2011 Fiscal Year Research-status Report
中国農村部における社会保障についての文化人類学的研究
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23720417
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川口 幸大 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60455235)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 中国 / 広東 / 広州 / 珠江デルタ / 社会保障 |
Research Abstract |
本研究では、中国農村部において導入されつつある年金や医療保険といった社会保障の現状と問題点を人類学的明らかにすることを目的としており、平成23年度は下記の通りの実績を上げた。 第一に、国内における文献調査として、当該分野に関して豊富な研究実績のある日本および欧米諸国の先行研究を広範に収集して整理し、かつ国内で入手できる中国共産党の機関誌や新聞を閲覧し、党の政策についての概括的なデータを得た。それによって、諸外国に比べ中国では経済発展の段階よりも少子高齢化の速度が上回っていること、社会保障を家族が担うという価値眼が強く、年金・医療保険・介護福祉施設等の整備はその途につきはじめたばかりだという状況が明らかになった。 第二に、夏期休暇期間を利用して、広東省広州市の農村部においてフィールド調査を行い、現在導入され始めている年金や医療保険などの社会保障について、一般の住民たちと村の幹部からの聞き取りによって、その実施状況についての具体的な情報を収集した。それによって、広州の農村部では60歳以上の農村戸籍者に1年前から年金が支給されており、標準的な生活を営むことのできる支給額ではあるが、財源は地方政府の拠出による部分が大きいため、地域ごと、村ごとに開きがあることが明らかになった。また介護福祉施設については、各地で建設が進んでいるものの、その利用には当人と家族双方に少なからぬ抵抗感があり、家族内で軋轢が生じているケースが見られることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画していた文献調査、およびフィールドでの予備的な調査をほぼ予定通り遂行できた。 文献調査では、欧米と日本における当該分野の先行研究が豊富に存在し、それらをほぼ体系的に収集し、リサーチを行うことができた。また中国に関するものについては、数は多くはないものの、やはり網羅的に集めて読み込むことができた。それによって、実績の概要で記したとおりの成果を得ることができた。 フィールド調査に関しても、夏期に予定通り遂行することができ、そこでの聞き取りも順調に行えた。その結果、実績の概要で記したように、当初の計画通りの予備的な情報を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の中心とするのも文献調査とフィールドワークであるが、初年度の成果を踏まえて、それらをさらに深化させ、より具体的で詳細な情報の収集に努める。また、研究の進展にあわせて、その成果の公開もより積極的に行う。具体的な推進法策は以下の通りである。 第一に、広東省・広州市・番禺区の各行政レベルの檔案館(文書資料館)において、集中的に文献調査を行う。具体的には党機関誌と政策文書を閲覧・複写し、社会保障について政策面での情報を収集し、トップ・ダウンの政策が地方レベルにおいてどのように受容され、施行されようとしているのかを明らかにする。第二に、村落における社会保障についての現地調査を進める。具体的には、高齢者が暮らす世帯を訪問して聞き取りを行い、また医療・福祉施設を訪問して、利用者にインタビューを行う。これに加えて、社会保障の歴史的変遷についての情報を得るため、20世紀初頭から人民公社時代の医療・老人ケアや生活保障について年配者に聞き取りを行う。 第三に、申請者がメンバーとなっている国立民族学博物館の機関研究「中国における家族・民族・国家ディスコースの生成と実態――グローバルな視点から」(代表:韓敏)を中心的な場として、研究成果を公開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
中国での調査を二回予定しており、8月の現地調査に350,000円、3月の文献調査に250,000円を使用する。成果公開ための翻訳の謝金として50,000円。物品費としては、社会保障関連書籍を20冊購入で100,000円、現地調査に使用するデジタルカメラ30,000円、文具(ファイル、ノート、筆記用具)10点で20,000円を使用する予定である。
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