2013 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国の社会・文化的「周縁」における暴力や痛みに関する文化人類学的研究
Project/Area Number |
23720430
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
中村 寛 多摩美術大学, 造形表現学部, 准教授 (50512737)
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Keywords | 文化人類学 / 周縁 / 暴力 / 社会的痛苦 / アメリカ社会 / 文化表現 |
Research Abstract |
本研究は、アメリカ国内の社会・文化的「周縁(margin)」に着目し、そこでの語りや対話、価値や制度の再構築のプロセスを明らかにするという全体構想のもとで行われている。一年目の研究成果、とりわけフロリダ州、ルイジアナ州、オクラホマ州での先住民コミュニティに関する調査・研究成果、そして二年目の研究成果、ニューメキシコ州サンタフェでの先住民コミュニティ調査・研究成果を踏まえ、三年目はハワイ諸島のうちモロカイ島およびハワイ島にて調査を行なった。モロカイ島では、ハラヴァ地区出身のネイティヴ・ハワイアンの先住民と知り合うことができ、彼を通じてその土地の歴史・文化を学ぶことができた。また、彼らの生活に根付くフラのあり方や彼らの食文化を支えるタロイモ畑にも触れる機会を持つことができた。ハワイ島では、コーヒー農場や火山国立公園、ミュージアムなどをフィールドワークすると同時に、電気・水・ガスなどの整っていない、「オフ・グリッド」と呼ばれる土地を買い求め、そこに自分たちの手で電気・水・ガスを用意し家を建て、畑を耕して生活する人びとを訪ねた。ニューヨークの滞在においては、ハーレムに在住しニューヨークでフィールドワークを重ねている社会学者テリー・ウィリアムズと意見交換の機会を持ち、世界規模でのゲットーの比較、先住民とアフリカ系アメリカ人の歴史的・社会的関係について、昨年に引き続き議論を行なった。また、刻一刻と進行するハーレムの再開発の現状を見てまわり、写真におさめた。さらに、すでにネットワークのあるアフリカ系アメリカ人ムスリムたちと会い、話を聞く機会を得ることができた。なお、二年目の調査の成果の一部は、「ケワへの旅――アメリカの〈周縁〉をあるく」というタイトルで、有志たちでつくった小冊子『Lost & Found――同時代とアートを切り結ぶ。』に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年目は、一、二年目の成果を踏まえ、本研究の中心的なフィールドであるニューヨークでの調査に加えて、ハワイ州モロカイ島、ハワイ島に焦点を当て、島の歴史・文化に関連する博物館や施設を訪れると同時に、ネイティヴ・ハワイアンたち生活圏を訪ね歩いた。また、とりわけハワイ島では、島に移り住んで、自分たちで持続可能な生活のあり方を模索する人びとや乱開発に反対する人びとに出会い、話を聞くことができた。ハワイ島は全体的に、環境や自然保護に対する意識が高く、オフ・グリッドのエリアで暮らす者が複数いる。また、森のなかに暮らし、乱開発と闘う者たちにも出会った。モロカイ島で出会ったネイティヴ・ハワイアンも、森の中にタロイモ畑を再生して暮らしている。こうした生き方を、ひとつの文化運動として捉えた場合、とりわけ3.11以降の日本社会のあり方を考える際の重要な参照軸になり得ることがわかってきた。こうしたことは、当初の計画にあったわけではないが、フィールドワークを重ねるうちに明らかになったことであり、「周縁」というテーマに関連する。一年目は、とりわけ「ブラック・セミノール」や「マルーン」が先住民によってどのように語られるのかに着目することができた。また二年目は、先住民たちのアート表現に多く触れ、それらの表現がどのような問題に向き合うなかでつくられたものか、その一端に触れることができた。三年目は、ハワイ先住民たちがどのように文化を語り実践するのかに迫ることができたのと同時に、ハワイの文化や環境を背景に、これからの持続可能な生のあり方を模索する実践者たちに触れることができた。その意味で三年目の研究は、示唆に富み、意義深いものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
四年目は、ニューヨークおよび、これまでに訪ねた場所のうち、ニューメキシコ州、ハワイ諸島を再訪したい。すでにネットワークを築いた人びとを再訪し、さらにフィールドワークを重ねる。平成二六年度は、海外研修で大部分の時間をアメリカ国内で過ごすため、この機会を活かして、テキサス州やアリゾナ州などの先住民コミュニティも訪ね、先住民たちの文化施設や博物館、ギャラリーなどを足がかりにして、非先住民コミュニティとの関係や、社会の諸問題の表象の仕方を明らかにしたい。ニューヨークにおいては、ハーレムのさらされている急速な変化をつぶさに観察し、フィールドワークする。また、最終年度であることを踏まえ、これまでに集めた文献や資料の分析を進めると同時に、論文や学会報告の準備に時間をかけたい。すでに開設したホームページ上で、研究成果の一部を公開していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
フィールドワークの際の旅費および資料購入費が予想以上にかかったため、前倒し請求をおこなった。しかし、そのうちのいくらかが未使用分として残ったため、次年度に繰り越し、有効活用することとした。 次年度は海外研修でほとんどの時間を海外で過ごすため、研究費のうちのほとんどをコンピュータなどの物品の購入に使用する。残りの額は、謝礼金、関連図書や現地で収集する資料の購入、ホームページ設計費などにあてる。
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Research Products
(6 results)