2011 Fiscal Year Research-status Report
国家と市場の役割の変容と市民社会:市場化する社会保障への競争法適用と非経済的価値
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23730059
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
青柳 由香 東海大学, 法学部, 講師 (60548155)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | EU / 競争法 / 社会保障 |
Research Abstract |
EUにおける社会保障分野に対する競争法の適用を題材に、以下の3つの課題を明らかにすることが、研究課題である。(1)市場化された社会保障サービスに対する競争法適用の是非の判断基準は何か、(2)いかなる行為類型が競争法上問題とされるか、(3)どのような理由があれば正当化が認められるか。以上の3つの課題は、(1)が独禁法の適用の是非、(2)が行為についての独禁法上の評価、(3)が正当化の是非という一連の独禁法の適用における論点として相互に関連する。(1)と(3)は本研究の対象が社会保障サービスであるという点にから生じる、特徴的な議論が析出された。すなわち、これまで国家が提供すると考えられてきたサービスが市場化したため、経済活動として競争法の適用対象となったものの、裁判例からは経済活動に該当するか否かの判断基準が必ずしも明確ではないことが明らかになった。また、正当化においては社会保障サービスを提供するために、社会における連帯が必要になるとして、一定の範囲において競争制限的な措置がとられることもゆるされることが明示されている。この点は他の公共サービスとは異なる取り扱いであるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、(1)市場化された社会保障サービスに対する競争法適用の是非の判断基準は何か、(2)いかなる行為類型が競争法上問題とされるか、(3)どのような理由があれば正当化が認められるかについて、EUにおける裁判例を中心に検討を行った。なお、この3つの検討事項は、競争法違反の有無の判断における検討事項と対応している。それぞれの検討事項において、他の一般的な事例と比べて、社会保障分野においてはどのような特性がみられるかも検討した。 以上の検討において、東海大学図書館が購読している裁判例に関するデータベース(Lexis, West Lawなど)、および論文のデータベース(Hein Online)等を活用することにより、判例情報および、当該裁判例に関する評釈の所在情報を得た上で、必要範囲において図書を購入するという手法をとることにより、効率的に研究を実施することができた。 このような方法を通じて、上記(1)~(3)について、およそ基本的な裁判例情報の収集・整理、および学説に関する知見を得ることができた。以上の進捗は、当初の計画通りであるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に得た裁判例および学説の状況に関する知見に基づき、さらに検討対象とする裁判例を拡大しつつ、学説の検討を通じた、理論的分析に重点を移すことを予定している。したがって、まずは、学説の検討対象のさらなる拡大が課題になる。日本で専攻分野のない研究であるので、国内に所蔵のない資料等(特に歴史研究において必要となる資料)の収集と整理にも力をいれたい。収集した資料を丹念に検討し、学説状況等を明らかにすること、分析の実施が次年度の課題となる。 また、分析の過程においては、研究計画にも記載した外国の研究者(たとえば、イギリスのオックスフォード大学Ariel Ezrachi教授や、European University InstituteのPoiares Maduro教授)らとの意見交換を実施することを予定している。これにより、最新の学説の動向を知ることが可能となる。また、英国と大陸の加盟国では社会保障に関する社会的文化ないし認識が異なっている。この点については文献研究ではかならずしも明らかにならない点であるので、意見交換を通じてお考えをうかがい、研究課題においてどのような影響をもたらしているかを検討する契機を持ちたいと考えている。 最終年度には、以上の検討を踏まえて、論文の公表および学会・研究会での報告を通じて研究成果を公表することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費の使用は主に以下の3つの目的に大別することができる。 まず第1に、文献の購入である。本年度は文献研究を中心に行うことになるので、背景資料を含め、広範に文献を収集することを予定している。 第2に、文献収集のための海外出張である。上述の通り、国内に存在しない文献の収集を実施する必要があるため、これを目的とする出張を予定している。特に多少古い文献であると日本には所蔵がなく、入手が困難であるので、このような出張が必要であると考えている。ドイツミュンヘン市に所在するマックスプランク研究所より受け入れの許可を頂いている。また、イタリアシエナ県のシエナ大学およびフィレンツェのEuropean University InstituteおよびフィレンツェにあるEUアーカイブを利用することも検討している。 第3に、意見交換のための海外出張である。前述のイギリスのオックスフォード大学Ariel Ezrachi教授や、European University InstituteのPoiares Maduro教授にお願いを予定している。この際には、あわせて文献収集も行い、効率的な研究費の使用に努めるつもりである。 第4に、研究に必要な物品の購入である。パソコンおよびスキャナー等を購入することにより、より効率的に資料を取得・整理して研究を実施したいと考えている。
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