2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730115
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
今野 正規 関西大学, 法学部, 准教授 (10454589)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 民事責任 / 不法行為 / 制裁 / フーコー / デュルケム / フォコンネ |
Research Abstract |
初年度の研究は、民事責任の制裁機能に関する基礎的考察及び次年度以降に使用する研究資料の収集を中心に実施された。具体的には、次の通りである。 第1に、従来、民事責任の制裁機能を語る際に、その消極的理解の根拠とされてきた民事責任と刑事責任の区別を、フランスの思想家ミシェル・フーコーの仮説の検討を通して相対化することを試みた。この仮説は、19世紀末に犯罪人類学によって提起された責任概念の転換が同時期の民事責任の変遷に由来する、という一見すると奇抜なものであるが、この仮説を提示するにあたり、フーコーは、19世紀末のヨーロッパにおいて、刑事責任の領域で登場した社会防衛論の枠組みに、無過失責任と同様の思考枠組みが認められることを指摘していた。初年度の研究では、こうしたフーコーの議論を19世紀末に生じた民事責任の転換と刑事責任の転換に共通性を指摘するものとして位置づけることで、従来とは異なる観点から民事責任と刑事責任の区別に検討を加えた。 第2に、民事責任が現実の社会において果たしている機能を明確にするための準備作業として、1世紀以上も前から、刑罰による威嚇が犯罪の抑止には必ずしも結びつかないこと――刑罰が加害者に作用するものではないこと――を指摘していたデュルケム及びその議論を引き継いだフォコンネによる法の社会学的・人類学的研究に関する資料、及び巨大事故の場面を中心に民事責任の制裁機能・損害回避機能の重要性を強調する近年の研究に関する資料の収集をそれぞれ実施した。これらの資料に検討を加え、民事責任の制裁機能の現代的意義を明らかにする作業は、次年度以降の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究は、フーコーの仮説の検討を通して、民事責任の制裁機能に関する従来の理論枠組みを相対化することを目的としたものであり、そうした目的については達することができたと考えている。ただし、現段階では、初年度の研究成果を公表するまでには至っておらず、今後の課題となっている。なお、初年度は、所属研究機関における在外研究期間と重なったこともあり、次年度以降に予定されていた資料収集を一部前倒しして行うことができた。以上の理由から、現段階では、おおむね研究実施計画通りに進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降の研究は、第1に、初年度の研究成果を速やかに公表できる状態にまで仕上げること、第2に、初年度に収集された関連資料に検討を加えることの2点を中心に進められる予定である。また、それらの作業と並行して、デュルケム学派に属する数少ない法学者ポール・ユヴラン及びエマニュエル・レヴィに関連する資料、デュルケム学派とは距離を置きつつも、彼らと同時期に民事責任における社会的連帯の重要性を説いたルネ・ドゥモーグに関連する資料、また近年ストラスブールを中心に進められている巨大事故の民事責任に関連する資料をそれぞれ収集し、検討を加えることが課題となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究は、エミール・デュルケムの刑罰論の検討を通じて、民事責任の制裁機能に関する従来の議論の限界について検討を加えることが課題である。研究費は、デュルケム及びデュルケム学派に関連する資料の収集を中心に使用される予定である。 なお、先述したように、初年度の段階で次年度以降に予定されていた資料収集の一部が前倒しして行われた。しかし、次年度以降の研究遂行に必要となる資料のすべてが収集されたわけではないことに加え、研究の進展に伴い、当初は想定していなかった資料についても収集し、検討を加える必要性を意識するようになっている。 そこで、次年度においては、研究費を有効に活用すべく、収集及び検討の対象となる資料の範囲を拡大し、研究のさらなる深化につなげていきたい。
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Research Products
(2 results)