2012 Fiscal Year Research-status Report
現代海洋法秩序の構造変化 ―海洋管理の潮流と海洋の自由の交錯―
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23730041
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西本 健太郎 東北大学, 法学研究科, 准教授 (50600227)
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Keywords | 国際法 / 海洋法 / 海洋管理 / 海洋の自由 |
Research Abstract |
国連海洋法条約後の展開の中では、海洋をめぐる諸問題への対応が「海洋管理」(ocean management)または海洋ガバナンス(ocean governance)の文脈の中で語られることが多くなり、その強化に向けた動きが国際的にも国内的にも強まっている。「海洋の管理」は、持続的な資源利用、あるいは海洋環境の保護といった国際社会の公共的な目的のために必要とされている一方で、従来「海洋の自由」の概念と結びつけられていた国際社会の公共利益とは緊張関係にある。この緊張関係は、沿岸国の主権的権利・管轄権と他国の航行を中心とする海洋利用を共存させている排他的経済水域(EEZ)においては特に顕著に表れているということができる。 本年度の研究成果には大きく分けて二つのものがあり、一つは沿岸国による自国沿岸海域に対する権限行使(「海洋管轄権」)が歴史的に見てどのように展開し、今日の問題状況に至ったのかという歴史的な展開について、本研究の成果と研究代表者のこれまでの研究を併せる形で検討したものである。もう一つは、より本研究の主題の根幹に関わる問題として、沿岸国が有する管轄権と最近の海洋管理に関するトレンドとの関係でどのような関係にあるのかについて検討したものである。 海洋管理の概念がEEZにおける管轄権配分の議論の中に取り込まれていく際には、近年「領域化の誘惑」として議論されているような沿岸国権限の拡大を後押しする契機ともなりうる。本研究は両者のバランスの現在を国連海洋法条約における管轄権配分の成り立ちや、最近の両者の交錯事例の分析という観点から検討するものであり、海洋法秩序の大きな流れをつかむものとしての意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画としては、3年の研究期間の間に海洋管理と海洋の自由が交錯する様々な局面に関する各論的な検討を積み上げ、その上で海洋秩序全体に関わる総論的な総括を行う予定であったが、国際法学会における報告の機会を得たという外在的な理由により、総論に関する部分を先行してとりまとめることになった。このことにより各論部分の実証的検討を詰めて論文として公表する作業が残っており、また総論的な研究についてもいまだ十分であるとは考えていないが、当初の計画を上回るペースで進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は次年度が最終年度であるので、これまでの研究成果の総括に向けて研究を推進していく予定である。第一に、海洋管理と海洋自由との交錯局面に関する各論的な検討のうち、論文等具体的な研究成果としてこれまで公表していないものについては順次公表することとする。第二に、海洋管理と海洋自由の交錯の問題が海洋秩序にとってどのような意義を持っているかという総論的な問題については、各論的な検討を踏まえてさらに研究を深めて最終的な総括を行うこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費が生じた状況としては、第一に、申請時に予見していなかった事情として当該年度より所属機関を異動したために、所属機関の所在地である仙台と研究会等の開催地である東京との間の国内旅費が増加することとなった。第二に、同様に異動により所属機関の附属図書館で利用可能な図書が減少し、物品費のうち図書費として利用する額が増加した。これらについては、申請時には英文論文の校閲及び資料収集・整理のための謝金として予定していた部分を節減することによって対応した。ただ、第三に、異動に伴い教育研究環境が変化したことにより、当初予定していた海外での文献収集を行うことが困難となって実現しなかった。これらの事情により全体としてみると、結果的には海外での資料収集にかかる費用相当分が次年度使用予定の研究費として残ることになった。 次年度は国内旅費分の増加を除いて概ね当初の計画通りの予定である。ただ研究の最終年度となるが、なお海外での資料収集の必要性はあると考えているので、次年度使用予定の研究費として残った金額については、次年度研究費と合わせて海外旅費に充てるものとし、これが状況により困難である場合には図書費または国内旅費として可能な限り国内で追加的に資料を収集する費用として使用する計画である。
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Research Products
(8 results)