2011 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国の社会・文化的「周縁」における暴力や痛みに関する文化人類学的研究
Project/Area Number |
23720430
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
中村 寛 多摩美術大学, 造形表現学部, 講師 (50512737)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 周縁 / 暴力 / 痛苦 / アメリカ社会 |
Research Abstract |
本研究は、アメリカ国内の社会・文化的「周縁(margin)」に着目し、そこでの語りや対話、価値や制度の再構築のプロセスを明らかにするという全体構想のもとで行われている。一年目である平成23年度は、第一に、研究代表者がこれまでに独自のネットワークを築いてきたニューヨークのアフリカ系アメリカ人ムスリム・コミュニティにおいて、非イスラーム組織と連携しようとする取り組みについての資料収集および参与観察を行った。またその際には、ハーレムに在住しニューヨークでフィールドワークを重ねている社会学者テリー・ウィリアムズと意見交換の機会を持ち、アメリカ社会および日本社会の都市における諸問題の比較について議論を行い、都市を捉える際のいくつかの概念について再考する機会を得た。第二に、8月には、フロリダ州、ルイジアナ州、オクラホマ州などにおけるセミノール・コミュニティをはじめとした先住民コミュニティを訪ね、資料収集および予備的調査を行った。この調査は黒人コミュニティと先住民コミュニティとの関係を捉えるためのものだったが、現地の先住民たちの表象の場(先住民博物館やギャラリーなど)や生活の場、およびその周辺を訪れることで、先住民たちが現地で生み出す表現や語りに加え、先住民と非先住民との関係についても捉え直す機会を得ることができた。第三に、ロサンジェルスにおいて、ムスリム・コミュニティを中心に知り合うことのできた人びとのネットワークを頼りに、ニューヨークとの比較を進め、とりわけ都市の諸問題に関しての参与観察を行った。またニューヨーク出身でロサンジェルス在住のムスリムの若手映像作家と意見交換を行い、都市の比較やムスリム・コミュニティの比較について議論を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目は、中心的なフィールドであるニューヨークで調査を進めると同時に、より広い視野での比較を行うため、可能な限りアメリカ社会の全景把握を試みた。そのため、「周縁」というテーマを念頭に、ニューヨーク以外の地域にできるだけ足を伸ばし、先住民コミュニティやムスリム・コミュニティなどでフィールドワークを行うことにした。こうした探求は、「研究の目的」において挙げた宮本常一や鶴見良行の仕事を念頭に置いてのことで、フィールドワークを通じて諸問題を捉え直す試みだった。その際、先住民コミュニティにおいて注目したのは、黒人と先住民との関係であり、とりわけ「ブラック・セミノール」や「マルーン」が先住民によってどのように語られるのかに着目することができた。その意味では一年目の研究は、示唆的であり意義深いものだったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、ニューヨークにおいてさらなるフィールドワークを重ねると同時に、その他の場所――テキサス州、ニューメキシコ州など――にも足を伸ばし、資料収集および参与観察を行いたい。ニューヨークにおいては、ムスリムのリーダーたちに改めてコンタクトを取り、非ムスリムとの取り組みに関して参与観察を行う。テキサスやニューメキシコにおいては、先住民たちの文化施設や博物館、ギャラリーなどを足がかりにして、非先住民コミュニティとの関係や、社会の諸問題の表象の仕方を明らかにしていきたい。また、現時点ではまだ設計中であるホームページについても、開設の手続きが取れ次第、研究成果の一部を公開していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費のうちのほとんどを海外での現地調査に使用する。残りの額は、関連図書や現地で収集する資料の購入にあてる。
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