2012 Fiscal Year Research-status Report
個人の尊厳原理のもとでの家族・親子関係の法的課題に関する多面的考察
Project/Area Number |
23730035
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
春名 麻季 四天王寺大学, 経営学部, 講師 (20582505)
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Keywords | 憲法学 / 比較憲法 / 家族法 / ヨーロッパ人権 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度の研究成果(「人権論の観点での生殖補助医療技術の利用制限」)の研究報告を兼ねて、および今年度の研究資料の収集とその成果(「人権論から見た家族・親子制度の基底的原理について」)の報告のために、ヨーロッパ・ブリュッセルの欧州委員会とベルリン・フンボルト大学ならびに経済法科大学への出張、さらに本研究に関連する研究報告と情報収集のための国内研究会への出張を行った。さらに、本研究のための資料収集とその整理のためにノート・パソコンを、また、文献研究のための日本の憲法理論、ドイツ・ヨーロッパ基本権論に関する図書を購入した。 今年度の研究は、まさに研究の中間的なものとして、民法が定める家族・親子制度の憲法からドグマーティク上のとらえ方としての制度的基本権論の内容を中心に、日本国憲法24条の定める人権としての家族・親子関係の規律のとらえ方を検討した。そこでは、24条2項による立法での家族・親子関係の規律内容が、その原理に立脚するよう憲法上要請されている「個人の尊厳」を具体化するためにいかなる内容形成を立法者に課しているのかの検討を必要とすること、他方で、家族・親子関係は法律によって具体化されなければ憲法上の制度として保障対象が定まらず、そのためにどのような性格を持つ人権として憲法24条をとらえなければならないかを検討しなければならないことが確認できた。そのうえで、日本の憲法学は、民法上の家族・親子関係、特に一夫一婦制の法律婚主義を憲法上問題ないと考えているものの、それが憲法上許容されるにとどまるものなのか、それとも憲法上要請されているものなのかについては明確にされておらず、そのために、法律上の家族・親子関係における様々な制約も立法裁量の問題として簡単に処理されていることの問題点が明らかになった。 以上の内容は、今年度の研究成果として、論文での公表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、日本における家族・親子関係についての民法上の規定と憲法による要請内容との関係が明らかにされ、また、そこでの関係についてのドグマーティクもドイツ基本権論やヨーロッパ基本権論を参照すれば、制度的基本権論という、人権を複合的にとらえる手法により説明可能であることが確認できている。すなわち、法律で規定される内容により憲法上の人権が内容形成され、それが制度として憲法上規範複合的に保障されること、日本では民法上の一夫一婦制に基づく法律婚主義もそのようにとらえることができ、それが憲法24条の内容形成になることが明らかにされた。したがって、研究計画において本研究の2年目までに解明すべき内容の多くが、ヨーロッパ・ブリュッセル・ベルリンへの出張による研究報告により明確に自覚して展開することができたように思われる。そして、ドイツ・ヨーロッパ基本権の核心的な規範としての「人間の尊厳」原理に関する資料も入手することができた。 ただ、ここまでの研究でドグマーティク上の問題を解明したが、本来ならばそれと同時に検討すべき核となる人権内容についてはまだ十分に検討していないために、計画以上の進展を自覚的に展開しているとは考えていない。特に憲法24条2項によって立法内容が依拠すべき憲法上の原理としての「個人の尊厳」について、その規範的意味や具体的規範内容を展開できずにいる。この点は、ドグマ-ティクとしての24条の問題とは別に、憲法上の家族・親子の内容を具体的に検討していくことが必要と考えている。日本の民法による家族法の内容が憲法規範の観点からどのように説明できるのかという実体的な側面の検討も本研究の最終年度の課題としての残されたものとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2年目までの達成状況に鑑みて、上記の通り、残された課題は、家族・親子法制の実体内容に関する憲法上の評価の方法、およびその具体的展開にある。ドグマーティクとして制度的基本権論による説明が可能であるとしても、その観点からの説明と実体的内容として憲法上の家族・親子の問題とは別の次元のものととらえることが可能である点が確認されている以上、まさに後者の内容を明らかにしていかなければならない。 そこで、本研究の最終年度は、以下の2点の検討を行うことを予定している。まず、最初は、日本国憲法24条の人権としての家族・親子関係の保障の具体的な内容を明らかにすることである。憲法は、「家族」・「親子」についての定義規定をおいていない。それは、憲法が「家族」や「親子」を完全に立法者の自由裁量で決定することを容認しているとは考えられないということから、はたして伝統的に社会通念として理解されてきた従来の家族や親子をそのままの形で、すなわち民法の定める内容を憲法上のものとして受け入れることができるのかの検討になる。その際に規範的な基準となるのが「個人の尊厳」という憲法上の原理になることは、既に2年目までの研究成果として確認できている。したがって、検討課題の第2は、家族・親子制度における「個人の尊厳」原理の具体的内容になる。この点の検討には、従来の日本の憲法学説では必ずしも十分な素材が用意されているわけではないことに鑑み、ドイツ・ヨーロッパ基本権論の核心的原理となる「人間の尊厳」との比較法的な視点での研究が必要といえる。ただ、その比較法的視点での検討も、単にヨーロッパで主張されている内容をそのまま日本に受容するのではなく、日欧の法制度・法文化の違いを念頭に、日本国憲法の基底的原理としての「個人の尊厳」原理の内容の抽出という作業を行うことが必要と考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以上の研究の推進のために、日本の憲法・人権論に関する文献収集は必須のものと考える。そして、少なくとも憲法論としての検討のための家族法の内容も的確に把握するためには、憲法と民法の関係に関する文献、民法の家族関係に関する文献の購入も必要であることはいうまでもない。また、ドイツ・ヨーロッパ基本権の理論的な進展は、2009年のリスボン条約の発効以降、目覚ましいものがあり、それらの文献の購入も必要といえる。特に、ドイツ連邦憲法裁判所による基本法1条1項の「人間の尊厳」原理に関する判例法理についての理論的研究成果、ヨーロッパ人権裁判所の判例法理、欧州司法裁判所・欧州委員会の家族関係に関する理解についての文献は、本研究を進める上で購入が必須になっている。本研究最終年度では、以上のような文献をそろえるために、まず研究費を使用する予定である。 同時に、文献研究の成果は、様々な形で社会に発信していくことが必要とされている。本研究の成果は、主として論文の公表という形で行っていく予定であるが、論文公表をいきなりすることにはある種の躊躇を覚える。そこで、日本国内の研究会、主としてドイツ憲法判例研究会や憲法・公法系の研究会において、本研究の成果はまず研究報告の形で発表しようと考えている。さらに、本研究は、ドイツ・ヨーロッパ基本権を比較対象として展開することを予定していることから、最終的には比較対象となるドイツ・ヨーロッパ基本権についての正確な理解を必要とする。その確認のためには、やはり本研究の一定の成果内容を、ドイツ・ヨーロッパにおいて報告し、それを基礎にしたものを最終成果とすることを予定している。そのために、国内およびドイツ・ヨーロッパへの出張も、本研究では必要と考え、最終年度でもそのための費用を研究費として使用する予定である。
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