2011 Fiscal Year Research-status Report
個人の尊厳原理のもとでの家族・親子関係の法的課題に関する多面的考察
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23730035
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Research Institution | Kinjo University |
Principal Investigator |
春名 麻季 金城大学, 社会福祉学部, 講師 (20582505)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 公法学 / 憲法 / 比較憲法 / EU法 / 家族法 |
Research Abstract |
今年は、研究課題に関連して、まず、ドイツ・EUの生殖補助医療技術の利用規制の状況について、マルクス・コツアー教授とのインタビューのために、2011年8月26日~9月5日の期間でライプチヒ大学に出張し、その期間中、ベルリン・フンボルト大学に赴きドイツ基本権論・ヨーロッパ人権論に関する資料収集を行った。その成果の一部は、(社)大学女性協会主催の2011年9月24日(金沢文化ホール)に行われた研究講演会において「迷走する親子関係と生殖補助医療―代理懐胎と法律上の『母』を中心に―」と題するテーマで報告すると共に、研究開始初年度の研究内容の成果報告として「人権論の観点での生殖補助医療技術の利用制限―人工生殖をめぐる憲法問題の一考察―」と題する論稿を金城大学紀要12号に投稿した。そこでは、日本の生殖補助医療技術の進展とその利用状況に対して提起される憲法問題が、厳しい規制をかけるドイツ・ヨーロッパの議論と非常によく似た展開を示している点が確認できる。 なお、上記以外にも、2011年憲法学界における人権総論・各論の展開を回顧する「学界回顧」(法律時報83巻13号11~18頁)を執筆・公表し、また、社会学的には女性差別の問題を提起することになるが、法制度的には男性への不利益賦課となる自賠法施行令の後遺障害別等級表別表第二の外貌醜状障害(顔の傷)についての秋田地裁平成22年12月14日判決の評釈を執筆し、2012年1月に公表した(法学教室377号別冊・判例セレクト2011[I]6頁)。 来年は、上記の研究成果を踏まえ、課題として残されている「親子」および「家族」の規律の憲法上の基本理念となる「個人の尊厳」(憲法24条2項)原理の規範内容の研究を進めると共に、比較対象としてしばしば援用されるドイツ・ヨーロッパでの「人間の尊厳」原理の内容研究を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成23年度は、主に家族・親子関係における憲法問題の確定、および立法による内容形成を必要とする領域としての家族・親子関係の確認という問題の検討を行った。それは、日本の判例、ドイツ・ヨーロッパ人権が取り上げられた判例の内容の確認を踏まえ、それらについて展開されている文献の検討から、何が、誰のどのような憲法上の権利にいかに触れるのか、および生殖保持医療技術の利用がなぜ問題になるのかの内容を考察した。ただ、時間的制約から、立法による内容形成に関してはまだ不十分になっているが、人権関連図書、憲法関連図書、家族法関連図書を購入することで日本の問題状況を明らかにすると共に、少なくとも比較対象となるドイツ基本権関連図書を購入し、その点についての研究成果の一部を学内紀要ではあるが公表するに至っている。 また、初年度として、親子・家族関係の規律にとっての憲法上の基本原理となる人権総論における「個人の尊重」原理、個人の自己決定権、個人の尊重を基礎にする平等原則、それらに基づく家族関係法についての憲法学界の動向について、広く一般的に精査し、その内容を回顧する形での原稿をも執筆し、それを公表するに至っている。一般論としてではなく、具体的な公表論文の内容確認という点で、この作業は本研究にとって有益的なものとなった。 さらに、親子・家族関係において、「個人の尊厳」とならぶ憲法原則とされる「両性の本質的平等」に関連し、現行法制における男女平等も問題となる。その点に関連して、法的には男性に不利益を課すことで女性を優遇しているような措置をとりながら、その根底には伝統的な男女性別役割分担論の考えを基礎にするような法制度としての、自賠法による顔貌醜状障害に関する金銭給付の問題についての判例の検討も行った。その判例の評釈については、一般法学雑誌に公表することができた
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、まず親子関係が子どもの誕生を前提にする事象であるということを出発点にすえて、家族や親子関係形成の場面での人間関係の多面性を確認し、それがそれぞれいかなる法的関係となるのか、どのような権利関係が成立し得る事象なのかについて検討することを目的にしている。そして、その法的関係の確認から、子ども、両親という家族構成メンバーの権利論、行為規範としての生殖補助医療技術の利用とそれに対する規制可能性、性転換法による性別変更という自己決定に対する規制の問題を取り上げるものとなる。したがって、今後の本研究は、親子・家族関係の下での個別的な課題を、「個人の尊厳」という憲法原理の下でいかに統合することができるのかの検討が必要といえる。 そこで、家族・親子関係の内容は民法の家族法によって規定されているとの出発点から、最近提起されているその内容への疑問を確認し、そこに憲法問題としての内容を見出す作業を行った結果、現行法制での家族像が、はたして本当に現実の家族・親子の実態に一致しているのかが問題となる。そこで、そもそも何が「家族」そして「親子」なのか、誰が「親」と評価されるのかについて、憲法は何も語っていないのか、語っているとすれば、それはどのようなものかを明らかにしなければならない。そのために、今後の本研究は、憲法規範として立法内容の形成のための指針としての「家族」および「親子」の概念の確認を行う。 さらに、それらの考察を踏まえ、家族・親子関係を規律する憲法規範としての「個人の尊厳」原理から、いかなる要請、個人の具体的権利が導き出せるのかを検討する。特に、ドイツ・ヨーロッパで展開されている個人のアイデンティティの権利がここでどのような機能・役割を果たすのかを検討する。そのために、文献購入とデータの整理のためのパソコンの購入(初年度ではこの点が不十分であった)、海外の研究者との交流を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の2年目の平成24年度は、初年度の研究においてまだ不十分であったの内容を深めると同時に、新たな課題へと進展することを予定している。 具体的にはまず、現行法制では一体どのような家族・親子像が導き出され、それが憲法の予定する家族・親子イメージと一致するのか、という問題を検討する。親の法律関係に連動させられる子どもの法的地位とはいかなるものか、「実親子関係」とは何を基準に考えるべきなのか、性別変更を阻害する非婚および子どもの不存在はどのような家族イメージを基礎にしているのか、それらは「個人の尊厳」原理を基礎にする憲法の予定する家族・親子像となり得るのかの検討となる。 さらに、本研究が検討の対象とする家族・親子関係の問題は、立法者にその内容形成が要請される領域となるが、その内容形成に関する研究について、初年度の研究で残されている課題、すなわち、内容形成の憲法上の根拠と限界の検討も取り上げる。平成24年度は、家族・親子関係の法律による内容形成に課せられる憲法上の限界の内容として具体的にはどのようなものが考えられるのか、憲法24条2項の「個人の尊厳」原理ははたして憲法上の限界になるのか、それとも憲法上の根拠になるのかの確認作業と同時に、そこに家族構成メンバーの権利がどのような形で具体化されうるのかの検討も行う。 上記の研究を進めるために、初年度では不十分であった日本の人権・憲法・家族法関連図書を購入すると共に、ドイツ基本権関連図書、EU人権関連図書を購入する。また、個人の集合体である生活共同体の形成を広く認めるドイツ・ヨーロッパの制度と基本権・人権の関係の研究を比較のためのも対象として取り上げ、その研究活動として、ドイツ基本権、EU人権の内容との関連性とその内容を明らかにするために、ドイツへの出張を通じた現地での研究調査を行う。
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