は、研究費から確実に確保したい。また、地方への調査のための旅費についても同様である。特に地方への調査の際は、一度で効率的に複数の調査先を確保できるように、前年度に引き続き効率的な調査計画を立てる予定である。 また、当該研究を推進する過程で改めて重要性を認識した、当時使用された用具用材の問題や、実際の書法技術を考慮した調査研究を実施するための費用も確保したい。そのためには、筆や料紙といった消耗品を購入する費用も重要である。次年度では、特に料紙のサンプルを複数種類使用した調査研究を計画しており、この点からも、他の研究費とバランスを取りながら、効果的に研究費を使用するように努めるものである。 なお、本年度予定していた紙焼き写真費用について、該当資料の絞り込みを慎重に進める必要性が研究過程で判明したため、未使用額が発生した。そのため、次年度にまとめて使用する予定であり、当初の研究計画を大幅に変更する必要はく、順次計画通りに進めることとする。
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