2013 Fiscal Year Research-status Report
中国四川省西部の同系多言語社会における地域特徴解明のための言語学的調査研究
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23720203
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Research Institution | Reitaku University |
Principal Investigator |
白井 聡子 麗澤大学, 言語研究センター, 研究員 (70372555)
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Keywords | 言語学 / 危機・少数言語 / 研究者交流(中国) / フィールドワーク / 言語地理学 / 川西民族走廊 / チベット=ビルマ語派 / チァン語支 |
Research Abstract |
中国四川省成都市において、西南民族大学チベット学科の協力を得ながら、現地調査を行った。ギャロン語ヨチ方言の語彙および文法、スタウ語マズル方言の語彙および文法を調査し、音声データを含む一次資料を収集した。また、帰国後も、ギャロン語ヨチ方言の補充的調査を、通信アプリを利用して実施した。 現地調査で収集したデータの分析を進め、地域特徴の実態の解明に取り組んだ。スタウ語マズル方言については、形容詞と名詞に関する形態的特徴を分析した。ギャロン語ヨチ方言については、形態法の分析を進め、形容詞の特徴、名詞化に関する特徴、他動詞化および自動詞化に関わる接辞の機能を分析した。その結果、ギャロン語の使役接頭辞と逆使役接頭辞の機能を明らかにすることができた。この成果は国際会議において発表したほか、現在、論文を準備中である。また、自他動詞対のリストを更新して、国立国語研究所共同研究プロジェクトにも提供し、公開準備を進めた。 また、他の研究者との討議や、学会資料、図書など二次的資料の収集も行い、昨年度までに収集した資料も含めてダパ語の分析を進めた。その結果、次のようなことを明らかにすることができた。まず、ダパ語の節連結について、日本語にもあるようなモダリティによる階層性が見られることに加えて、話し手の参与の有無が関わることを明らかにし、国際会議において発表し、論文を執筆した。また、他の言語との対照をとおして、ダパ語に見られる形容詞語幹重複形が、本質的に名詞化であることを明らかにすることができた。さらに、形容詞重複形と非重複形が述部に用いられた場合の機能差を解明した。これらの成果は国内会議において発表した。 さらに、地域特徴の地理的分布についても分析を進めた。視点表示と証拠性表示の地理的広がりについて地図を用いて分析し、国内会議において発表した。現在は、重複による名詞化について分析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
資料収集については、若干の遅れがある。現地調査以外における資料収集は順調に進んでいるものの、現地調査がやや遅れているためである。昨年度に引き続き、成都市において、西南民族大学の研究者らの協力を得ながら現地調査を実施することができた。しかし、当初、甘孜蔵族自治州ないしアバ蔵族羌族自治州において未調査の言語を対象に現地調査を実施したいと考えていたが、現地の政治情勢の影響で、入境については協力が得られなかった。ただし、成都市における研究交流の中で、未調査のグイチョン語について、協力者を見つけるめどを立てることができた。このことから、次回調査における進展が見込まれる。 現地調査や学会・文献等から収集した資料の分析、そこから地域特徴の解明を進める部分については、順調に進めることができた。視点表示と証拠性表示、節連結とモダリティ、名詞化形態論、使役化と逆使役化といった多様なテーマについて、通言語的観点から分析を進めることができた。地域特徴の分布を地図上に示した、視覚化データの作成も進んでいる。 一方で、成果公開については、当初とは進度にずれが生じた。学会発表などは計画以上に順調に実施することができたものの、独自ウェブサイトの開設準備が遅れている。これは、資料分析や学会発表、論文執筆など、公開すべき内容の充実を優先させてきたためで、最終年度には遅れを取り戻し、より充実したサイトを開設できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
成果をまとめるため、補充的現地調査を実施する。対象地域にはいまだ詳細な記述が行われていない言語/方言が多数存在している。十分な分析を行うために、一時資料の収集が必要である。対象言語については、研究計画執行上の重要性と現地情勢に鑑み、次のとおりとする。ギャロン語ヨチ方言、スタウ語マズル方言、ダパ語メト方言について、分析を行うのに必要な補充的調査を実施する。グイチョン語については、本課題では未調査であり、概要を紹介した簡単な先行研究のみが存在するため、先行研究を補充する意味で調査を実施する。調査は、インタビュー調査を中心とし、語彙、文法、テクストの資料収集を行う。録音・撮影を含む記録と、個別言語の分析・記述を並行して進める。補充的手段として、通信アプリを用いた調査も行う。 研究討議、関連図書等の二次資料収集により、現地調査で収集した資料と周辺言語を対照し、また、言語学諸理論・諸現象に照らして地域特徴の検討を進める。特に、使役化と逆使役化、動詞の形態的特徴、形容詞の名詞的形式の特徴、名詞化形態法など、これまで個別言語の記述の中で明らかにしてきた諸現象の相関を含む統合的な特徴について考察を進める。さらに、四川省西部地域におけるこれらの特徴の分布状況を示し、地域特徴の現状を総合的に明らかにする。その上で、歴史言語学的視点と総合して地域特徴の形成過程を解明する。 以上の研究で得られる個別言語の一次資料および研究成果について、アルバイトに整理を依頼し、電子データ化することで、研究協力者との共有や過去の資料との対象が容易に行えるようにするほか、ウェブサイト等で公開可能な形に整理する。また、動詞形態法、名詞化形態法などについて論文執筆を進め、学術誌において発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
成果公開のうち、ウェブサイト開設作業に遅れが生じた。これは、現地の政治状況による入域制限で収集できる資料に限界があったことに加えて、研究発表の機会が当初の予定よりも多く得られたことから、そこでの研究討議を経て研究成果をより充実させることを優先したためである。そのため、ウェブサイト用データを保存するためのメディア等の物品費、データ整理アルバイトの人件費について、年度内に使用できない状況が生じた。 成果を広く公開するために、ウェブサイト開設作業を行う。データ整理アルバイトを依頼し、人件費を支出する。また、データの保存・整理に必要なメディア等の物品を購入する。
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