2012 Fiscal Year Annual Research Report
近世禁裏文化圏内における入木道伝授の形成と伝授内容の推移に関する研究
Project/Area Number |
23720132
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
中村 健太郎 国文学研究資料館, 学術企画連携部, 機関研究員 (60596922)
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Keywords | 入木道 / 書道 / 有栖川流 / 伝授 / 巻筆 / 書風 / 筆跡 |
Research Abstract |
江戸時代に禁裏およびその文化圏内を中心に伝承された入木道伝授について、伝授内容の確立と変遷を解明する目的で本研究を実施した。研究実施計画では、有栖川宮を中心に継承されたとされる書道流儀「有栖川流」をもとに、伝授関係の資料調査を実施し、多くの関連資料を確認した。伝授内容については、段階的に4種類の伝授内容が伝承されていたことを確認した。「能書方」、「入木道灌頂」、「額字口伝」、「諷誦願文切紙」の各伝授には、神事を伴う厳重な伝授作法が存在し、特に「入木道灌頂」の伝授は最重要の伝授事項であった可能性が高いことを確認した。また、儀礼を伴う各伝授は、書式に関する事項を中心に構成されており、具体的な筆法(執筆法)は含まれていないことも判明した。従来の書道史研究では、個々の筆跡に現れる書風の類似から伝授関係を想定するという方法が主流であった。そのため、伝授関係にある師弟でそれぞれ書風が異なる事例を多く含む本研究内容は、従来の研究の方法論では解明が困難であるといえる。本研究の成果として、従来の書風分類に偏重した研究方法から脱却し、書式という観点による研究の方法を新たに提示することができたものと考える。また、従来問題とされてきた独特の書風を特徴とする「有栖川流」の筆跡を表現するにあたり、巻筆(有芯筆)と呼ばれる特殊な毛筆が用いられていたことを確認した。現在、一般的に使用されている水筆(無芯筆)では、書表現上の相違がみられることから、書道の用具用材にみられる変遷と書表現には密接な関係性が認められることを再確認した。本研究が日本の書道史研究のみに寄与するものではなく、同じ禁裏文化圏内での伝授事例(歌道における古今伝授や、神道伝授など)にも共通する問題を含んでいることを再確認するに至った。近世の禁裏文化圏内で継承された入木道伝授と、類似する他の伝授の比較研究も今後は可能となってくるであろう。
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